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桜のお披露目

 案の定、ユリアは『こいつ、バカなのかしら?』といった顔をしているし、リュートはと言うと、何と言うか(無)だ。

 言葉も発しないし、無表情だし、目は笑ってないしでって、何で抱き締められている私が知っているかと言うと、理由は簡単。

 首だけ少し動かして上を向いたから。振り返りながら見上げる感じになっている私の視線に気付いたのか、今まで無言で無表情だったリュートは、途端に笑顔になり、『どうしたの?…ああ、桜は心配要らないからね』等と言ってくる。

 けど、絶対に私が心配している内容と、リュートが考えている内容は違うから。


「……あ…」


 ミーナと名乗った令嬢はそれだけ発すると、黙り混んでしまった。

 どうしなのだろうか?


「……どうやら理解した見たいね。…あの締まりのない顔と来たら、付き合いの長い私だって初めて見るわ。…誰かが入り込む余地なんて無いのよ、初めからね。あんな顔、貴女じゃさせれないでしょう?」


 果たしてユリアは何の事を言っているのか?

 勿論、誰をさして言っているのかは私にも解るが…。


「………」


 先程迄烈火のごとく怒っていた令嬢が、意気消沈している姿は何とも複雑だった。

 その令嬢は、そのまま黙って行ってしまう。

 いや、正確にはリュートとユリアに挨拶をしていったのだから、あんなにショックを受けているのに立派と言えるかもしれない。


「全く、何なんだ?…」


 リュートは私の頭に顎を乗せる様な体勢でそんな事を言っているが、出来ればもう離れて欲しい。


「何だも何も無いでしょう?…全く貴方がそつなく行動しないから、私の可愛い桜にまで被害が出そうになっているんじゃない、しっかりして欲しいわね」


「誰がお前のだ…桜は俺のだろう」

「いや、私は私のだからね?」


 まあ、ユリアさんのと言う甘美な響きも捨てがたいが…。

 だが、私の言葉は綺麗に流されてしまった。

 日頃は何でも拾い上げる癖に、都合が悪いことは聞かない振りをするんだから。

 いや、今はそんな事はどうでもいい。

 この妙に悪目立ちしてしまっている状況をどうにかしないと。


「ねえ、リュート。…こんな事で目立ってしまっては、リュート君に迷惑が掛からないかな?」


 リュートの腕の中から逃れると、来るっと回転してリュートの両腕を掴んで訴えた。


 此方のリュートは自業自得だから措いとくとして、可愛いリュート君にまで迷惑が掛かってしまったらとても困る。

 だって私を連れてきたのはリュート君で、きっと責任を取らせられるのはリュート君に違いない。


「リュート様……」

 何故だか、ユリアが横目で睨んでいる。


「煩い。…解っている」

 私に両腕を捕まれてても、されるがままのリュートが鋭い眼でユリアを睨み付けている。


「貴方が悪いんですからね?」


 でもユリアは気にせず意見している。

 流石だ。美形が怒ると迫力があると言う言葉を聞いたことがあるが、本当だと感じる程、今のリュートの顔は怖い。


「煩いと言っている」


 ちょっと言い過ぎだと思った桜は、背伸びし片腕はリュートの左腕を掴んだまま、右手でリュートの頬をつねった。


「女の子に使っていい言葉じゃ無いでしょう!?」


「しゃくら、痛い……」


 リュートは痛いと弱腰で抗議するもされるがままだ。


「じゃあ、もうしない?」


「………」


「リュート?…私、女の子にそんな言葉を使う男って嫌い!」


「!!!」


 つねっていた手を離して、リュートと距離を置いてユリア側に立った。


「桜!……努力するから……」


「あらあら、本当に珍しいこと。…桜、有り難う。でも大丈夫よ。だから、あの桜に叱られて落ち込んでいる男を連れて帰ってくれる?…後のことはつつがなく終わらせておくから」


「解りました…」


 桜はリュートの腕を引いて会場を後にした。

 おかしなことに、リュートは黙ってついてくる。

 でも、どこに連れていけば良いのだろうか?

 私の部屋?それとも、リュートの部屋?…まあ、彼を送っていった後に自分の部屋に帰ればいいかと思い、リュートの部屋に連れて帰る事にしたのだ。

 したのだが、部屋が解らない。カムイさんは会場に残りユリアと共に後始末をしている。

 仕方なく黙りの本人に確認する。


「リュート、リュートの部屋は何処?…教えてくれる?」


 リュートは頷き、自らの足で部屋まで歩きだした。

 だから手を離そうとしたのだが、そこは力強く握り返してきて離さない。

 諦めて繋がれたまま、何故か着いていく形になっている状況に疑問を持ちながらも黙って着いていく。

 部屋に着いた様で、大きな扉の前について立ち止まったから、『じゃあ、私は帰るね?』と声を掛けたのだが、『まだ、帰らないで』と力なく言われてしまい、部屋まで入ってきてしまった。


 不味いんじゃないか?そう思ったが、手を離してくれないからどうする事も出来ない。

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