女嫉妬は怖いです
「ごめん………俺が悪かった。…嫉妬…………してた」
「何でリュートが嫉妬何てするのよ…それに挨拶していただけじゃない……」
間違ってたのかな?
だってマナーの授業も少しだけど受けて、此方の挨拶は学んだからそんなにおかしくない筈だけど。
「手を………触られてた」
「…?…あれ、あの挨拶はおかしな事だったの?…私もしかしてリュートに恥をかかせてた?」
「違う…桜は何も間違ってないし、彼の挨拶も間違いではない。信頼を築きたい相手にするものだからおかしくもない」
なら、何で怒られたのだろうか?
リュートらしくもなく、言葉にキレがない。
彼はもっとハッキリと伝える人の筈だけど?
「じゃあ何で?」
「だから、嫉妬してたんだ。…いくら挨拶だからって俺以外の男が桜に触って欲しくなかった」
本音を言えば、女だからって嫌なのだがそこまで言ってしまうと桜が離れていきそうだから黙った。
「……何で、リュートが嫉妬するの?」
ああ、そこからか。いや、ちゃんと伝えなかった俺が悪いんだが、桜が鈍いのはきっと気質もあるけど、育った環境のせいだろう。
秋人と名乗ったあの男のせいかと思うと腹わたが煮え繰り返る。
まあ、そのお陰で彼女に悪い害虫が付かなかったのだから、複雑なところだが、だからと言って桜を傷つけた事は許せそうもない。
きっと………こんなに惚れてるのは俺だけで、桜は俺を知り合い程度にしか認識してないだろう。
「……俺は桜が好きなんだ。…一目惚れって言ったら信じてくれるか?」
「……?……………!!!!!」
桜が言葉の意味を理解するまでかなりの時間を有してしまった。
それくらい衝撃的だったのだ。
「……あ……う……うん」
それを言うのが精一杯。
だっておかしいだろう?少しチャラい感じがするものの、彼は優しいし、何より群を抜いて美形なのだ。
女性など選り取り緑で、引く手あまただと言うのは私にだって解ったのに。
それが一目惚れ?…しかも相手が私だと言うから信じられないのだ。秋人にだって女扱いされたことなかったのに。
「いきなりで信じられないのは仕方がない事だと解ってる。…でも無かった事にはしないで欲しい。…少しずつでも信じて貰える様に努力するから」
リュートは真っ直ぐに言葉を伝えてくれたから、私もはい、と答えた。
大人ないのは私も一緒だったから。
「パーティーに戻ってくれる?…桜とダンスが踊りたいんだ」
「私…ダンスなんて踊った事ないよ?」
「大丈夫!!俺に任せてくれれば踊れるから」
「足、踏んじゃうかもよ?」
「桜に足を踏まれた位でどうってことないよ。寧ろ役得です」
「なにそれ?」
先程迄のいざこざ等無かったかのように、私達は笑い逢った。
「では、お手をどうぞ、お姫様?」
「ふふ」
私は迷わず差し出された手を取った。
重ねた手を力強く握り返してくれる。
痛くなく、でも離れないほど強く。
迂闊にもバカップル宜しく手を繋いだまま会場に入ってしまった。気付いた時には既に遅かったが、リュートがあまりにも嬉しそうにしてるから、『まあいっか』と手を振りほどく事はしなかった。
「では、踊りましょう、お姫様!」
うわ、リアル王子さまだ。
いや、確かに王子様なのだが、絵に描いたようなと言う感じ。
でも気にしたって仕方がないから、私は腹を括り楽しむ事にしたのだ。
リュートはど素人の私にも解るくらい上手で、私まで上手になったかの様にエスコートしてくれる。
任せていれば安心、そう思わせてくれた。
これはモテるわ。
「桜!上手だね!」
笑顔の彼が真近に顔を寄せて伝えて来れる。そんな行為にすら、黄色い悲鳴が聴こえてくる。
羨ましいんだろうな。なら、次に踊りたいと言えば良いではないか?
きっとダンスが終われば、礼儀として次の相手と踊るもの何でしょう?解らないけど……。
けれど予想に反して、リュートは私と踊った後、誰とも踊らなかった。
「リュート様、どうか私と!!」
勇気のある令嬢がダンスを申し込みにやってくる。
可愛らしいデザインのドレスを着て、念入りに髪を結い上げられている。
実際に彼女は可愛かった。
「すまないが、今日私は誰とも踊るつもりはない」
「な!!桜様とは踊ったでは有りませんか!?」
「何を勘違いしているかは解らないが、桜と自分が同じだとでも言うのか?」
リュートの絶対零度の冷たい言葉遣いも驚きだが、私の名前を知っていた事にも驚いた。
何故知っているのか!?
そんな事を考えていると、横から知り合いの声がする。
「ミーナ様、今日が何のために開催されたパーティーなのかはご存知かしら?」
声の主はユリアだ。
そう言えば近くにいるって言ってたっけ。
「遅いぞ、何をしてたんだ?!」
不機嫌にリュートが文句を言う。
「リュート様がずっと側に付いていて、私の仕事はないと思ったので?」
あ、これは嫌味だ。
そこは私にも理解できた。
「ぐっ……」
あ、リュートが言い負けた。
「ユリア!!綺麗だね!」
私は見たままの感想を伝えた。
彼女は深紅の体に添ったシンプルなドレスを着ていた。
あまり飾りたてないのが、余計に彼女のスタイルの良さを際立たせていた。
「有り難う、桜も可愛いわ。…連れて帰っちゃおうかしら?」
ユリアが私の顔を、ドレスと同じ色の手袋をした手で撫で上げる。
色っぽい!!!!
「ダメに決まっているだろう!?」
リュートは後ろから私を抱きしめユリアから遠ざけた。
「冗談も通じないのかしら?…随分余裕が無いのね」
「私を無視しないで!!!!!」
ミーナと呼ばれた令嬢は、蔑ろにされたと思ったのだろう、とても怒っていた。
でも、リュートは王太子様だしユリアだって位の高い貴族令嬢だった筈なのに良いのだろうか?