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お披露目と女の嫉妬

 ◇◇◇

 ドレスのデザインには、リュートが率先して意見をあげていると、ユリアに聞いて知っていた。

 だから、このドレスにはリュートの意向が過ぎるぐらい多く入っている。

 桜が今身に纏っているドレスは白に近い薄紫の生地に、濃い紫のアクセントが入った体のラインが綺麗に浮き出るマーメイドラインのドレスだった。

 紫色はリュートを掲示する色として知られている。まあ最も、桜がこの事を知るのは、これより後になるのだが……。

 色白な桜には良く似合っていて、分断にビーズが散りばめられ、動きに合わせて光るようになっていた。

 夜空を連想させるデザインのドレス。

 リュートは真逆に太陽を連想させる白を基調にしている。

 この国では、それが夫婦を連想させるデザインとして周知されているのだが、桜この国で生まれ育った訳ではない桜が知る由もなかった。


「……何だろう?…凄く見られている様な気がする。…気のせいだよね?」


 リュートにエスコートしてもらいパーティー会場に入室した桜は呟やいた。

 でもまさか、地味な自分が注目されることは有り得ないだろう。

 きっと、リュートが目立つのだ。

 悔しいけど、王子様全とした彼は文句無しに格好良かった。高い背に、程良く引き締まった体。

 そして切れ長の目にプラチナブロンドのさらさらした髪。意志の強そうなキリリとした眉は、神話の神を彷彿とさせた。


「桜が綺麗だから注目されているんですよ」


 リュートは人の気も知らないで、桜の耳元に唇を寄せると、桜にしか聞こえない声で囁いた。

 それだけで回りの女性からの嫉妬の眼が嵐のように吹雪いてくる。

 何て事をしてくれるんだ。何故無駄に敵を増やなければならないのか?


「リュート……解っていてやってます?…貴方自分がどれ程注目されていると思ってるんですか!?」

「勿論、桜は俺のパートナーだって回りの男達に教えなければならないのでね」

「そっちじゃないです。…貴方を見る他の女性の眼ですよ!!」


 全然、わかってない。

 先程から噛みつかれそうな勢いで此方を睨んでくる令嬢だっているのに。


「心配要りません。…俺の眼に映っているのは桜だけですから」


 そんな歯が浮く台詞が聞きたい訳じゃ無いんです。


「私が嫉妬で刺されたらどう責任取っ手くれるんですか!?」

「そんな事には絶対になりませんが、もし万が一指先程の傷でもつける様なら、俺が責任をとりますよ」

「別に、リュートに責任を取って貰わなくても良いので、リュート君に迷惑が掛からない様にだけしてください」


 何とも複雑そうな顔をしていたが、私の知ったことではない。

 会場の中央にまで進むと、一人の男性が挨拶に来た。

 私は大人しく下がっていたのだが、見付かり話しかけられた。


「リュート様とご一緒の、美しいご令嬢はもしや?」

「ああ」


 とだけリュートは答える。


「ではやはり、この方が運命の乙女なのですね」


 男性は一人納得した顔をすると、桜に話しかけてきた。


「私は、辺境伯、カザル・バノス。…レディ、お名前をお聞きしても?」

「桜です」


 丁寧に挨拶をしてくれたその男性は、嫌な感じは全然なく好感を持てた。


「桜様、良い名ですね…」

「有り難う御座います」


 私の手をとり、膝を曲げ手に口付ける振りをする。

 普通なら嫌悪感を持つのだろうが、イヤらしさが欠片も無かったし、降りだけだし、挨拶だと解ったから過剰反応しなかった。

 名前を誉めてくれたことは純粋に嬉しかったから、お礼を言ったのだけれど、リュートは段々不機嫌になっていく。

 リュートとの回りだけ吹雪いている。

 だが、表情だけは満面の笑みだ。

 それが余計怖い。


「……何で怒ってるの?」


 リュートの袖を引き小声で聞いたが、なかなか答えてくれない。

 こんなリュートは初めてだ。


「…桜は俺に怒られる事をしたの?」

「してないと思う…」

「そう…なら気のせいだよ」


 空気が凍っているのは相変わらずだった。

 訳が解らない。

 やり取りを黙って見ていた男性は、さりげなくフォローしてくれる。


「…珍しいものを見せて頂きました。…リュート様でも嫉妬するんですね。…」

「………」


 リュートは無言を貫いているから、私が失礼だと思い返答した。


「リュートが嫉妬するなんて、有り得ませんよ。…私達はそんな関係じゃないんですから」

「えっ?………」


 驚いた顔をするリュートだったが、それ以上何も言わなかった。

 誤解されてはリュートに申し訳ない。

 彼は仕事でエスコートしてくれているだけなのだから。


「私はこれで失礼します。…私には場違いなようですから。では、失礼します」


 頭を下げて私は回れ右して元来た道を戻った。

 きっと私が何かマナー的な事で失敗したのだろう。

 なら、私が退出すれば機嫌が直る筈だ。


「待って、桜!」


 リュートが声を掛けてくるけど、止まるつもりはない。

 そもそも来たくて来た訳じゃないし、出席してくれとしか言われてないから義理は果たしただろう。

 私が中通路を通り、部屋まで帰ろうとすると、突然暗闇で腕を捕まれた。


「きゃあ!!」

 驚いて悲鳴をあげてしまう。


「桜!、俺だ!!」


 何と途中でリュートが追い掛けてきたのだ。

 追いかけてくるまで時間が掛かっていたから、来ないと思い込んでたので、予想できずに驚いてしまった。

 だって、何も言わずに腕を掴む方が悪い。


「離して!!」


 腕を振り払う。

 リュートはショックを受けた顔で振り払われた自分の手を黙って見つめている。

 悪い事をしたかな、とは少し思ったけど謝る気にならなかった。


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