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2人で乗り越えて行くもの

 昨日はずっと会いたくて、でも会ったら辛いと思い込んでいた人が私を探し出して遠い所まで会いに来てくれたことに心から安堵して……何時もより深い眠りについていた。

 最近はずっと見ていた夢でさえ見そうもない。


 だけど………桜は何だか擽ったい感覚に、あれおかしいな?と思いながら深い睡眠から意識と感覚を浮上させていく。

 くすぐったいような、何か変な感じだ。


 目を開けると日は昇ったばかりだろうか、少しの薄暗さを残しながら、確かに朝だと自覚した。

 擽ったい首元を見ると可愛い寝顔が飛び込んできた。

 寝顔の主は、小さな姿になったリュート君。

 私の首元に顔を寄せて短い手で精一杯抱きついていた。


「可愛い……」


 子供が出来たらこんな感じなのだろうか?

 それにしても寝顔が天使だ。

 出会った当初のリュート君を想い起こさせる。

 頭を撫でながら、柔らかい毛を堪能する。猫みたいだ。

 だからといってずっとこんな事をしてられないから、起きようとするけれど、リュート君の手は離れない。思いの外強く握りしめられた手の強さ、無理やり剥がすのも憚られ、さてどうしたものかと考えてしまう。

 ちょっとの間格闘していると、リュート君が目を覚まして片手で目を擦っている。


「桜?……もう起きるの?…」


 未だ眠いのだろう、うとうとしながらベットの上でお座りする姿はちょっと可愛すぎる。

 見た目が悪い。

 この子は大人、そう自分に言い聞かせるけれど上手くいかない。


「うん、仕事しなくちゃね。リュート君は未だ寝てても良いよ?」

「いや、桜が起きるなら俺も起きるよ。君を一人では行かせられない」

「大丈夫?…何ならバードさんに一緒にいてもらっても……」

「駄目に決まってるだろ⁉俺が居るのに他の男を桜の側に置く訳無いだろ!絶対にだめだ‼…」


 リュートは急に覚醒したかのように今までに無い位怒り出した。

 どうやらそれ程、桜の側に自分以外の男がいる事に我慢ならないのだろう。

 嫉妬心を隠そうとしない姿に内心、それ程愛してくれているのだと思うと嬉しくも感じるのだが、そこは表情に出さない様にする。


「だって、今まで一緒にいてくれたのはバードさんだよ?」


 ちょっと意地悪だったかな?とは思ったが、少しだけムッとしてしまったから仕方が無い。


「それは‼…ごめん……なさい。俺が悪かった……」


 急にシュンとして、見るからに落ち込んでいる。

 その顔で、その姿で、その表情をされると全てを許してしまいたくなる。現に彼は追いかけて来てくれた。

 片意地張っていては駄目ね……。

 つい、リュート相手だと遠慮がなくなってしまう。

 1番大切にしたい相手だというのに、心は自由なようで、自分自身でもコントロールが効かない時がある。



「私の方こそごめんなさい。リュートが一緒だととても嬉しいの。でも、迷惑じゃない?…疲れてない?」

「‼…桜と一緒にいて疲れることなんてない‼」


 犬の耳と尻尾が見えそうなほど喜んでいる。

 犬というより猫?…それとも狼かしら?…。


「じゃあ、支度をして朝ご飯を食べましょうか?」

「うん‼…久しぶりに桜のご飯が食べられる‼」


 ピョンっとベットから跳ね起きるとリュートは着ていた(私のシャツ)服をバッと脱ぐと昨日バードさんが、どこからか調達してくれた子供服に着替えた。


 食事を終えると病院の食堂に向かい入院患者さん達のご飯を作る。リュートが側にいてくれるからか、昨日よりもずっと丁寧で、心を込めて料理する事ができた。一生懸命慣れないながらも手伝ってくれる姿は男の子の母親になったらこんな感じなのかしら?と空想も捗ってしまう。

 私だって、リュートとの将来を考えているのだ。


 後片付を終えて一緒に用意された部屋に帰ろうとした時だった。


 バンっという騒々しい音と共にドアが勢い良く開いた。咄嗟にリュートは桜の前に出て庇った。(不謹慎だが、小さなナイトみたいでとっても可愛い)


「桜様はいらっしゃいますか⁉」

「私ですが、どうしましたか?」


 条件反射で答えてしまうと、尚の事リュートは警戒心を強めてその小さな背中で桜を守ろうとした。


「貴様は何者だ⁉」


 リュートは小さな姿には似つかわしくない言葉遣いに、威嚇を込めて睨みつけている。


「そなたこそ何者だ⁉…私は急いでいるのだ!…そこをどいて貰おう!」


 リュートを力任せに退かそうとするから流石の桜も頭にきてしまった。


「彼に触らないで‼…彼に乱暴するなら、私が許さないから‼」

「桜様‼……申し訳御座いません。何も致しませんから、どうか私の妻をお救いください」

「お救いくださいって、私は医者では無いんですよ⁉」

「桜様は聖女様でいらっしゃいます‼…貴女様がお作りになった料理を食べた者は全員驚異の回復力で皆治っているのです!」

「私の力ではありません!……」

「後生ですから、どうか一緒に来てはくださいませんか⁉」


 桜は何もできないとは思いつつも、何か少しでも助けになればと一緒についていく事にした。

 リュートは納得がいかないらしくずっとぶすっとした顔をしている。

『桜は優しすぎるんだ……』とか何とかぶつくさ言っているが、それでも一緒についてきてくれた。

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