リュート君になったわけ
「久し振りにちっちゃいリュート君に会えて私は嬉しいけど、どうしてその姿になったのか聞いても良い?」
大人の姿で再会していたなら、きっともっとギクシャクしていた。
意地だって張っていたと思うし………浮気じゃ無くても隠し事だけで許せなくなっていたかもしれない。
それが例え私の為だとしても、話して欲しかったし、相談して欲しかったと思う気持ちは止められない。
でも、小さなリュート君の前なら片意地はらずに済む。
だから、聞きたいことが聞ける。
「……女神が邪魔して、大人の姿では桜の側に来れなかった。唯一の例外が子供の姿だったんだ」
隣り合わせで腰掛けたベットの上で、異世界らしい事を言うリュートに、この世界に慣れて来たとは言え桜は流石に驚いてしまった。
「桜を傷つけたから、桜の側には居させないって……」
子供の姿で、子犬が叱られたあとみたいにしょげているリュート君にちょっと、いやかなり母性本能がくすぐられてしまう。
「傷ついてなんて………ねえ?…リュート君、王女様を側室に迎えるの?」
完全には無いなんて言えなくて、散々迷っていた一番の痼を確認することにした。
だって、どうしたって私はリュートが好きなんだから心に蟠りは感じて過ごしたくはない。
「なっ‼…そんなわけないだろ⁉俺の妻は生涯桜ただ一人だ‼」
心外だとばかりに力強く否定されて、荒れていた心が少しだけ癒される。
最初から遠慮等せず、もっと2人で話せばよかったのだ。
「じゃあどうして王太子妃宮殿に彼女を迎え入れたの?」
「弟の母親が勝手に王女を迎えると約束をしていた。勿論俺ではなく、弟の婚約者としてだけど。まあ、当初のあの女の目論見は無くなった訳だけど、だからといって一旦決まった話を反故にしたのはこちらで、既に国を発って出てきている王女を城にも入れずには帰せない。かといって警備の問題もあって下手な場所では難しかった、その点王太子妃宮殿は警備が万全で、しかも俺が桜から離れたくないからと、一緒に暮らしていたから、宮殿は使っていない。なら良いだろう?という臣下の声を抑えきれなかった。宮殿の主である桜に了解を取った方が良いとカムイには言われていたけれど、俺は、桜としか結婚するつもりはないし………今後も王太子妃宮殿を使わせるつもりはないし、無駄な心配かけたくないから黙ってた」
下を向きながら、隣のリュート君は手のひらを握り締めている。
「でも、私は言って欲しかった。私は………貴方の何なの?妻じゃないのってそう思ったわ」
「ごめん…………大事に仕方を間違えてた」
リュート自身今なら間違っていたとわかる。
夫婦になっていくには、話し合う事が大事なのだ。今までずっと一人で決めていたリュートに、一番欠けていた能力だった。
「私もちゃんと聞くべきだったの………ごめんなさい。まだ私はリュートの側にいても良いのかな………」
「当たり前だろう⁉嫌だって言われても手放す気なん無いからな!」
どちらとともなく顔が近付いていく。
ちょっとリュート君の容姿に罪悪感が無いわけでは無いけれど、愛しいリュートな事に違いは無いのだからと、そっと口付けた。
するとリュート君だった小さな男の子から、愛した1人の男性である、美しい青年の姿のリュートに戻った。何て、ファンタジーな‼…と思ったけれど、そこは嬉しいから触れずに、久し振りの感覚に二人は酔って行った。
唇で触れ合い、最後の一線を越えようとしたとき………ポンッと子供の姿に戻ってしまった。
「それはないだろう⁉」
リュートは声にならない悲痛な声をあげたけれど、私はちょっと笑ってしまった。
リュート君は『あの意地悪女神め、絶対にわざとだ。俺を弄んでいるんだ。男の純情を返せ………』等とブツブツ文句を言っている。
その間に桜は身支度を整えると何時までも不貞腐れている目の前の美少年に優しく語りかけた。
「ほら、明日も早いから寝ようよ……今の姿なら腕枕してあげるよ?」
「………寝る………」
リュート君は、約得とばかりに桜の胸に顔を挟んで柔らかさを堪能し、谷間に顔を埋めて天使の笑顔を浮かべている。
「ちょっと複雑だわ」
胸元にいるリュートに何だか複雑な桜が呟く。
まあ、これで寝間着のボタンを外されていたら流石に止めていた。
相手は大人だけれど、見た目の人道的によろしくない。
「これくらいのご褒美を貰えなくちゃ、俺はいじける」
ちょっとはっちゃけたのか、前よりもずっと砕けた表情と言動のリュートに、何だか壁が1つ無くなったようで、桜は何も言えなくなった。
取り繕い、カッコいい姿だけを見せられるより、自分だけに見せてくれる表情の方が断然嬉しいのだと初めて知った。
両想いになれたのも、こんな近くに感じる異性もリュートが初めてなのだ。
辛い片思いは知っているが、同じ様に求めてもらえる、自分の中で安心して気を許して貰える嬉しさは何物にも代え難い。
「はいはい、もう寝ましょうね?」
桜はそう言ってリュートの額に優しく口付けた。




