~第零話〈前世の終わり〉~
初投稿ゆえ、誤字脱字、読みにくいなどあると思います。
ただ戦国時代が好きで書いてみたかったという、未だ中二病残る作者ですが、お付き合いいただければ幸いです。
「うっ……う……おじいちゃんッ!」
「…やだよー、じぃじー!」
一人の患者のためにはあまりにも広すぎる病室に、ベッドに横たわる老人を囲むように十数人の親族が悲痛の顔を浮かべており、悲しみの言葉があふれていた。
しかし対照にその老人は満足そうな笑みを浮かべている。
「泣くでない。わしはもう十分生きた。」
一番近くにいた孫娘の頭を撫でながら、わしは努めて元気な声をあげた。咽び泣く愛しい家族の前で、最後まで毅然とした態度を見せるのが、一家の主としての責務なのだ、と。
そう、わしこと、京極晴英は、今まさに天寿を全うしようとしていた。だがそこに悲壮感はない。愛しい家族を残すのは残念でならないがこれも先に生まれた者の宿命なのだ。
この歳まで生きたが何と素晴らしい人生だったか。
夢見がちな田舎者が上京し、理想と現実に苦しみ、何度も人生のどん底を経験しながら、それでも必死に這い上がり、今や日ノ本を代表する財閥を作り上げた。
愛する妻とも運命的な出会いをし、こんなにも可愛いらしい子供や孫ができた。
そして今、その子らに見送られながら新たな旅立ちを迎えようとしている。
ああ、なんと幸せなことか。
「わが息子よ、京極財閥の行く末はお前にかかっておる!良き仲間と共にこれからを歩むのだぞ。」
「…っ!……わかってるさ、じいちゃん。」
「ならば、その涙を見せるのはわしが最後じゃ。人の上に立つ者、いついかなる時も弱い姿勢を見せてはならん。」
くっ、と息子は涙を拭い、もちろんだと言いたげな笑顔を見せた。つられてこちらも笑顔で頷く。
「わが娘よ、お前の兄はまだまだ未熟だ。夫と共にこれからも支えてやってくれ。」
こちらは溢れる涙を必死に抑えるためか、返事はしなかったが笑顔を見せ頷いた。そんなこと言われなくても分かってるのよ?、という意味を込めて。さすが、ばあさんの子だ。
「愛しい孫たちよ、お主らは日ノ本の、世界の未来となろう。己が信ずる道を往け!それが幸せにつながるであろう。」
おそらくわしの言葉の意味は理解していないだろう。だがわしの最期の言葉だというとこは理解してくれている。孫たちは泣きじゃくりながら頷いてくれた。聡明な孫らよ、安心して逝けるわい。
「お主らを見て安心したわい。これで、心置き無く逝ける…。みな、幸せに…なる………のじゃ………ぞ………………」
全身から力が抜けていくのが分かる。子ども達が何やら言っておるがもう耳に入ることはない。幸せな脱力感とも言うべきか。そんな比喩しがたい感覚に浸りながらゆっくりと真っ暗闇に包まれていく。
ああ、ばあさんや。随分待たせたのう。
今そちらに―――――――――君の元へいくよ。
うーーーむ、随分と闇が続くのう。
あれからどれくらい経ったか?感動的な別れのあと、パーッと光が広がり極楽浄土からのお出迎えがくる、なんてメルヘンチックイベントを期待したんだが、一向に何も起きない。
しかも意識はそのままとな。はてどうしたものか………
むむむ、としばらく考えていると、突如全身が何かに包まれている感覚を得た。あまりにも急なことにびっくりし眼を開けて(開けたつもりで)周りを見るが相も変わらずの真っ暗である。
光がないのがこれほどまでに不安にさせるとはの、と内心穏やかではない中、徐々に締め付けが強くなっていくのを感じていた。
このままではまずいと体を動かそうにも言うことを聞いてくれない。締め付けは容赦なくどんどん強くなっていき、気分も悪くなってきていた。
ここが死後の世界とでもいうのか。
ふん!笑えもせん。
せっかく幸せな人生を締めくくったというのに訳もわからないことでじたばたさせられるとは。そう考えると少し腹が立ってきたがここは冷静にならんとな。
どうせ何も出来ん。身を任せるしかあるまい。
そう思い、体の力を抜いたとき目の前に光が差し込んできた。
眩しい。としか思えなかったが光が見えてから不思議と締め付けを感じなくなり、温かい気持ちになっていった………