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おっさんは、異世界で貴族に転生した。属性はマザコン?(仮)  作者: 多田野風太
6章 王都に行くのに戦の準備?
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74 王城にて

遅れてすいません。

確認不足等で不具合あるかもしれませんが、お許しください。



 十二月は王都も新年を迎える準備で忙しくなり、人通りも多くなる。


 平年なら秋の収穫により食料も豊富で物価も下がるのだが、今年は先のスタンピートの影響で穀物や資材の価格が高騰しているため、全体的に物価も押し上げられている。


 さらに悪いことに帝国侵攻の噂も流れており王都の賑わいは例年に比べると少し抑えられていた。


 それでも新年を迎えるために、嬉々として準備を行なう市民たち。娯楽の少ないこの世界で苦難を乗り越え、それでも一生懸命生き、楽しもうとする庶民の活力は大きかった。


 王都の上級貴族が住まう一角の道を、黒塗りに金細工の施された豪奢な六頭立て、六人乗りの馬車が王城に向かい走行している。その中には豪奢なドレスと豪奢な礼服に身を包み、いたる所に装飾品をつけた、不機嫌そうな南辺境伯夫婦が乗っていた。


 王都に到着するとあの忌々しいシュタート男爵が英雄扱いされていた。夫の方のカールハインツなのだが関係ない。苦虫を噛み潰したような顔でカーリン辺境伯がのたまう。


「ホントに忌々しいわ。あいつはいつもわたくしの邪魔をする。学園の競技会の時も。春の発表会の時も、私の前にはあの忌々しいローゼマリーが立ちふさがる。今回もしっかり準備をしてことに臨んだはずなのに、結局シュタート家に名を成さしめるなんて…くぅー悔しくて夜も眠れないわ。」


「そんなにカリカリするな。これから女王に謁見するのだぞ。冷静に対応せずにどうする。此度の一連の騒動が我々の責任であり、キュプフェルトへの妨害工作もばれておるのだぞ。」


 何度聞いたかもわからない妻の愚痴に辟易しながら、夫のホルガ―男爵は妻をたしなめる。


 何処から漏れたのか、裏で動いていたことを女王陛下にかなり知られてしまっていた。派閥の協力者や王都のギルドマスターにも手が回っているみたいで、派閥内で各々が戦々恐々としている。


「そんなに気にすることはありませんわ。南派閥を切ることなんて、できないのですから…砂糖、スパイス、ガラス、工芸品、武器、魔道具どれも重要な共和国との交易品ですよ。我が領を通してしか手に入らないものばかり。交易封鎖してしまえば王国が立ち行かなくなります。武力で抑え込もうとしても、年明けには帝国軍を皇帝自ら動かすのですから心配いらないと言ったのはあなたですよ!」


「それはそうなのだが、できるだけ北派閥や女王一派に悟らせてはならんのだ。それに我々の目的はバルトロメウスをリーゼロッテの夫にして王国を専横することだ。できるだけ武力衝突は避けねばならん。」


「分っておりますとも。大事なバルトの将来がかかっているのです。下手なことはしません。」


 そのような話をしていると馬車は王城に着いた。


 近衛騎士の案内で謁見の間に到着する。


 謁見の間に入ると各尚書や騎士団長が整列している。


 玉座の前まで進み、暫く待つと侍従の声が高らかと響く。


「女王陛下のおなーりー」


 それに合わせて南辺境伯夫婦は玉座の前に跪く。


 玉座の後ろの扉が開き、人の気配がすると玉座に座る。


「カーリン・フォン・レンメル・ガイエス辺境伯及び夫のホルガ―・フォン・レンメル男爵。両名とも面をあげよ。」


 宰相の声に従って少し顔を上げる。


「この度、呼び出したのは他でもない。先の魔物のスタンピートに関することである。申し開きがあるのなら申してみよ。」


「恐れながらこの度のことは、獣王の森に民を思う我が息子バルトロメウスが領民の為、魔物の間引きに向かったことが発端です。運悪く獣王に襲われて辛くも九死に一生を得ましたが、相手は何せ魔物のこと、猛り狂ってスタンピートを起こしたのであります。我が領も甚大なる被害を受け、領民や領兵にも多大な被害が出ております。民を思う愚息の哀れな思いが事の発端でありますれば、女王陛下には何卒御寛大なる処置をお願いしたく存じます。」


 平身低頭で弁解をするカーリン辺境伯だがあくまで民思いの息子が、不意に襲われた天災で、自分たちは被害者だと言ってのける。


「あくまで魔物による天災であり、被害者であると申すか?」


「はっはーさようでございます。」


「では聞くが第一師団長と画策して早期に魔物討伐を行なわなかったのはなぜじゃ?」


 妻に代わって夫のホルガ―男爵が喋り出す。


「滅相もございません。王都の第一師団には早急に被害状況や魔物の侵攻状況は報告しておりました。第一師団長がそれを握りつぶしていたとなれば、それは軍務尚書の監督責任であると愚考いたします。」


「何を儂に責任をなすりつけるのか!」


 烈火のごとく怒り狂って軍務尚書が怒鳴り散らす。


「静かにせい!御前であるぞ!」


「「はっはー」」


 それを一括で黙らせる宰相に、女王陛下を前に頭を垂れる二人の貴族。


 宰相からの質疑は続く。


「では、話を変えるが王都のギルドマスターがキュプフェルト周辺の被害状況とキュプナー子爵からの救援要請を握りつぶしていたのはなぜじゃ?」


「滅相もございません。我々はガイエス領の魔物対策を手紙で王都ギルドマスターに依頼していたにすぎません。緊急性がありましたので通常より依頼料を多くしましたが、他領の依頼に口を出すようなことも一切しておりません。ましてや冒険者ギルドは複数国で独自に運営している国際組織です。平民でありながら、時には我々貴族の要望を平気ではねつける輩達。介入などできる訳ありますまい。」


 ホルガ―男爵の口はよく回り次から次へと責任転嫁する。ギルドには口出しできぬといけしゃしゃと言ってのけた。


 更に宰相は質疑を続けた。


「キュプナー子爵が王城に援軍をもたらす使者を派遣したが、悉く暗殺された。最後には子爵本人と夫も殺されておる。その首領がホルガ―男爵、そちの命で暗殺したと申しておる。申し開きが出来るのであればしてみよ。」


「恐れながら、わたくしが命じたと申しておるのは単なる火事場泥棒ではありませぬか?宰相殿は、国家の重鎮である辺境伯家と野党のどちらの言を信用なされるのですか?ましてやキュプナー子爵はガイエス家の寄り子でございます。魔物の対応で兵力が足りなく、実際に援軍には迎えませんでしたが、火急に使者を派遣し、救援の策も論じておりました。何故我がガイエス家にそのような汚名を着せようとなされるのですか?まさか宰相の不手際を全て我がガイエス家になすりつけようと言うお心積もりではございませんな?」


「控えよ!ホルガ―男爵!宰相に無礼であろう!いかに証拠があろうとも、いかに証言があろうともそちらが認めるとは思っておらぬ。だがの、現状ではお主の愚息は死罪。ガイエス家も取り潰しは免れぬと心得よ!しかし運がよいな。ちょうど帝国が侵攻を開始しておる。ガイエス領軍及び、派閥の兵を率いて、ノルトシュタットに布陣せよ。しかし指揮権はブッケル第三師団長に預ける。勝手な行動はとらぬよう厳に通達する。この戦働きにより沙汰を決める。愚息の命と領地が掛かっているのじゃ。心してかかるがよい。」


 女王陛下自らの言葉に青くなるホルガ―男爵とガイエス辺境伯夫妻だが、最悪の想定内である。


「「この身の潔白は戦働きにより示して見せます。」」


 夫婦二人の声がそろったのだが宰相がその後付け加える。


「此度の遠征時には領主自らは王都を出ることは認めぬ。また、跡取りである娘たちも同様である。これは南辺境伯及び、その派閥全領主に通達する。ちょうど新年の祝いも行われる。冬の間は領政も忙しくなかろう。王都にてゆっくりするがいい。」


 艇の良い人質策に渋面を一瞬浮かべたガイエス辺境伯とホルガ―男爵であるが直ぐに表情を隠した。


「「謹んで拝命いたします。」」


 その言葉を最後に謁見の幕は閉じられたのである。


 その一カ月後、新年早々にノルトシュタット近郊に王国南部領派閥連合の一万の軍勢が布陣することになる。


 ◇◇◇


 ガイエス辺境伯との謁見を終えてから二週間経った。


 女王陛下はうんざりしていた。


 王国内の公爵家は五家あるのだが、その三家からガイエス辺境伯の情状酌量の嘆願が届いたからだ。


 また、東の辺境伯は処罰が重すぎるのではないかと嘆願してきている。


 今日新しく教国の教皇猊下から助命の嘆願書が届いた。そのうち共和国政府からも届くのではないかと考えている。


「これでは周りは敵だらけではないか?」


 女王陛下が愚痴をこぼすと宰相が一つ溜め息を吐き呟いた。


「ここまで勢力が伸びているとは思いも致しませんでした。全て私の失策。このままでは死んでも死にけれませぬ。帝国との戦は最小限の犠牲で勝って何とか立て直しませんと…」


 宰相が決意を新たにする。


「リーゼロッテを不幸にはしたくない。あのものが十年早く生まれておればなぁ。」


 陛下は娘の不遇を案じ、ついこぼしてしまった。


「シュタート男爵家のジークフリードですか?」


「うむ。人生とはままならぬものよな。」


 宰相が一人の赤子の名前を上げ、女王陛下がぽつりと言葉を零したのだった。




読んでくださってありがとうございます。

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