72 装備が怪しすぎる件
習慣は怖いもので昨日寝着くのが遅かった割に、しっかりいつもと同じ時間に目が覚めた。
こっそりいつも通り体を動かし、食事を取る。
今日の朝食は、ママンと一緒だ。ヒルデ小母さんも向かいの席に座っている。
いつも一緒なのだが普段は家族全員そろって、ケルンブルグに着いてからは辺境伯家の家族とも一緒に食事を取るのだが、今、朝食を食べているのは僕一人だけだ。
今日はママン達も王都に向かって出発する。当然大人数での移動で、朝食や出発準備も王都組で行われる。
ノルトシュタット組は当然別行動になるが、その前に今後の予定について話しておきたいそうだ。
「ジーク、速ければノルトシュタットに今日着くかもしれないのね?」
「うん、多分着くと思うよ。昨日の移動速度を考えると夕方には到着できそうかな?遅くても明日中には着くんじゃないかな。」
ヒルデ小母さんの問いかけに僕が答える。
「ここから、ノルトシュタットまで二週間はかかるんだけど…」
呆れた様子で呟いたヒルデ小母さんに詳しく説明した。
「馬車で一日に進める距離を三十分弱で進むからね。二週間かかる距離なら五時間かからないよ。」
唖然とする二人が言葉を発するのに約三分経過した。
「ジーク達に伝令を頼みたいわ。」
ヒルデ小母さんがやっと発した言葉が本音か嫌味か分らないので普通に肯定の言葉をかえした。
「うん。いいよ。行ったことのある場所ならいつでも連れて行ってあげる。」
「それは、伝令とは言わないのよ!」
それに対して、ママンが再起動してやっとのことで突っ込みを入れた。
とにかく今後の予定について確認して置く。
「今日の夕方から転移先はキュプフェルトでいいんだよね?」
「ええ、お義父さまに宜しくね。あとから追いつくから待っていてよ。二週間は掛からないと思うのだけど…くれぐれも余計なことはしないこと。ちゃんと自重してね。」
なんだか心配そうにママンは俺に念押したが、いつものお小言とはなんだか違う感じだ。
ヒルデ小母さんは宿泊予定地を記入した地図を出して説明してくれた。
ほぼ魔物討伐で行ったことがありそうだ。
「これなら、僕とシロなら転移を使って宿泊先に行けると思うけど、どうしたらいいかな?」
ママンはなんだかうれしそうにうんうんと首を縦に振っている。
ヒルデ小母さんは悩ましそうに何か考えた後、言葉を発した。
「魅力的な提案ね。一度キュプフェルトにはよるのよね?それなら宿泊先に来てくれると助かるわ。ただ、人に見つからない様にして欲しいの!フェンリルもよ!移動先で騒ぎになるのは勘弁してね!」
「うん、わかった。キュプフェルトへノーラ姉さん達を送ってから、人の目に触れない様に合流するよ。」
「そうしてくれる。くれぐれも注意してね。」
今後の移動方針も決まった。そこで、昨日からの懸念事項を聞いてみることにする。
「昨日メンフィスベルに行ったんだけど、帝国が攻めて来るのにのんびりしていたよ。大丈夫なの?」
「あぁ~それはそうよ。攻めてくると言っても、百年以上ノルトシュタット以外には帝国軍は現れたことないんだもの。実害がなければ他人事みたいにもなるわ。物価が上がるから歓迎はされないけどね。いえ、商人あたりは儲けるチャンスだと思っているかもね。」
なるほど、ヒルデ小母さんの説明に納得する。前世の日本でも、中東の戦争には似たような感じだった。あまりにも距離が離れているから実感もわかないんだろう。
前世に比べて情報量も極端に少ない。テレビもネットも無いんだから仕方ないよね。
一般市民や村人は、帝国が攻めてくること自体まだ知らないレベルだよね。
下手に知られてパニックになっても困る。今後気を付けなきゃと自分に念押しした。
そんな話をしている内に食事も終わり、ママン達も食事と準備に向かっていた。
入れ替わりにメリザがローブと仮面を持って来てくれた。盾、杖、弓矢も一緒だ。
ローブをまとってフードを被るとまるでスター○ォーズのヨー○をさらに小さくしたみたいになった。
うん、どっから見てもゴブリンの子供だ。
仮面は顔全体を隠す土偶みたい面を紐で頭に縛りつけるタイプだ。真っ赤な面に角と丸い目と口がついている。も○のけ姫のサ○が付けていたお面にそっくりだ。
あまりにも怪しすぎる。街道でうろついていたら問答無用で討伐されそうだ。
ただ、目的は果たせるのでOKだろう。
盾は小さなバックラ―を用意してくれていた。と言っても俺が使うと大盾だ。
プロテクトと併用すればかなりダメージを抑えてくれるだろう。
ただ、攻撃を正面から受けると体が吹っ飛ばされるので、回避しながらの受け流しが必要だね。いい感じだ。杖もスティックタイプだが俺には十分大きい。
ちょっと使ってみると魔力のコントロールがやり易く、大規模魔法を使う時は大分魔力を節約できるだろう。
弓は小振りで俺でも取り回しがしやすく、強化無しでも引けそうだ。
「メリザありがとう。助かるよ。すごく目的に合ったいい装備だ。」
「マリーと私で真剣に選びました。気に入って貰えたならうれしいです。」
「とても気に入った。でも、使う必要がない様に気を付けるよ。」
「早速試してみたいと言うかと思いましたが、中々いい心がけです。少し安心しました。マリーにも伝えておきましょう。少しは気が楽になるでしょう。マリーも非常に心配しております。くれぐれもお気をつけて…」
「うん、分った僕だけなら直ぐに逃げるよ。シロの気配だけでAランクの魔物も近づいてこないから。魔物に襲われることはないと思うよ。」
「ほうほう、あの白狼が魔物避けになるとは僥倖です。その旨もマリーに伝えておきます。」
「夕方には合流するからね。はい、油を使ったレシピだよ。油を使う時には引火に気を付けてね。引火した時は間違っても火を消すのに水を掛けないこと。炭火を消してから油を張った鍋に濡れた布を何枚もかぶせて温度が下がるのを待つこと。十分気を付けてね。」
そう言って、唐揚げとカツのレシピを渡しといた。
メリザはそれを受け取りモース達が来るまで寛いでいてくださいと言ってママンの所に下がって行った。
多分近日中に揚げ物が食べられることだろう。
『そろそろお仕事に時間だ。』シロを探すかな。
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