閑話 メイドは見た。Ⅱ
メリザ視点です。
わたくしメリザと申します。代々ミュラー家にお仕えする家柄で、シュタート男爵家当主のローゼマリー様にお仕えしております。
ローゼマリー様とは六歳の時からのお付き合いで、他人行儀な態度をとるとローゼマリー様が拗ねるのでこれからはいつもの呼び方にしましょう。
初めて会った二歳年下のマリーはお転婆でした。
ビアンカ様が本当にそっくりで、いたずらなどしても「テヘッ」と笑えば許してもらえるのです。本当に困りました。
そして側で注意をしたのにも関わらず、わたくしが監督不行き届きで家宰だった父に怒られるのだから、たまったもんじゃありません。
ただ、ゲルトルーデ様や今は亡き旦那様のラインハルト様が決まって庇ってくださるのです。
わたくしがぐれなかったのはあのお二方のお蔭です。
マリーは手の掛かる妹分で、テケテケついて回るのがかわいいので、多少甘やかしてしまった私も悪いのですが…
でも、姉になると妹たちの面倒をよく見ていましたね。
今のリーゼ様がそっくりです。そういう意味ではあの三人の親子は似たもの親子なのでしょう。
◇◇◇
四人目のお子様のジーク様は非常に変わったお子様です。
お産は非常に安産でした。予定日より二週間遅れの出産ですがそれほど痛がらず
スッポンという感じであっけなく生まれました。
産婆さんが足を持ってお尻を三発叩いてやっと泣きました。
そして三回泣いて泣きやんだのです。いい根性しています。
眼は蒼と金色で珍しいのですが濁っていました。
この目は駄目です。死を望む者の目です。
わたくしの感が何かを告げています。
ジークのことを警戒することに決めました。
◇◇◇
ジークはとにかくおとなしく手が掛かりません。
マリーは泣かないことを気にしていますが、
『うるさくないからいいじゃないの』とわたくしは思っています。
夜泣きもしません。目つきも普通の愛らしいものに変わりました。
夜中マリーが気になってふと目を覚ますとジークが泣きもせず起きていたそうです。
お乳を飲ましておしめを換えるとスヤスヤ寝始めたそうです。
手の掛からない、いい子なので少し愛情を注いであげることにします。
ジークが生まれて一週間ぐらい経ったときでしょうか?お乳を飲むときマリーの乳首を弄んでいます。
マリーが「あん♡」とあえぐと満足そうに「チュウ、チュウ」と食事を始めるのですが始めてみた時は、夜のオットーを思い出しました。
『このエロガキが!』マリーに内緒です。
わたくしも乳母ですしマリーが忙しいときは私がお乳を上げるのですが、巧いのです。
大事なことですので二度言います。オットーより巧いのです。
危なく声を漏らしそうになりましたがメイドの意地で耐えました。
赤ん坊ながら中々やります。
二、三回わたくし達の攻防は続きました。
あの手この手で攻めてくるのですが、わたくしにも意地があります。
寸でのところで凌ぎ切りました。
その後は普通に食べ始めたのでこの勝負は私の勝ちです。ふっふん♡
「ジーク様に触ると妊娠させられるのでは…」と後輩のサラやニーナは脅えておりますがそんな訳ないでしょう!
「男とはもっと獣なのですよ♡」後輩たちにささやきます。真っ赤な顔でうつむいて本当にうぶですね♡
もう適齢期なのに少し心配です。
◇◇◇
ジークは魔力操作を行なっているようです。
確実に魔力も増しています。また、わたくし達の会話にも反応しているみたいです。
ホント末恐ろしい赤ん坊です。
朝の稽古でカール様とマリーが掛稽古をしている時も、きっちり目で二人の動きを追っていました。剣も見えていたのではないでしょうか?
あの二人はランクB上位の冒険者です。ランクEの冒険者では動きをとらえることはできないでしょう。
そんなジークの異常性を気付いてかマリーは執務の時は、いつも傍にジークを連れています。
多分領内の様子とかを聞かせているのでしょう。
リーゼも優秀でしたが基本子供を執務室に入れることはありませんでした。
リーゼには七歳になったら本格的に領地経営を学ばせようと話していたのですがジークに関しては…
ある時など抱き上げて領内の地図と王国の地図を広げて見せているではありませんか?
優秀なリーゼにさえ最近見せたばかりのはずです。
リーゼはリーゼで午前中に習ったことをわざわざジークの前で話して聞かせています。
ユリウスとビアンカも一緒にいるのですが二人には全く理解できていません。
その傍らでジークが興味なさそうな振りをしながら、一所懸命聞き入ってるのが見え見えです。
それを見透かしてリーゼは話しているのでしょう。親子そろって良く似た行動をとるのだから呆れてしまいます。
ジークは魔力感知を使ってみたり、外に遊びに行ったと思ったら魔力を枯渇させて気絶しサラをパニックに落としたり、ホントやりたい放題やっています。
しかし生まれた時の濁った眼はなくなりました。
最近では色の違う両方の瞳が美しく、愛らしく笑っているのですから困ったものです。
わたくしもマリーやリーゼの様にジークに誑かされ期待してしまっているのかもしれません。
読んでくださってありがとうございます。
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