70 邪神の使いとかいうな!
メンフィスベルの中は平和そのものだった。そしてかなり栄えていた。辺境にありながらうちの領地とは偉い違いだ。やはり帝国との間で交易をしているのだろうか?
飯屋に入って飯を食べる。シロは子狼バージョン、俺は抱かれて中に入り麦粥とスープを食べさせてもらう。
「こうやっていると、普通の赤ん坊なのに…」
エリザが俺の口にスプーンで麦粥を運びながら言ってくる。
俺だって普通の赤ん坊で居たいよ!声が出そうになるがやめておいた。
昼食を取りながら午後からの予定を相談した。
モースとエリザはギルドなどで情報収集、ノーラ姉は領主邸に行ってみるそうだ。アスト、イリス、ピルネは周辺の村落を回ってみるらしい。
俺とシロはここから東へ夕方まで国境付近を進めるだけ進むことにした。
かなりの時間短縮が出来ているのは僥倖だ。今後何が起こるかわからない。
時間は有効に使わないとね。
『時間がないは言い訳だ。時間は自分で作るものだ。必要ならば他人に仕事を振ればいい。そのためには、人を育てないといけないし、政治も必要になるからな。結局時間も金で買えるんだよ!有限な自分の時間がどれくらいのコストか把握しとかないとな!』
前世で世話になった上司の言葉だ。ドライな感じはするが真実だと思う。その上司は仕事も出来たし、私生活もアクティブだった。かなり世話になったし、あの頃は充実していたなぁ~
そんなことを思い出しながらシロに騎乗して、午後からの移動を始めるのだった。
昼からもがっつり国境沿いを走る。基本は草原が広がっているのだが、丘陵あり、大河も流れている。
深い森もありAランクの魔物もいたようだ。無視したので詳しくはわからない。というよりシロを警戒して近づこうとしなかったのが正解だろう。流石神獣と呼ばれるだけある。
俺がシロと戦っても勝てる見込みは皆無だ。機嫌を損なわないように気を付けねば…
なんてことは考えない。ちょっとは考えたけどそれより相棒として接したい。シロもそれを望んでいる様な気がする。
◇◇◇
夕方、約束の時間前に大きな街があったので移動はそこまでにして、その周辺を確認する。
帝国との交易も行っているみたいだ。帝国との国境までの街道は普通に人や荷馬車が通ったあとが道になった感じ。
しばらく帝国へ至る道を進んで行くと平原にそびえ建つ壁が見えた。
どうも国境の壁みたいだ。高さは高いところで六メートルぐらい。しばらく壁沿いに様子をみると高さは四メートルくらいで延々続いているようだ。
壁には門があり、その脇には兵士が駐屯できるように、それなりに大きな建物が数棟立っていた。
門は昼間は常時開いているみたいだが、衛兵が通行確認しているみたいで、幌馬車に乗った商人風の男が衛兵に手形みたいなのを見せ、革袋を渡していた。衛兵も馬車の中身を確認していたので、領の境界みたいに国の出入りは緩くはないようだ。少し安心した。
ふと思い立ってシロに聞いてみる
「ねえシロ、この壁、飛び超えられる?
「おお飛び越えられるぞ。」
楽勝みたいだ。
「まさかと思うけど、空中を移動できたりする?」
「ふむ、魔力を使うから疲れるのでやりたくないが出来るぞ。空を飛ぶワイバーンとかドラゴンと喧嘩するのに空中を移動できないと鬱陶しいからな。」
「あぁ~やっぱり邪神の使いはチートだねぇ。」
「むむ。邪神の使いとか言うな。神獣と呼べ。そっちの方がかっこいい。」
「……へいへい。」
そんな話をしながらしばらく進んで様子を見たがこれと言って代わり映えしない。
いい時間なのでメンフィスベルの外の森に転移する。
すると調査にのこった全員がそろっていたので話も聞かずにケルナー邸の裏庭に転移門を開く。
昨日に引き続きシロは子狼になっていた。
◇◇◇
帰ると早速、保護者とノーラ姉、冒険者達が情報を交換している。特に変わったことはなさそうだ。
ちょっと離れたところで今後どうするか考えていた。多分明日には、ノルトシュタットに着くだろう。
出来れば帝国内にこっそり入って探りを入れたい。
辺りを見回してメリザを探す。
屋敷の使用人に聞くとメリザの所に案内してくれた。
「メリザ、お願いがあるんだけど…僕が着られるフード付のローブと顔を隠せる仮面が欲しいんだけど…用意できない?」
「あまりにも怪しすぎますよ!いいんですか?」
「フェンリルに騎乗している時に通行人の目に留まる可能性があるんだ。ゴブリンライダーと間違ってくれると助かるんだけど…」
「ああーそうゆうことですか。わかりました明日の朝までに用意しておきます。ところで明日ケルンブルグを出発するのは聞きましたか?」
「いや、まだ聞いていないよ。やっと出発なんだね。できるだけ早く皆に合流できるように頑張るよ。」
「クリスティーネ様が先ほど着かれましてね。食事の時に紹介されると思いますのでくれぐれも自重してください。」
「わかったよ。黙ってママンに抱かれとく。」
「その方がよろしいでしょうね。」
「それで明日出発なのかな?そう言えば盾と杖を買えなかったな。」
「いえ、ちゃんと用意しておりますよ。明日ローブと一緒に渡しますので一緒に持っていってください。」
「弓とかもあれば持って行っていい?」
「畏まりました用意しておきますが、そんなに持てな…持てましたね。失礼しました。本当にジークは常識はずれですので困ります。」
むむ、また呆れられた。ちょっとメリザの機嫌でも取るかな?
「メリザと二人で話しするのも久しぶりだよね。そういえば豚のラードとか植物油を深皿のフライパンに入れて熱しって、その中に食材を入れて調理する方法があるんだけど…暇になったら試してみる?」
「そんな調理法があるんですか?興味深いですが油に引火したりして危険ではないんですか?」
胡乱げに俺の顔を見ているが目は真剣で興味津々だ。
「焚火じゃ危険かな?炭火なんかで温度管理しながらだと大丈夫な気がするんだけどね。」
「なるほどすぐやってみましょう。忙しいようならレシピを書いておいてください。」
顔が分り易い得心顔になってニコニコし出すメリザ。
「分った暇な時にレシピ用意しとくよ。それじゃーフード頼んだね。」
ご機嫌取り大成功!一応最後に餌を蒔いておく。
「畏まりました。朝には用意しておきます。」
流石メリザはできるメイドだ!もう、うちの家宰でいいんじゃないかな?盾と杖はママンの差配かもしれない。後で聞いてみよう。
読んでくださってありがとうございます。




