67 ジークフリード
「伝説のフェンリル様にはお見苦しい所をお見せして申し訳ありません。私この地を治めている貴族のケルナーと申します。そしてこちらが」
一応丁寧な対応を心掛けながら、マリーとルーデ小母さんを紹介する。
「私、ジークフリードの母のローゼマリーと申します。」
「私、ジークフリードの祖母のゲルトルーデと申します。」
「孫が「息子がご迷惑をかけ申し訳ありません。」」
「何を言っておる。ジークは何もしておらんぞ。召喚時もきちんとした手順を踏んでおったし。普通ならファングウルフか、シルバーウルフの従順な個体が呼び出されておったじゃろうに、我が匂いと魔力に惹かれて思わず出て来てしまったのじゃ。普通賢者クラスじゃないとMP五千は持っていないからな。間違えてしまった。許せ。」
冒険者のエリザが驚いた様子で思わず問いかけた。
「MP五千ですか?そんなにジークの魔力量は多いのですか?」
「なんじゃ。知らんのか?一万を超えておるわ。魂自体が特別じゃが、赤子にしては多すぎるな。相当の魔法好きか?はたまた無理をしたのか?我はどちらでもいいのだが召喚されて赤子の姿を見た時には呆れたわい…まあ、気に入ったから暫く見てやろうと思ってな、従魔になった。よろしく頼む。」
私はジークのことを疑っている訳ではない。しかし、念のため神の加護について聞いておくことにする。女王陛下にも報告しなければならないだろうから…
「ところで、ジークは全ての神の加護を頂いているそうですが本当ですか?」
「本当じゃ。勇者にも魔王にも、そちらが言う真の王にも為れるぞ。称号はもう持っておるからのう。これからの育ち方次第じゃろう。よくよく心して置け。特に家族の身に何かあった時に、あ奴は自制なぞせんぞ。世界だろうが神だろうが敵に廻しそうじゃ。いや、昼間一緒にいた冒険者も、領主その方も、もう身内みたいじゃな。奴の命の心配の前に自分達の命の心配をしろ。奴は命を懸けて守ろうとするぞ。人族にとって最悪な真の魔王が誕生せぬように心得るんじゃな。」
思い当たることがあり過ぎて何も言葉が出ない。神獣はさらに爆弾を投下する。
「あ奴は面白すぎる。赤子の分際で剣術、槍術、弓術、短剣術、格闘術、身体強化等の戦闘系スキル。痛覚、麻痺、毒、魔法攻撃、物理攻撃等の耐性スキル。農耕、鍛冶、錬金等の技術スキル、算術、思考加速、交渉、鑑定等の知識スキル。魔力操作、火、風、水、土、氷、雷、空間、召喚魔法等の魔法系スキル。回復系、聖属性、闇属性のスキルや魔法も持っておるわ。生まれて一年経っていないのに、どの様な日々を送っていたのか想像もつかん。普通はLV41になぞなれる訳ないのになっておる。本当に興味深いわ。それに歪に肉体が強化されかなり苦しいはずなんじゃがな…おくびにも苦しい素振りを見せん。それが不思議でならんのじゃが…そち等もあ奴を叱る前に少しは労ってやれ。」
ルーデ小母さんが詳しく尋ねる。
「孫はそんなにひどい状態なのですか?」
「普通の赤子なら苦しくて気が触れておろうな。あやつの魂は特別じゃから耐えておられるのじゃろう。苦痛とも感じておらぬかもしれんがな。あっはっはっは。」
マリーが心配そうに問いかける。
「命に危険とかはないのでしょうか?」
「何を今更言っておる。いつ死んでもおかしくないわ。普通は肉体に伴って精神も成長するもんなのじゃが、あやつの場合、精神に引っ張られて強引にレベルアップを通して肉体を進化させておる。喋れるのも立って歩けるのもそのせいじゃ。精神に無理をさせた歪は中々癒えん。あやつは気を失って中々目を覚まさなかったことはないのか?気を失ったまま意識が戻らぬことがあるやもしれんぞ。」
思い当たる節があり過ぎる一同は顔を青くして顔を見合わせる。
マリーが必死の形相で神獣に詰め寄る。
「ジークを救う方法はないんですか?」
「そんなの決まっておろう。ゆっくり休ませて子供らしくのびのびと遊ばせてやればいいだけじゃ。洗礼式の頃には子供と言えども肉体もしっかりしてくる。そうすれば少しくらい無理をしても逆に糧となるというもんじゃ。しかし、従魔を必要とする状況ではそれも無理だろうのう。そち等が危険になれば放っておいても無理をするだろう。自分が死んでもあやつは守ろうとするぞ。」
もう誰も何も言えなくなっていた。静寂がその場を支配する。
それを破ったのはジークの声だった。
「お待たせ。シロ。はい、ベーコンとエールの樽はここに置いておくよ。回りを汚さない様に食べてね。」
無邪気に神獣様に食事を与えている。普通に軽口をたたいているのが信じられない。
「そんな事は分っておるわ。少し大きくなるぞ。」
そう言って神獣様は普通の狼の成獣ぐらいの大きさになって肉と樽酒に飛びついて、モグモグ、ペロペロと食事を始められた。
色々あり過ぎて私も少し落ち着いて考えを整理したい。遅くなってしまった夕食に皆を促すことにした。
「私たちも食事にしましょうか?遅くなってしまったわね。みんな疲れているでしょうからしっかり食べて英気を養いましょう。」
そう言って皆を食堂に案内する。放心状態のマリーはメリザが手を取っているから大丈夫そうだ。
そこへジークの声が響く。
「そうだ。忘れてた。シロに騎乗して落ちない様に体を支えられる鞍と鐙と手綱が欲しいんだけど用意できるかな?」
神獣を騎獣にするつもりか?信じられない言動に私はフリーズしてしまう。
しかし、すかさずメリザが問い返した。
「大きさは今ぐらいの大きさでよろしいのでしょうか?」
「多分大丈夫だよ。ねえ、シロ。」
「うむ、大丈夫じゃ。モグモグ」
「それでは、用意しましょう。明日の朝でよろしいのですか?」
「うん。明日の朝に間に合うと助かる。」
「畏まりました。準備しておきます。では食事に参りましょう。」
本当にメリザは優秀なメイドだ。
明日以降の事も、もう一度一から考え直さなければなるまい。神獣一体で王国が滅んでしまう可能性もあるのだから…
それにジークがそれほど無理をしているとは思っていなかった。
場合によっては王都に連れて行くことも考え直さなければなるまい。
と言って帝国によって王国が滅んでしまっては元も子もない。
難しい判断を迫られたものだ。そんなことを考えながら食堂に行くのだった。
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