66 お前あざとくないか?
(シロ、街に帰るぞ!)
(分かった。直ぐ行く。)
それから一分もしないうちにシロが帰って来た。かなり離れていたのにあっという間だ。流石フェンリルすごいなぁ~
感心しているとなんだかシロがどや顔してぶんぶん尻尾を振っている。
やっぱり何となく俺の考えが解るみたいだ。まあ、逆に俺もシロのことが何となくわかる。
今は好奇心で一杯だ。本当に変わった魔獣だこと。
そんなことを考えながら転移門を開く。
イストから順に馬を連れて辺境伯領主邸の裏庭に転移していく。
モースが移動し、俺とシロが残った。
「シロ、小さくなって。」
「分かった。」
そういうとシロはもっふもふの子狼に変わってしまう。
「お、お前あざとく無いか?」
「ぬしと一緒よ!お前も十分あざといぞ!」
他人に言われると結構堪える。確かに中身四十代のおっさんだ。シロから見れば気色悪いだろう。orz
打ちひしがれながら転移門をくぐるとそこには保護者が並んでいた。
保護者の女性陣に連れられて会議室みたいな部屋に連れて行かれる。
男性陣、父さんとオットーにユリウス兄は魔物退治に行ったらしい。
部屋に入って、そこから一時間お説教とお小言が続いたのだが…
ママンと祖母ちゃん、ヒルデ小母さんは神の加護コンプリートを聞いてもさほど驚かなかった。
「あらあら。二、三百年に一度ぐらいの割合で全柱の加護を持つモノが現れるそうよ。人族に限らずドラゴンの場合もあったらしいわ。人族の場合は、其の度に早死にしているらしいけどね。うふふ。」
「魔王には勇者が、勇者には魔王が対で現れ、互いに抑止力になる。しかし、全加護持ちは止める者がおらん。じゃから早々に時の権力者に抹殺される。」
「だから、洗礼式の時に加護持ちを洗い出すのよ!」
「教会では救いの王として崇めるように説いているけどね。実は教会が中心になって謀殺しているって噂なのよ。」
「千五百年前に王国に現れ、その時の女王を娶り、この世界を統一仕掛けた男がおった。しかし、時の教皇に暗殺されて世界は混沌に逆戻りじゃ。」
「魔導士のくせにそんなことも知らないの?魔導学校の裏の授業で習うはずよ?」
三人が順繰りに説明をしてくれた。
最後にヒルデ小母さんの痛烈な嫌味が魔道士二人に炸裂した。
「裏の授業って八回生ですよね?五回生で卒業したので申し訳ありませんが知りませんでした。」
「飛び級して二年で卒業した。それは知らない。」
エリザとピルネ二人とも完全に落ち込んでいる。
「ジークだってこれだけ無茶する子ですもん。勇者は確定。下手すれば全柱の加護持ち…騎士団長もそのつもりで陛下に報告し、陛下もそれをご存じだから洗礼と同時に子爵位叙爵って言ったのよ。流石に教会と言えども貴族本人に手は出しにくいからね。」
俺の知らなかった事情をママンがさらっと暴露する。
「さらに言えば、モース達冒険者五人も、今回の叙勲で騎士爵位を授かり貴族になるの。それは、ジークの側に張り付いて守るための措置になるはずだったんだけど…多分こっそり女王陛下に命じられるわよ。今から覚悟決めといたほうがいいわ。どの途、討伐報酬と魔物の素材を売ったお金で一生分稼いだんだから、ジークと相談して冒険に励むといいわ。」
ヒルデ小母さんまで…
「そんな。金を一生分稼いだって言われても…そんなになるんですかい?」
モースが尋ねた。
「ブラッディ―グリズリー一頭の素材が金貨百二十枚、討伐報酬が金貨百枚よ。ヘルタイガーはその十倍。ブラックバイソンはその二十倍よ。他にどれだけ魔物を倒してジークが素材や肉を卸したかあんた達分ってる?あの馬鹿みたいな収納魔法で片っ端から魔物回収したんだから想像できないわよね。」
ヒルデ小母さんが冒険者たちに吠えた。さらに追い打ちをかける。
「あんた達、報酬にしたってジークが人数均等割りって言うから全員が納得しているんだからね。相手は近衛騎士団長にダウム伯爵家の御曹司のヤーコプ、さらに、ヴォッケンフース侯爵家の三女のジルヴィアよ!それにバルト元第三師団千人長に、ミュラー家の面々。全員貴族と云っても並みの貴族じゃなく。騎士として相当な立場にある人達よ。戦闘力はこの国の最強クラスなの。」
ヒルデ小母さんは興奮して息を継いだ後なおも続けた。
「さらによ。ジークが女王陛下に冒険者達にもきちんと褒美を授けてくれって頼んだんだから…解っているの?これがどれほど馬鹿なことか?貴族の子女がよりにもよって女王陛下にお願いするのよ。それも平民のことを。ありえないわ。全くジークの常識知らずときたら困ったものよ!」
ぷんぷんと怒りまくるヒルデ小母さんに、とばっちりを食って黙り込む冒険者達。
俺はそれを正座して見ながら早く終わらないかなぁ~なんて考えていた。
そんな中、祖母ちゃんが取り成してくれた。
「辺境伯もその辺で勘弁しておやり、確かにあんたがこの冒険者達を碌でもない貴族から守っていたんだろうけど、そんなのこの子らは分んないわよ。ギルドが全部断ってくれているとでも思っているんだからね。あんた達もきちんとお礼を言っといた方がいいよ。かなり辺境伯があんた達に便宜を図ってくれていたんだからね。とにかく内の孫が色々と迷惑かけて申し訳ないね。これに懲りずにどうか今後も孫たちを守っておくれ。ほら、ジークお前もこっちに来て迷惑かけてごめんなさいってお言い。」
祖母ちゃんの言うことを素直に聞いて謝る。だって、祖母ちゃんを敵に廻すのは怖すぎる。
「色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。今後気を付けますのでどうか許してください。」
深々と頭を下げる俺を見て、皆が苦笑いした。
「仕方ないわね。伝説の神獣を従魔にしちゃったんだから吃驚するにもほどがあるわ。」
ママンが溜め息を吐く。
「それにジーク。なんであんた自分の加護を知ってるんだい?」
祖母ちゃんから質問が降ってきた。
「えっ、言ってなかったっけ?鑑定のレベルが上がったみたいで神の加護も判るようになったんだよ。あと、素材や鉱石なんかも詳しく判るようになったんだ。」
それに答えるとノーラ姉が何気に絡んできた。
「そういや、ジーク開墾の時も探索しながら鑑定していたわね?それで頭痛や気分が悪くなんないんだからすごいわね。」
「頭痛もあるし、気分も悪くなるよ。でもあれくらいたいした事ないよ。」
一応苦痛はあると訴えておこう。前世に比べればたいしたことないだけだ。
「鑑定の時の嫌悪感をたいしたことないって言いきれるジークが信じられないわ。」
ヒルデ小母さんも呆れ顔である。
「あらあら、生まれて二週目ぐらいから気を失うまで魔力操作する子ですもの今更だわ。うふふ。」
ママンがこともなげに暴露した。
なんか今日は暴露ばっかりしている気がする。
「ところでジーク、伝説の神獣さまは何処にいらっしゃるの?」
そんな中やっと本題にヒルデ小母さんが入ってくれた。
「目の前で転がってる。もっふもふ。」
全ての視線がシロに集中する。
「取り込み中すまぬが飯はまだか?ジークが怒られている間、一応空気を読んで黙って待っていたのじゃがそろそろ何か食わしてくれ。腹は減らんが食べるのは楽しい。」
「昼と一緒でいいなら直ぐに出すよ。」
「おおー一緒でよい。あれは中々美味であった。ついでにエールも出して貰えるとうれしいのじゃが…」
「分っているよ。肴にはちゃんと酒がいるもんね。ちょっと待ってて。外でベーコン炙ってくるよ。」
そう言って俺はベーコンを魔法の炎で炙りに裏庭へ出て行った。
もう、怒られてから時間も経ったんだから早く晩飯食って眠りたいんだけど…
まだ、夜は続くんだろうか?
ベーコンを魔法の炎で炙りながら憂鬱になるのだった。
読んでくださってありがとうございます。




