65 俺って魔王なの?
「ジーク!魔王?」
ピルネのショッキングな言葉に、いつの間にか全員集まっていた冒険者とノーラ姉さんが俺のことをガン見している。
ん~困った。魔王って何なんだろう?混沌の神の加護があったら魔王認定とか?それは困るな。と言うことで解らない事は聞いてみる。
「魔王って何なの?魔王の条件は何があるの?」
首を傾げてあざとく無邪気な振りをして聞いてみる。
「魔王それは魔物の王!混沌の加護持ち!」
あっちゃー出ました!ビンゴです。俺,魔王だった!
がくんと両膝を地面に付き、項垂れる俺!orz
そして一言。
「全部の神の加護があるんだけど…それも魔王なの?」
一縷の望みを繋ぐ一言に全員絶句する。
「そんなことって…」
エリザが何か言おうとして言葉に詰まる。
「光、闇、水、火、風、土、命の全ての加護持ちは勇者。混沌の加護持ちは魔王。二つは決して交わらない宿命!それが世界の理!」
うん。ピルネがむっちゃ興奮して喋ってる。
ちょっと怖いかも?あんなにかわいいのになんかもったいない。
そして元凶のフェンリルはムシャムシャ。ペロペロ。ベーコンとエールを堪能している。すごく機嫌がよさそうだ。
いかん。意識が逃げている。
ピルネの言葉を受けエリザが言葉をつなげる。
「すべての加護を持つもの!この世の全てを納めるもの!真の王となるもの!そのもの現れるとき贖罪の時は終わり、新たなる平和が訪れる!単なる神話だと思っていたのに…」
あ~ここにも勿体ない人がいた。興奮して唾が飛びまくっている。折角美人なのに…
でもってなんだか仰々しい感じの一言、ん~ナウ○カの『そのもの青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし、失われた大地との???』みたいなやつ?迷信だと思うよね。信じていたのってユ○様と婆様ぐらい?
「それって教会の聖書の最後に書かれている奴じゃないの?」
イリスの言葉にエリザがブンブンと首を縦に振る。
この世界の人ってもしかしてほとんど信じているの?
「ちょっと落ち着こうよ!みんな!」
俺が思わず放った言葉にみんなが突っ込む。
「「「「「「お前が言うな!」」」」」」
その横でフェンリルはムシャムシャ。ペロペロ。
一瞬静寂が訪れる。
どうした訳かフェンリルが食べるのをやめてしゃべり始めた。
「勇者でも魔王でも良いではないか?真の王?そんなもの誰にでもなれるわ。この世は努力したものがいずれ報われるように出来ておる。七神の加護然り、混沌神の加護然り、全てのものに平等に与えられるのじゃ。ただ、人は選り好みするじゃろう?その魂が邪魔してせっかくの神の加護を授かるのを邪魔しておるだけじゃ。こやつは無邪気に神を信じた。選り好みもせずに、混沌を含めた全ての神を…唯それだけじゃ。大分変わった魂の来歴じゃがな!わっはっはっは。うん、うん。気に入ったわ。しばらくお主を傍で見させてもらうぞ!」
「えぇ~今世界の成り立ちについて、サラっと話したよね?いいの?いいの?」
なんかピルネの語彙がまともになって…
「ふん。いいに決まっておろう。神は何も隠しておらんわ。そちらが無知なだけじゃ。知りたければ全て知ることも出来よう。しかし、悠久の時が必要じゃがな。」
「ふっふっふ。はっはっは。わっはっはっは。究めて見せるこの世の知識の全てを!」
笑いの三段活用って…ピルネが壊れた?拳を握りしめて両手を揚げて叫んじゃったよ~
エリザも蹲って泣いているの?どうしたの?魔導士の皆さん?
混沌とした場にモースがやっと救いの手を差し伸べてくれる。
「とにかく、その狼はジークの従魔になったのだな?そしてジークは魔王だか?勇者だか?訳の分かんない者の可能性があるんだな?」
「そうみたいだけど…よく解んないよ~」
「はっきり分かるのは洗礼式の時なんだろ?今更ジークが魔王で魔物の親玉だって言われても信じらんねぇ。俺たちゃ依頼をこなすだけだ。ただ、その白い狼はデカ過ぎて目立っちまう。連れて歩くんならどうにかしなくちゃなんねぇな!」
おおーモース男前だ!言いきっちゃったよ~ありがとう!心の中で拝み倒す。
「まあ、こんだけやらかしたら、今更ジークが魔王でも不思議はないんだけど、身内としては困っちゃうからしばらく内緒でお願いね。どの途今日の行程が終わればケルンブルグに戻るんだからその時に家族会議ね!」
おおーノーラ姉まで上手くまとめてくれた。
「ジークも覚悟しといて、母さんとマリーにこってり絞ってもらうから…」
にやりと笑うノーラ姉にとてつもない戦慄を覚えるが仕方ない。
「とにかく出発するぞぉ~いいなぁ~?ピルネとエリザはちょっと落ち着け!」
モースが声を掛けて回る。
その間にフェンリルとコミュニケーションを取ることにした。
「ねえ、僕の名前はジークフリード。ジークって呼んでね。フェンリルさん、流石に人前でフェンリルさんとは呼べないから名前とか無いの?」
「ん?我の名前か?おぬしが決めろ。」
「じゃあ。シロ、ケンタ、タローのどれがいい?」
前世で飼っていた犬の名前を列挙する。
「我は、犬っころではないぞ!じゃが何でもいいわ。シロで良いんじゃないか。」
「はい、シロで決定ね。ところでもう少し小さくなれないの?僕を背中に乗せて欲しいんだけど…」
「ちょっと待て、ジークだったな。小さくなれるし背中に乗せてやってもいいがお主絶対振り落とされるぞ!」
「そんなに勢いよく走るの?」
「ゆっくり走ってやるが、掴まる所も無いだろう?馬の鞍みたいなのを付けた方がいいのではないか?」
「シロってすごく親切だねぇ。びっくりしたよ。」
「感謝はもので示せよ!美味い飯を期待しておるぞ!」
「げぇ。そんな下心があったのね。まあ仕方ないか。」
そんなやり取りをしていると、出発の準備が出来たみたいでイリスが馬を連れて近付いてきた。そして声を掛けてくる。
「ジーク君行こうか?馬に乗って。」
「イリスは、僕のこと怖くないの?」
「なんで怖いのよ?ちっこい体で一所懸命に魔物と戦っているのを見て来たんだから、今更だよね。勇者って言われたら納得だよ!」
「ピルネは魔王って言っていたよ?」
「正真正銘全部の加護持ちでしょう?両方の特性持ちってことじゃん。それって地上最強?ってことなんじゃないの?おまけに人族なんだから、よっぽど性根腐ってないと敵対しないんじゃないの?人は一人では生きていけないのよ!知ってた?ジーク君。」
「おおーイリス説得力あるよぉ~」
「そうでしょう。でも、余計な召喚魔法なんて使って大ごとにしたんだからコッテリ保護者に絞られなさい。それから私と馬に乗るの嫌なの?」
拗ねたように聞いてきたイリスに慌てて弁解する。
「そんな事ないよ!イリスと一緒に馬に乗るのはすごく楽しくて幸せだよ!でもなんか悪くって…」
「馬鹿ね。赤ん坊にはいつも誰かがついているモノよ!そんな常識も分らないなんて、ホントにジーク君は常識がないなぁ~」
呆れたように笑いながら、俺を馬に乗せるイスト。その後ろでフェンリルのシロが所在なげにウロウロしている。
「僕達の後からついてきて。シロ」
「ふん、暇だからその辺で魔物でも狩っておくわ。ジークの場所ならパスが繋がっているからすぐにわかるぞ。それから念話も使えるはずじゃ。心の中で話しかけてみろ。」
ほうほう、確かにシロの存在をより強く感じる。
心の中でシロに話しかける。
(夕方には転移で街に移動するから近くにいてね。シロ)
(あい分かった。久方ぶりの肉の体に慣れて置くとしよう。)
念話の使い方も教えたので安心してシロは物凄いスピードで駆けていった。
馬に乗りながらブツブツ何か呟いているエリザとピリスを、何とか促して出発しようとするモース。何か気がついたのかこっちに来て話しかけてくる。
「あの狼、自由にさせて大丈夫なのか?人を襲ったりしねぇーよなぁ?」
「あー。大丈夫だと思うんだけど…人の方からちょっかい掛けたら絶対殺しちゃうよね。ちょっと待ってね。」
(シロ。聞こえる。)
(おう、聞こえておるわ。人を襲うな!じゃろ?その人間も心配性じゃのう。解っておる。大丈夫じゃ。)
(全部聞こえてた?)
(うむ。まだ、それほど離れておらぬ。我の耳をなめるなよ。)
(わかった。それじゃあ夕方にね。)
「全部筒抜けだった。大丈夫だってさ。『モースは心配性だなぁ』。って呆れてたよ。」
「心配もすらぁ~奴ぁ―邪神の使いって言われている魔獣だぞ。会って話した感じじゃあ悪ぃ奴とも思えんが、用心するに越したこたぁ―ねぇ。お前もちっとは慎重になれ!そんだけ力があるんだ。赤子だって甘えてるんじゃねえよ!一応男だろ?根性見せろ!」
すげぇー説得力ある。さすがリーダーやっているだけのことはある。
俺も思慮が足りなかった。確かに俺はあまりにも危ない存在だ。もっと慎重に事を運ばないと家族を危険に晒してしまう。
否、今回のことでもう晒しているな。王都に向かうのに周りの優しさに甘えていた。
気を引き締めよう。そう心に誓って午後からの旅につくのだった。
読んでくださってありがとうございます。
さっさと王都で叙勲されて欲しいのに…
ダイジェストにして進めた方がいいのだろうか?




