64 人気者だったぞ!
朝起きて自主練を終えて、ママンを起こし、朝ご飯を貰う。普通の食事だけでもいいのだがまだ何となく甘えていたい。
食堂での食事も終えて、さっそくキュプフェルトの領主邸に転移門を開きオイゲン祖父ちゃんに会いに行く。
「久しぶりだな。ジーク少し大きくなったか?」
挨拶をする祖父ちゃんはなんだか、かなり疲れているようだった。
「うん、少しずつ体は大きくなっているよ!さすがに赤ん坊だもん。祖父ちゃんこそひどく疲れているね。」
「やはり分かるか?子爵領の運営がこんなに大変だとは思わなんだ。特に食糧問題がな…
スタンピートのおかげで領民が疲弊しきっておる。王国も援助をしてくれるんだがやはり不安は拭えんな。」
「そうか大変だね。ところで出発前にちょっと寄っただけなんで荷物おろして直ぐに帰らなきゃなんないんだ。王都で会った時に詳しく聞かせてね。」
「そうか残念じゃが仕方ないのう。早速倉庫に案内させるからよろしくたのむ。」
領邸内の倉庫に案内されて収納空間から穀物を全て出す。
倉庫内がいっぱいになったが知ったことではない。どこかで見た案内の執事が吃驚していたが「祖父ちゃんによろしく!」と伝言をし、転移門を開いてケルンブルクの領邸に帰ってきた。
ママンに報告するとモース達がやって来たのでノーラ姉さんに声を掛けてさっそく出発する。
ママンは心配そうに見送ってくれたが、夕方には戻ってくるのだからそんなに寂しそうにしなくてもいいのに思ってしまった。
◇◇◇
俺を馬に乗せてくれるのはイリスだ。ピルネに次いで小柄で馬の扱いも上手い。
イリスは俺の最初の装備を用意してくれ、何かとお世話をしてくれる。かわいくて元気が良くて、冒険者の腕も立つ。料理も美味いし俺も大好きな一人だ。
と言うか、エリザもきれいなお姉さんだし、ピルネも無口な美少女?キャラでいい感じだ。モースとアストも遠慮なく対等に扱ってくれる兄貴キャラなのですごく居心地がいい。
考えてみればこんなに優良な冒険者パーティってそういないよね。
『紹介してくれたアンナに感謝だな!』と思いながら、後ろに寄りかかって、背中や頭に感じるイストの柔らかく暖かい感触を楽しみながら、ギャロップの馬に揺られて景色を眺める。
何のことはない枯葉と枯草に覆われた冬の景色、黄色と茶色の世界だ。今日は天気がいいので青い空がコントラストになって穏やかで美しい。
いったん天候が崩れると、どんより曇って、寒くて寂しい世界に一変する。雪には至らないが冷たい雨の方が濡れて体温を奪われるのでよほど始末に悪い。出来るだけ晴れて欲しいものだ。
旅のペースは速い。馬車の倍ぐらいのスピードで移動している。
きちんと馬のペース配分は行っているようで水場では水を飲ませ、こまめに休憩を取っている。
一番体格がよく装備の重いモースがペースを決めているので、他の馬にも無理はなさそうだ。
それに、一日進んで馬替えなのだから休憩さえしっかり挟めばそうそう馬も潰れることはないらしい。
俺は景色を楽しむと共に探索で魔物の警戒と珍しい薬草等の採取物がないか確認しながら進んでいる。
探索範囲は一キロメートル強なのでさほど広くはない。
もう少し魔力操作が上手ければ広範囲もカバーできるのだけどね。
◇◇◇
昼休みはしっかり休む。馬に草を食ませ、きちんと食事を取っているとやはりそれなりに時間が掛かる。
俺の食事は簡単で、牛乳と堅パンをスープに浸した離乳食を速攻食べ終わるから結構暇だ。
イリスに乗せて貰ってばかりだと申し訳ない気がするので、暇な時間を使って召喚魔法を使ってみる事にした。
ゴブリンライダー見たく狼にでも乗れると行動範囲が広がっていいかもしれない。
という事で、こっそり少し離れて、本を見ながら魔方陣を描いて魔力を通した。
触媒とかいるみたいなんだけどこの際いいや。
ゆっくりと魔力を通していたら急にガクンと魔力を半分くらい持っていかれた。
慌てて召喚をやめたけど、魔方陣の上に黒い靄が現れ段々形を成して行く。
俺は無茶苦茶焦った。
途轍もない魔力を持った奴を召喚しちまったみたいだ。
悪魔だと上級悪魔?とにかくやばそうな感じだ。
エリザとピルネ、ノーラ姉さん達が飛んできた。
鋭い視線で魔方陣の上を睨みつける。
「何をしたの?ジーク」
ノーラ姉さんに詰問される。
「ちょっと召喚魔法を…」
「あんたは何呼び出しているのよ!」
そんなやり取りをしていると靄が形を成して行く。
白銀に輝くもっふもふの毛並みの狼が現れた。
「きれいな毛並み~気持ちよさそぉ~」
思わず声が漏れてしまう。
狼はしばらく周りを見回して、俺に向かって話しかけた。
「坊主、おぬしが我を呼び出したか?」
「ん~多分そうだと思う。『僕を乗せてくれる狼みたいな魔物出てこないかなぁ~』と思って召喚したから…」
「我もとんだ勘違いをしたようだ。ロキ様の加護を感じ、魔力も多く、懐かしい匂いがしたので、興味を持って出てきたが、おぬしの様な赤子の召喚に応じてしまうとは…」
「それじゃあ、すぐに帰るの?」
「ふむ?ちょっと待て!お主の魂は赤子のモノではないな?フムフムすべての加護持ちか?少し興味が湧いてきた。久方ぶりの肉の体もいいかもしれぬ。お主、美味い食い物を持っているか?」
「ん~残念だけど、たいした物は持ってないよ。あっそうだ!ブラウンボアを燻製にしてベーコンみたいなの作ってみたんだけど食べてみる?」
「ふむ。ベーコンとな!懐かしい。故郷でよく供えてくれておったわ!それは豚を塩漬けにして燻製したものか?」
「う~ん。ちょっと違うんだよね。ブラウンボアって言う猪の魔物を塩漬けにして、水で塩抜きしたあと、燻製したものなの。狼さんが知っているモノに似せて魔物肉で作ってみたんだ。」
「ふむふむ。それを食わせろ。気に入ったら召喚に応じて遣ろう。」
「ちょっと怖い気もするけど…右手食いちぎったりしない?」
「お主、我のことを知っておるのか?縛りつけたり、裏切ったりしなければ食い千切ったりせんわ。」
あ~やばい狼だ。でもあれって地球の北欧神話なんだけど…
「ねぇ、フェンリルさん。これがベーコン擬きだよ。食べたら帰ってね。」
そう言って収納魔法からベーコン擬きの大きな塊を取り出し、面倒臭いので魔法の炎でさっと炙って狼の前に置く。
「ん?そう遠慮するな。美味かったら暫く付き合ってやる。おぬしも我のことを知っているみたいだしな。」
そう言ってガブリと燻製肉の塊にかぶりついた。
「もぐもぐ、うん、いい塩加減だ。炙り具合もちょうどいいな。ビールが飲みたくなるな。持っておらぬか?」
「んーエール酒ならあるけど…ホップは入ってないよ。」
「かまわん!エール酒を出してくれ!」
仕方ないので暇な時に蒸留酒を作るために収納しておいたエールの樽を一つ出してフェンリルの前に置く。
蓋を砕いて器用に舌でぺろぺろ飲みながら肉を食う。
「う~む。なかなか美味いな。気に入ったので暫く付き合ってやろう。」
そう言うと召喚受諾の紋章がフェンリルの胸に浮かびあがり魔方陣と共に消えてしまった。
「ジークどうなってるの?その狼はジークの知り合い?訳の解んないこと話していたし結局召喚は成功したの?」
「どうも、召喚には成功したみたい。僕の知っている神話の神獣?になるのかな?見るのも会うのも初めてだから良く分んないけど…」
「神話の神獣って…」
ノーラ姉さんが絶句してしまった。
「あのーさっきフェンリルって言ったよね?」
エリザが聞いてきた。
「うん。フェンリルだよ。」
堪えると、いきなり震えながら恐々と囁く。
「フェンリルって邪神の使いって言われているけど大丈夫なの?」
あ~やっぱり邪神の使いか~困ったな~
まあ、直接聞いてみるか。
「ねえ、フェンリルって邪神の使いって言われているらしいけど、なんか人族に悪さした?」
「むむ、確かにラグナロクではオーディン等と敵対したが、今はお互い楽しくやっているぞ。只、ロキ様は悪戯好きだからなぁ~ちっと迷惑かけているかもしれんなぁ~だが断じて我は人族には危害を加え取らんぞ!この世界に顕現したのも三千年ぶりくらいじゃからな。むしろ人気者だったぞ!」
ちょっと悲しそうにフェンリルが答え始めた。しかし、最後には胸を張ってドヤ顔になった。案外、調子のいい奴かもしんない。
『うん、うん。前世の日本じゃフェンリル大人気だもんな!わかる、わかる。』
そして心の中で首肯する。
「エリザ!そう言うことらしいけどやっぱりまずいのかな?」
エリザに確認したら、ピルネから爆弾が落とされた。
「ジーク!魔王?」
げっ!やっぱりそうなるか?ピルネ鋭い突っ込みだ!
俺は騎獣が欲しかっただけなのに…
無茶苦茶、面倒臭いことになってしまった。
『これだから人生はままなんないんだよ!』
読んでくださってありがとうございます。
なんだか本当に何でもありになってきました。
作者もあきれております。
行き当たりばったりはよくないですね!
反省m(_ _)m




