59 一家に一台って…
兄姉とのコミュニケーションも無事おわり、出発に向け準備を続ける。
大量の荷物をオットーが用意し、俺が収納魔法で異空間?に入れていくだけだ。
検証してみると、収納するモノによってw座標が変っているのが面白い。
分別可能と言うわけだ。フムフムかなり便利だ。
そんなことを考えていると大量にあった荷物もいつの間にかなくなっていた。
「ジークがいるとホント便利で良いですね。一家に一台欲しいですな。」
「俺は自家用車かい?」と思わず突っ込みをいれてしまう。
「??じかようしゃ?」疑問符だらけのオットーに慌てて話を変える。
「もうこれで荷物はおわりなの?」
「あとは、馬の飼料がありますが…」
「何処にあるの?連れてって。」
オットーが慌てて俺を馬草小屋へ連れて行ってくれる。
「どれくらい持っていけばいいの?」
現着して、こんもりと置いてある馬草をポイポイ収納しながらオットーに尋ねると慌てて答えが返ってくる。
「本当に凄い収納量ですな。あっその位あれば十分です。」
「それじゃあ、これで荷物は御仕舞だね。」
「はい、あとはメリザに聞いて貰えますか?」
オットーにそう言われたのでメリザに確認する。屋敷の中にこんもりと山が出来ていた。
「大奥様、若奥様の衣装に、ユリウスの衣装、カール様の正装他衣類に雑貨などです。」
「王都まで必要ないものとか、人ごとに分別してあるの?」
「してありますが、項目ごとに分けて収納できるのですか?」
「面倒だけどできるよ。」
それから、メリザに注文される通りに荷物を片付けていく。オットーの荷物収納の倍以上の時間がかかり苦労した。
「軽く安請け合いするんじゃなかったよ。」
小さくつぶやく。
「なにか?」
メリザが鋭い目で問い返したのでブルブルと首を左右に振って慌てて退散した。
◇◇◇
準備も終わって予定通り王都に出発する。
メンバーは、祖母ちゃん、ママン、父さん、ノーラ姉さん、リーゼ姉、ユリウス兄、ビアンカ姉。あとオットー、メリザ、サラ。冒険者の5人で十五人の大所帯だ。
一台目の馬車はオットーが御者をする。
俺はオットーの横にちょこんと座り、山道をきっちり均しながら探索モードで周囲を確認し、 簡易の地図に探索で見つけた資源や採取物を書き込んでゆく。
むっちゃ開墾で鍛えた魔法が役に立つ。
確実に自分がレベルアップしていることが分かると、嬉しくなるよね。
「努力が目に見えて報われる世界っていいな。」と思わず呟いちゃった。
「でも、これって俺だけ?チート?」考えるのを止めることにした。
休憩場所では久しぶりにファイアーボールとアイス二―ドールを使って遊んだり、探索に引っ掛かった薬草や鉱石、石灰岩なんかを採取して冒険者達を引きずり廻した。
「ジークちょっとは大人しくしてくださいな。」
「そうだよ、ジーク君。付き合わされる私たちの身にもなってよ!」
「休憩なし?」
モース、イリス、ピルネの文句を聞きながら言い訳する。
「えぇーいいじゃん。ここまでなかなか探索に来れないんだよ。人もいないし少しぐらい羽目外させてよ。開墾で大分我慢したしさ。ケルンブルグや王都でも我慢しなくちゃいけないんだしさ。かなり、重要な資源が眠っているんだよね!」
「そうは言ってもジークは赤ん坊なんですぜ。自重して欲しいもんですな。」
アストにまで言われた。
「この石灰石がね便利なんだよ。畑の肥料にもなるし、焼成して砂や砂利を固めるのにも使えるんだ。だからね少しだけね!ね!」
「マリー様とメルザさんにお願いすることになりますが…」
エリザが鋭い視線で最後通告をしてきた。
ビクンと体が勝手に飛び跳ねはしたが、ここは譲れない。
石灰石を錬金で粉砕、混合、焼結させ、さらに粉砕してセメントを作る。
「ここに取り出しましたる白い粉末、これを砂に混ぜ水をかけて練り上げます。そして地面の上にならして乾かすと…」
水魔法と風魔法と火魔法を使ってアッという間に乾かすと、きっちりセメントで固まった地面が出来上がる。
モースとアストがガツガツとブーツで踏みつけてもビクともしない。
「また、ジーク君不思議なことした?」
イリスの言葉に全員首肯する。
「この粉混ぜて土魔法で小屋を作ると、強度のある小屋ができると思うんだ。山道の野営場所に小屋を作れば今後も使えて便利なんだよ。道整備の拠点にもなるし家具を置けば宿泊施設になるんだよね!ね!」
エリザとモースがママンの所に話にいった。
ママンとメルザがやってきてモース達と話をした結果。
「今晩の野営地で、試してみてから判断していい?モース達も悪いんだけど我儘息子に付き合ってくれる?領のことを思ってやっていることだと思うのよ。よろしくね。」
ママンのお墨付きを貰った。
肩を竦めて諦めたそぶりのモース達をほっといて石灰石のある場所を探索する俺。
トテトテと山の中に入っていく。俺に慌ててついてくるモースとイリス。山の中にかなり入り込んだ所で石灰岩の層を見つけてガンガン崩して採取する。
「ジーク休憩終わっちまうぞ。出発に遅れるとマリー様に怒られんぞ!」
モースに言われて慌てて休憩場所に帰るとみんな出発の準備をして待っていた。
「ジーク!集団行動を乱すのはだめだぞ!」
父さんにガツンと怒られた。
「ごめんなさい。」
素直に謝って何とか許してもらう。
昼ごはんの時に採取した大量の石灰岩を収納から取り出して片端からセメントに加工していく。
傍で見ていた全員が絶句していたが、今更なので気にしない。
昼からも同じように馬車の御者台から整地しながら、探索して地図に書き込む作業をする。
途中の休憩はさすがに疲れたのでお昼寝をして、体力と魔力を蓄えた。
そしていよいよ野営地で小屋作りに入る。場所は狼に襲われた所だ。
ゴロゴロ転がている岩を砕いて、セメントと混ぜ合わせ少しずつ水を混ぜて練って行く。
型枠がないので全部土魔法で練ったコンクリを、開墾の時に作った小屋より二回りくらい大きな家にしていく。仕上げに風魔法と火魔法で強制的に乾かしていく。
窓と扉を取付ける場所を開けて出来上がり。
長さ二十メートル、幅十メートル、高さ四メートルの四角い家を作った。
屋根の部分は重量による崩落が心配なので幅方向にアーチ状にして力が分散する様にしておいた。
中に竈を作って煙突で煙を逃がし、水瓶を出して水魔法で水を張って出来上がり。
切り株のテーブルとイスも出しておく。
全員唖然として棒立ちだ。
「木製の扉と窓を付けて、ベッドを置けば宿泊施設になるよ。王都からの帰りに家具を買って持ってくる?あっ、馬小屋を作るのを忘れていたよ。ちょっと作ってくるね。」
馬小屋らしきものを作ったあとで、家の周りを広めに囲う六メートルくらいの土の壁を作って置く。
これで夜もある程度安心だろう。
家に入るとまだ固まっている皆に声を掛けた。
「早く食事の準備をしないとまずいんじゃないの?」
それを聞いた祖母ちゃんが唸りながら言葉を発した。
「ジークはいつもこんな調子なのかい?」
それに答えてママンが一言。
「えっ、えぇ、大体がこんな調子です。」
祖母ちゃんが呆れて呟く。
「本当にこの子に自重を覚えさすのは大変だわね。確かに一家に一台あると便利だけど…よそ様に見つかったら偉い騒ぎになっちまうよ。ふぅー」
大きな溜息を一つ吐く。
「分って貰えてよかったわ。お母さん。」
そう言って、これまた大きな溜息を吐くママン。
「赤ん坊でさえなければねぇ~ふぅ~」
メリザまで溜息を吐く。
うんうんと、頷く大人一同。
俺って何か悪いことしているの?
『あ~ままならんわ~』
読んでくださってありがとうございます。




