58 防具とプライド
祭りが終わって開墾の仕上げをする。
開墾できた森は6㎢。川沿いに南に2㎞。東に3㎞の広さを開墾したことになる。
仕上に開墾できた周りに深さ2m幅2mの堀を掘って、掘り出した土で壁を作る。
堀の先は川につなげて水路代わりにする。
堀から適当に水路を作り手軽に灌漑もできるようにした。
開墾が進むにつれて拠点を移動するたびに井戸と土作りの小屋を作っていたので家造りの拠点になるだろう。
◇◇◇
試しに作った登り窯も一回火を入れたら殆ど崩れてしまったのでまた作り直すつもりだ。
確か珪砂と石灰を粘土に混ぜればよかったと思うんだけど鉄の精製にはむいてないんじゃなかったけ。
ボーキサイトがあるといいんだけど、鉱物資源探して試行錯誤するしかないよね。王都から帰ってから試してみよう。
探索範囲も広がっていることだし、山道も色々鑑定しながら行けば時間も早く進むだろう。
◇◇◇
食料、飼料等の旅の準備にみんな頑張っている。
今回は祖母ちゃんまで王都に行くし、ノーラ姉さんも一緒だし、モース隊冒険者もいるのでかなり大所帯だ。
「ねえジーク、収穫した作物を売りたいんだけど収納してもらえない?」
ママンに聞かれる。
「荷物いっぱいあるんなら運ぶよ。」
「助かるわぁ。今回人が多いから荷物がつめないのよ。」
「そうだよね。荷物あるなら言ってよ。全部収納にしまうから、馬もその方が楽できるし移動も速いからね。」
「ありがとう。メリザとオットーに言っとくから収納をお願いね。あと、あなた用の革の防具作ったからあわせてみてね。」
「ありがとう。今合わせてみてもいい?」
「いいわよ。メリザ、ジークの防具持ってきて。」
「かしこまりました。若奥様」
そそくさと防具を取りに行くメリザ。
「毛糸のセーターと下履きを編んだから下着の上に普段着を着てその上にセーターと下履きを履いてね。革のベストと帽子、リストバンドに革のブーツはその上から装着してイリスに作ってもらった。ベルトとコートを纏えば完璧じゃないの?」
「すごく重装備だね。暑くないの?」
「冬の山道を侮ってはいけないの。用心しとくことに越したことないから…前回の旅で懲りたでしょう?」
そんな話をしていたらメリザがセーターやら防具を抱えてやってきた。
「ジーク着てみて下さい。」
言われるままに装備をつけていく。毛糸がモコモコでなんか気持ちいい。
サイズはちょっとぶかぶかだけど動きが邪魔になるほどでもない。
イリスに貰った苦無をベストの胸に付け、ショートソードを背負って腰帯にナイフを装着する。
「あら、小さな戦士様の出来上がりね!かっこいいわよ。ジーク!」
メリザも隣で頷いている。
「盾があるといいかも?どの途攻撃を防ぐこと優先したいし…」
俺が希望を言う。
「魔法補助の杖もあるといいかもしれませんね?」
メリザがつぶやくとママンが
「ケルンブルグで見てみましょうか?王都の方が品ぞろえはいいけど、旅の間何があるかわからないしね。」
そんな話で盛り上がっている二人を置いといて、少し庭に出て剣を振ったり、苦無を投げたりして、体を慣らしていく。ショートソードを振るには身体強化を使わないと振れないな。
目を離した隙に庭で剣を振っている俺を、ママンが見つけて宣った。
「ジークあなたも、ミュラー家の人間ね!」
メリザまで隣で頷いている。
心外だ。「ママン達ほど武闘派じゃない!」と、言い返したいがやめておく。
そんな話をしていると、本物の武闘派達が現れて何やらママンに詰め寄り始めた。
「ジークの装備いいの!わたしも装備欲しいの!ショートソード欲しいの!」
ビアンカ姉がママンに抗議する。
「ジークが持っているのは、本物の剣ではありませんか?私でさえ刃引きを使っているとゆうのにどういうことです!母上」
ユリウス兄がプライドを傷つけられたのか半分怒りながらママンに詰め寄った。
「ジークは仕方ないでしょう?Aランクの魔物を倒す実力があるんだから、装備を整えておかないと危ないのよ!前回も死にかけているんだから…」
「納得いきません!ジーク勝負だ!」
面倒くさいことになった。ユリウス兄はこうなったら、てこでも引かない。
「短い木剣貸してくれる?」
俺が頼むとメリザが渡してくれる。
ユリウス兄も木剣を手にしてこちらに向かってくる。
「剣の勝負ね!強化魔法は使ってもいいけどその他は駄目よ!出来れば寸止めにして、怪我の無いように。負けたとしても文句を言っては駄目よ。」
ママンが注意事項を並べていく。
俺とユリウス兄が向かい合う。
「それでは、ユリウスとジークで模擬戦を行います。一本勝負なので文句のないように!それでは、始め!」
ママンの合図とともにユリウス兄が突っ込んでくる。
強化はしていないが鋭い連撃が襲ってくる。
こちらも強化を使わずに木剣で受け流す。
やっぱり短い木剣といえどもかなり重いが、その重さを利用して受け流せる。
攻めがすべて受け流されたうえ、攻めてこない俺にユリウス兄が段々苛立ってくる。
「ジークやる気はあるのか?攻めてこないならこちらも本気を出すぞ!」
口撃を仕掛けてきたユリウス兄を無視していると、真っ赤な顔をして身体強化を使って攻撃してきた。
ただ、ヘルタイガーの突進を知っている俺にはどうってことない。
強化を使わずに受け続ける。
ユリウス兄が焦りを見せ不用意に強引な打ち込みを行ってきた。木剣を摺り上げて懐に飛び込み喉元に木剣を突きつける。
「ユリウス、ジークの実力が分かった?ジークは生まれて二週間ぐらいから毎日魔力操作の訓練を行っているの知らないでしょう?それも寝てる時とご飯食べている時以外はいつでも魔力操作を行なっているわ。それに相手を良く見て相手に合わせて対応を変えている。今戦っていてもユリウスは疲れているけどジークは息も上がっていないわよ。」
「力一杯ぶつかっても、全然手ごたえが有りませんでした。空気を切っているようで素振りをするより疲れました。」
「それはね、ジークに全ての攻撃を受け流されていたからよ。相手の剣をよく見て剣に身を晒しても怖がらない勇気が必要なの。それにユリウス素振りをする時は何も考えないで行っているでしょう。一振り一振り相手を想定して、いかに速く、いかに強く打ち込めるか考えながら行っていると実践ぐらい疲れるものよ。」
「ジークはそれをやっているというのですか?」
「やっているみたいよ?素振りや型稽古を見ていると偶に相手が見えるときがあるわ。騎士団長だったり、カールだったり、私だったり、メリザだったり、イリスだったり、戦う相手によって打ち込む場所や速さを変えて、位置取りも変えているの。すごいわよ。あなたもよく見てみなさい。」
「素振りするに当たってもそれだけの心構えが必要なのですね。」
「ユリウスは剣以外の勉強はあまり真剣じゃないわよね。逆にジークはいつも本を読んでいるわ。」
「それも剣の強さに関係あるのですか?」
「たぶんね。本や勉強で知識を得るってことは考え方に幅が生まれるの。訓練するときの訓練方法にも現れるし、敵と向かい合った時の相手とのやり取りや、フェイントの掛け方にも影響を及ぼすわ。魔物退治のときは特に大切よ。相手の攻撃手段、弱点等を知っているとそれだけ有利に戦える。」
「そういうものなのですか?」
「そういうものよ!現にジークはヘルタイガーと最初に戦った時に死にかけるほどの重症を負っているわ。両腕、背骨、肋骨を骨折するほどのダメージを受けたの、でも二回目はあなたも見ていたでしょう?瞬殺だったわね。」
「あれには驚きました。逆にAランク魔物もたいしたことないと思いました。」
「あぁ~そうよね~ジークさっくり倒したもんね。でも普通ならあの状態でも大人五十人でも大変なのよ。死傷者も出るくらいにね。ジークがやってることは他の人には真似できないことだから気を付けてね。」
「なんとなく分かっていましたが、弟に負けるのは悔しくて…」
「あらあら、それじゃーカールや騎士団長は物凄く悔しいでしょうね。うっふっふ。」
「お二人でもジークにかなわないと…」
「剣ではまだ大丈夫かな?でも魔法を含めた総合力でかなわないわね。」
「そうなのですか?かなりショックです。」
「うんうん、わかるわ~ジークを相手にしていると自分がダメに思えてくるんだから…でもね。大丈夫!ユリウスは十分優秀よ!剣以外の事にも興味を持って色々やってみなさい。そうすればさらに剣も強くなるはずよ!」
「はい、今後色々精進します。」
「うん、頑張りなさい!ビアンカもね!」
「はい!ビアンカも頑張るの!」
ユリウスの後ろで聞いていたビアンカ姉も首肯してこの場は丸く収まった。
確かに弟で赤ん坊の俺が防具と武器を持っていたら兄姉は欲しがるよね。
うろついた俺が思慮不足だったと反省し、今後気を付けるようにしようとおもった。
装備の具合を確かめたかっただけなのになぁ~
『人間関係って本当にままならない。』
読んでくださってありがとうございます。




