57 秋の祭り
モース達冒険者が、来てくれた。
従士にはならないが、調査依頼は受けてくれるそうだ。
調査は開墾を手伝いながら、周辺から徐々に範囲を広げていく予定らしい。
注文しておいたお酒も大量に買ってきてくれた。
錬金術の本を読んで錬成するのに濃縮とか、分離とか、熟成なんてのが出来るのを知って蒸留酒を錬金術で作ってみる事にしたのだ。
まず、エールを樽ごと錬金で濃縮する。80℃の温度でアルコールを蒸留する要領だ。エチルアルコールだけを分離することも可能みたいだが、それをすると酒じゃなくなるのでやめておいた。
空の樽をきれいに洗浄して、蒸留して分離した揮発成分を洗った樽に入れ、熟成さす。取り合えず10年物で試してみる。
試しに飲んでもらうと、酒精が強くていいという人、香り、味共にいいと言う人、酒精が強すぎるという人もいるので、ロック、水割り、お湯割り、お茶に少し垂らしたものを試してもらう。
ほぼすべての人に受け入れられた。
「坊主この酒、旨いなぁ!もっと作れねぇのかよ?」
アストが聞いてくる。モースとオットーも聞き耳を立てている。
「作れるよ。これは持ってきてもらったエールを使って、錬金術で作ったからお祭りまでに十樽ぐらい作っとくよ。でもエールがかなり減るけどいいの?」
お祭りに出すお酒はどちらを優先したらいいか聞いてみた。
「こっちの方が、いいと思うぞ。飲み方も色々試せるしなぁ。」
アストのお墨付きをもらった。父さんも後ろで頷いている。
「あっ果汁で割るのもいいんだった。レモン絞っても爽やかになるし、女の人にも人気が出るはず。」
「ほうほう、いいね~ちょっと試してみようかしら。」
ノーラ姉が食いつく。メリザやママン、エリザも興味ありそうだ。
基本みんな呑兵衛だから蒸留酒は合うわなぁ~
さっさとブランデーも作ろうかな。
「取り合えず錬金術使わなくても作り方を書いてあるから道具作りから頑張ってみれば?」
羊皮紙にまとめた製造手順を皆に見せる。
「どれどれ?かなり面倒そうだなぁ。何?熟成に10年もかかるのか?」
興味があるのかアストが受け取ってオットーと目を通して苦笑した。
「結構手間かかるから、量産しないと特産品にはなりにくいんだよね。かなり高級酒になるしね。だれか頑張って挑戦してほしいな。」
◇◇◇
冒険者達のおかげで、開墾の効率は無茶苦茶上がった。
特にエリザ、ピルネ、イリスのおかげで3倍の早さで開墾が進む。
採取探索をイリスがやって、下草狩りをピルネがやって、枝打ちから木を伐り運ぶのを俺がやり、エリザが切り株と岩なんかを掘り起こしてくれる。最後に俺が耕して仕上げる。
枝の回収はモース、アスト、ケイン、アナベルが適当にやってくれている。
薪などの燃料になるので捨てられない。
二週間かけて開墾した広さを、五日で開墾してしまった。
人手が多いと言うのはやはり力なのだ。
お昼ご飯はイリスとエリザが交代で作ってくれる。
これが、結構うまいのだ。うん。かなりやる気が出る。
「いつでも、お嫁さんにいけるね!」
イリスは照れていたが、エリザに睨まれた。
いやー失敗、失敗。
◇◇◇
心に余裕が出来ると色々とやれることが出来る。
その一つが石の採取。
河原にいって鑑定して鉱石や砂なんかをとってくる。
石英や珪砂、長石、砂鉄、を拾ってきて、冒険者や従士に渡して見かけたら採取してもらうようにする。
重曹や石灰、硝石なんかも早く手に入れたい。
山に行かないとないだろうなと、思いつつ別の作業をする。
川辺の粘土をとってきてこねくり回してレンガ状にして乾かす。
土魔法で穴掘って、石を敷き詰めて、拾った薪を敷き詰めて、その上にレンガ載せて、薪載せて、空気穴を二か所空けて土をかぶせて、火をつける。風魔法でたまに風を送って丸一日ほって置く。
掘り返して焼きあがったレンガを取り出す。
これを使って登り窯を作ろうと思うけど直ぐに壊れてしまうだろうな。
◇◇◇
それから懸案の空間魔法を試してみる。
本も読んだが転移魔法はあるそうだ。呪文も載っていた。
ただ今回は別のアプローチをする。
空間魔法で物を収納する要領で扉を作る。
扉を開けて中に入ると真っ白い空間に出る。
鑑定を発動すると座標軸のw座標が変化した。
入ってきた入り口と別の場所に扉を作る。
扉を作るときに行きたい場所のx・y・z座標を指定する。行きたい場所につながった。
今回は屋敷の寝室とつないでみた。
無事行き来することが出来たので今度は扉だけでチャレンジする。
ドラ○もんのどこで○ドアだ。
無事成功した。これで王都まででも一瞬で行き来できる。
ママン達をこれで王都に連れて行けば楽できるんだけど、これ絶対怒られると思うので内緒にしておく。
◇◇◇
そうこうしている内に十日が経ち、今日は秋の収穫祭だ。
この一週間、開墾の合間を見つけては葡萄酒からブランデーモドキを、エールからウイスキーモドキを錬成しまくる。
エールの炭酸だけを分離して水に溶解させて炭酸水も作ってみた。
瓶に入れてきっちり密封して簡易氷室で保存している。
前々日には開墾チームで肉狩りに勤しんだ。
竜の森近くに行くと、魔物がいるはいるは。
猪、鹿、熊、兎、狼、蟷螂、蟻、蜘蛛、蛇、ランクC以下の魔物がうじゃうじゃいる。
美味しく頂ける魔物を重点的に狩って大量の肉を確保する。
魔物の森の周りには結構広い平原があってそこで狩りをするのがいい感じだった。
魔物の森の中に入ると肉食獣、昆虫型が増えるので厄介だ。
魔力が魔の森の奥に入るほど高くなるので奥に行けば強い魔物が要るのだろう。
閑話休題
とにかく飲み食いの準備はきっちりおこない、ついでに珪砂と石英と灰からガラスを錬成してグラスとジョッキを作っておく。
領主席と偉いさん用に作ってみた。
注ぐ飲み物についても色々メリザに伝授して振舞ってもらうようにする。
興味を持ってもらいたい。使いたいとなれば儲けもんだ。
自分たちで作ろうとする意欲が芽生える。
あとは、簡単な知識を与えて試行錯誤を繰り返してもらう。
◇◇◇
準備に勤しむと時が早く過ぎて行く。あっという間に秋の収穫祭が始まった。
司祭が神に感謝の儀式を行う。
村のキレイどころが、数人で奉納の舞を舞って儀式を盛り上げる。
俺はママンに抱かれて、儀式の後に紹介された。
「知っている者もいると思いますが、この子が春に生まれたジークフリードです。ちょっと変わった所がありますがよろしくたのむわね。」
ここで村人から歓声が上がる。
「「「「領主様おめでとうございます、ジークフリード様よろしくお願いします。」」」」
村人からの祝福がなんだかこそばゆい。
「みんな、収穫の喜びを、飲んで食べて祝いましょう。」
ママンの宴開始の合図に、ひときわ大きな歓声が上がり、宴が始まる。
今まで披露したレシピで作った料理に、新しい酒、肉もたくさん用意してあるので、次から次ぎへと焼かれて、村人の胃袋に収まっていく。
「この料理うめーなぁ」「肉が無茶苦茶多いぞ」「この酒うめぇー」
あちこちで上がる喜びの声に満足していると、ママンが頭を撫でてくれた。
んー幸せ!
リバーシと各地区対抗の綱引き大会も始まり、新しい娯楽に村人総出で盛り上がり楽しんでいる。
夜になり、大きな焚火を中心に若い男女が踊り始めた。
初めから、決まった相手と輪を作るもの、あっちこっちで女の子を誘う男達。
一人の男に群がる女の子。
その逆もしかり、うちのサラの周りに男が群がり始めた。
「ゆるせん!」
俺は大きな声で
「サーラー!抱っこ!」とこれ見よがしにサラを呼びつける。
その気のないサラは、少しうんざりしていたので、渡りに船でニコニコしながら俺を抱っこしてくれた。
抱っこした後、上機嫌で踊りの近くまで行ってオデコにキスしてくれた。
これはサラなりのアピールなのだろう。
『ジーク様が要るので、お誘いには答えられません。』
流石に領主の息子には敵わないと多くの男が退散していった。
俺も久しぶりにサラに抱っこして貰って、おでこにキスまでして貰ったので上機嫌だ。
冷えたエールを飲みながら、肉でも頬張りたい気分だがさすがにまだ早い。
クリームシチューを頬張りながら、皆が焚火の周りで踊るのを楽しく見物していた。
ホント、牧歌的でいいお祭りだった。
お祭りが終わると、開墾の仕上げと、旅の準備に入るので、サラに抱かれてしっかり息抜きしておこうと思う。
『何が起こるか判らない。今までも人生はままならなかったもの。』
読んでくださってありがとうございます。




