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おっさんは、異世界で貴族に転生した。属性はマザコン?(仮)  作者: 多田野風太
5章 のんびり田舎生活?
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53 陞爵したら大変だ!




今日は執務室でママンと祖母ちゃんの三人で領政会議だ。


父さんがいないのは近衛騎士復帰に当たり領内の見回りや準備をしているそうだ。


と言う建前で、従士や自警団を集めて訓練に明け暮れているらしい。(オットー談))


まずママンが切り出した。


「子爵領に陞爵されるのだからそれに見合った領内にしなければいけないの。緊急の案件だから協力して欲しいのよ。」


「具体的にはどうすればいいの?」。


俺が質問する。


「まずは、人口だね!今、領内の人口が600人強だから。最低でも十倍の6000人以上の人口が欲しいわね。」


祖母ちゃんがさらっと答えた。


「子爵に陞爵されただけでそんなに人口増やさないといけないの?」


祖母ちゃんを見ながら首をかしげる。


「ジークはキュプフェルトに行ったんだよね?あの大きさの街で子爵領なのさ。確かに交通の要所でかなり潤ってはいたし、領地も小さいからね…それでも子爵領なのさ。貴族になると格が重視されるんだけど…ぶっちゃけ金と兵隊なんだわ。帝国との戦に軍隊何人連れて行って食わせられるかなのよ。と言うことで…頭のいいジークならわかるわよね?」


祖母ちゃん、分り易い説明ありがとう。


「なるほどね。人口が経済力、軍事力に直結するわけだ。特に各領地とも交易で潤うような特産品も持ってないし…傭兵を雇える状態じゃないからね。」


「そう言うこと、子爵領としては、五百人は兵を揃えたいとこなんだ。すると必要な人口は?」


「出来れば人口は一万人以上欲しいね。」


「よくできました!」


祖母ちゃんに頭を撫でられた。


「辺境ど田舎の貧乏領地に人はそんなに集まらないわよぉ~」


憂鬱そうに死んだ魚の目をして、今にも消えそうな声でママンが呟く。


「でもね、魔物のスタンピートで難民が増えているんだよ。当面の食糧と耕作地があれば人を呼び込めるんじゃないの?」


俺がその意見を訂正すると少しママンの目に光が戻る。


一呼吸おいて、話を続ける。


「うちの村でも、跡取り以外は結構ケルンブルグや王都に出て手に職つけようとしている人がいるよね。徒弟制度だから中々独り立ちも難しいと思うんだ。このさいそういう人たちにも家族から声かけて貰って帰って来てもらえないかな?冬の間に従士を派遣して移住計画を立てるんだよ。」


二人ともフムフムと聞き入っているが、祖母ちゃんが一番大事なことを口にする。


「人が来ても耕作地はどうするんだい?一から南の森を開墾させるのかい?」


二人の目が俺の顔を穴が開きそうなくらい見つめてきた。


「先日ね、オットーと二人で三の村予定地に行ったんだ。それで、二時間ぐらいで二百メートル四方の木の伐採は終わらすことが出来たの。あと半日あれば切り株引っこ抜いて耕すぐらいは出来ると思うんだ。一か月もあれば二の村ぐらいの広さの土地は確保できると思うんだけど僕とオットー二人だけじゃね…」


祖母ちゃんが目を丸くして呟いた。


「ジーク、私等が十年かけて拓いた土地を一カ月で拓けるですって?」


慌てて祖母ちゃんを訂正する。


「普通に作物の収穫とかはまだ無理だよ。じっくり土を作っていかないと…腹案はあるけどね。」


「それにしてもすごいさね。ところで腹案て何だい?」


祖母ちゃんが興味深げに話の続きを促した。


「まず一つ目、灌漑用水路を作って水不足をなくすでしょう。」


「次は馬や牛で耕してる犂を改良するの。馬車みたいに両端に車輪を付けて犂刃を二、三本増やして重しを乗せて深く、広く、耕せるようにする。始めは手間が掛かるけど、土をしっかり砕いて石をきちんとどけてやる。」


「三つ目、今ある畑から肥えた土を少し分けてもらうのもいいかも?」


「四つ目、夏にクローバーや牧草を植えて家畜を放牧する。秋に耕して冬は甜菜を植えて春に収穫して次は雑穀を蒔く。何年かそれを繰り返す。普通に雑穀だけで土を作るより早く麦が作れるようになると思うよ。雑穀の代わりに手間がかかるけど芋を植えてもいいと思う。一つの作物に絞っちゃうと土も荒れるし、病気や、冷害、干ばつで全滅しちゃうからね。」


ついでに肥料の話もしておこう。


「作物が育つのに必要な栄養素があるんだけど、続けて同じ作物を作ると土の栄養素が少なくなるの。すると、収穫量が少なくなったり病気に罹りやすくなったりする。それを防ぐために肥料を与えるんだけど、その肥料にも色々あるんだよ。」


「一つ目、家畜の糞尿に藁を混ぜて寝かせて発酵させたもの。」


「二つ目、竈の灰を集めたもの。」


「三つ目、動物の骨を砕いて粉にしたもの。」


「四つ目、石灰や、硝石などの鉱石由来の物、」


「五つ目、小魚などを天日で干して砕いたものなど。」


「作物の種類や時期によって与える物が替わってくるんだ。だから、色々試してみる必要があるの。読み書きができる人できちんと記録に残せる研究員が欲しいんだよね。」


「最後に食べられない魔物肉を干して粉にして蒔いたら案外いい肥料になるかもね?」


羊皮紙にペンでメモ取りしながら、ママンが目を点にして呟いた。


「農業も奥が深いのね。耕して種を蒔いてればある程度勝手に実ると思っていたわ。名主にも色々聞いてみないといけないわね。」


祖母ちゃんも感心したように呟く。


「ジークは何でもよく知っているねぇ。赤ん坊とは思えないねぇ。昔の有名な賢者様の生まれ変わりかい?」


しれーとした顔でカマを掛けて来る祖母ちゃん。


「王都で本を読んだし、鑑定スキルもあるからね。鑑定スキル便利だよ。祖母ちゃんも取ってみれば?」


ギョッとして慌てて首を振る。


「この年になって鑑定なんて取りたかないよ!冗談は良しとくれ。」


「「「あははは」」」


三人の乾いた笑いが木霊する。


「それじゃあ、今回の冬は、僕はずっと南の森を開墾かな?」


話を戻して俺が確認する。


慌ててママンが否定する。


「それは無理だと思うわ。ヒルデ先輩と女王陛下が許してくれないわよ。自分の娘を嫁に出そうとしている男を辺境でほっとくわけがないでしょう?ユリウスの洗礼式だけじゃなく、カールの近衛騎士復職もあるし、下手すると私も役職を与えられるかもしれないわよ?お母さんが領主に復帰させられる可能性もあるわよね。メリザの両親とよく話しておいた方がいいのかしら?」


一瞬、鳩が豆鉄砲食らったような顏で固まった祖母ちゃんが再起動するのに約一分かかる。


暫く沈黙が続いたがそれを破った声はあまりにも大きく恨みがましかった。


「な~にぃ~カールが近衛騎士復職ですって!それから、ジークが王女殿下とケルナー辺境伯公女と婚約内定ですって!両方とも何も聞いてないわよ!寝耳に水とはこのことよ!どういう事なのきっちり説明して貰おうじゃないの?」


ドスの聞いた声が響き渡り、「これぞ極妻」と思わず声を上げそうになるのを必死にこらえママンを見る。


きれーに目をそらしている口笛吹いている姿も幻視されるくらい恍けていた。


だが祖母ちゃんは許してくれない。


「さっさと説明する!」


ママンにずいっと滲みよる。


諦めたママンは「赫々云々」と一通り説明し終えると大きく溜め息をついた。


祖母ちゃんも大きく溜め息を吐く。


「五年で伯爵領にならなきゃまずそうねぇ。」


そうしてもう一度大きく溜め息を吐く。


「マリー。ジークのやらかしたこと知っている冒険者が居たわよね?すぐ連絡とってくれる?何とか家で雇ってジークの手足になって貰いましょう。どの途、開発前に広い領内を調査して魔物の分布を記した地図も作りたいし、それを元に開発計画も立てなきゃなんないしね。」


「直ぐ段取りするわ。」


「収穫祭が終わってから出発するんだったわよね?」


「大体12月に入ってからすぐ出発することになるわね」


「そうすると後一カ月半か?その間ジークはチャンバラごっこもお預けして馬車馬のように南の森の開墾だわな。すまないけどよろしく頼むよ。」


「わ・か・り・ま・し・た。…が・ん・ば・り・ま・す?」


「なんか不服そうだねぇ~」


「ん~不服と言うか色々やりたいことがあったから…当分樵の真似事ばかりだと思うとね…」


「やりたい事ってなんだい?」


「一つ、ブドウ畑や果樹園作ってワインやエールの醸造所を作るでしょう。」


「二つ、陶器、磁器、ガラス細工ができる窯を作るでしょう。」


「三つ、木や藁から紙を作るでしょう。」


「四つ、家畜の豚を解体して燻製肉を作ったり、羊の腸にミンチ肉を詰めて燻製して保存食を作ったりするでしょう。」


「五つ、家畜の乳からチーズも作りたいな。」


「六つ、材料が色々必要だからギラン山脈に探しに行きたい。」


「七つ、錬金術が使えると試薬の調合とか、材料の抽出が楽そうだから錬金術も本格的にやりたいなと思っていたんだ。」


「八つ、戦争も近そうだし鍛冶師がいれば作ってみたい武器もあるんだけどね。」


祖母ちゃんが両手を揚げて降参していた。


「ホント、あきれてものも言えないよ!ジーク!あんたの頭の中はどうなってるんだい?とにかく一人でできる範疇を超えているよ。鉱物資源がいるなら山師に当たってみないとだめだし、腕のいい鍛冶師も必要だね。羊皮紙がもったいないけどやりたいこと全部羊皮紙に書きだしな。あたしとマリーで適当な奴に仕事を割り振るから指示だけだしな。」


そしてさらに、聞き捨てならないことを口にする。


「とにかく、最優先事項は開墾だ。これから一カ月半頑張っておくれ、王都までの旅の間はチャンバラだろうが、錬金術だろうがなんだって好きにすればいいさ。王都に着いたら人材集めにも手を貸すからね。」


ママンが驚いた顔で確認する。


「えっお母さん王都に行くの?」


「折角楽隠居しているのに、仕事を増やそうとするやつがいるからね。かわいい孫のこともあるし、おてんば娘どもにきっちり釘をさしとかないとね。久しぶりに王都にご一緒させてもらうよ。」


ニヤリと不敵に笑った祖母ちゃんがのたまった。


あ~この人だけは敵に廻しちゃだめだと本能が叫んでいる。


これからの一カ月半、チェーンソーと耕運機になることを考えると憂鬱になってしまったが仕方ない。頑張るとしよう。


「ふー人生ままならないぜよぉ」


読んでくださってありがとうございます。

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