51 ただいまぁ~
また、書き始めました。
宜しくお願いします。
手を振っている祖母ちゃんとサラに、御者席から手を振りかえす。
御者席に乗っているのが俺だと気付いた二人は、かなり驚いているようだ。
領地を出発してから二か月たっているが、やっぱりゼロ歳児。
御者台に普通に腰かけている赤ん坊なんているはずがない。
「ルーデ祖母ちゃん、サラ、ただいまぁ~」
ごく普通の挨拶なのだが発したのが赤ん坊。
旅の間やらかしたことを知らない二人には晴天の霹靂。
「ジークがしゃべってる?」「ジーク様が…ジーク様が?」
二人で手を取り合って喜んでいるようにも見えるし、怖がっているようにも見える。
とにかくあたふたしている。
そんな間にも馬車は館の玄関に近づき停車する。
真っ先に馬車の扉から飛び出したのは、この家の三女のノーラ姉さん。
飛び出すと同時にルーデ祖母ちゃんに抱き着き飛び跳ねて喜びを表している。
「母さんただいま!久しぶり。元気そうでなによりだよぉ。それでね。聞いて、聞いて、今度、私男爵に陞爵されることになったんだよぉ~すごいでしょう!」
それを聞いたルーデ祖母ちゃん思わずノーラ姉を抱きしめる。
「ホントに?本当なの?」
後から降りてきたママンを祖母ちゃんが見つめる。
ママンは祖母ちゃんに向かって首肯する。
「本当ですわ。ノーラも頑張ったんですから…」
それを聞いた祖母ちゃんはノーラ姉を抱きしめたまま泣きだした。
「よくやったね!頑張ったね!」を繰り返す。
それにつられてノーラ姉もわんわん泣き出した。
まるで子供みたいだと思ったのだがそれだけすごいことなんだと認識を改めることにした。
そして、女王陛下に対して子爵位叙爵を断ろうとした自分の常識外れ具合を噛み締め反省する。
祖母ちゃんやママンがこんなに喜んでくれるんなら爵位が上がるのもいいかもと、ちょっと考えてしまった。
でも面倒くさそうなんだよねぇ~特に社交が…
一息ついたノーラ姉がさらに爆弾投下。
「なんと!シュタトー男爵家が、シュタート子爵家に陞爵します!」
祖母ちゃんとサラの腰が抜けてしまった。
そんなにびっくりすること?と思ったのだがそういうことなんだろう。
「あなたたち何をしたの?王都のバルト家から軍務卿がらみの案件で帰るのが遅くなると早馬をいただいたけど、どう云う事なの?詳しく話を聞かせなさい!」
そう叫んだ祖母ちゃんを「後でゆっくり話をするから」と宥めてすかして、やっと荷下ろしや馬の世話を始める一同。
◇◇◇
荷降ろしを終え、湯浴みをして寛いだところで、リビングで祖母ちゃんに対してママンと父さん、ノーラ姉さんが旅の説明を始めた。
子供達はそれぞれリビングのソファーで寛いでいる。
僕はいても仕方ないのでメリザを連れて裏庭に出た。
収納魔法に押しこめている肉とか片付けたいんだよね。
と言うことで、土魔法で階段を掘り地下室を作る。
結構な手持ちの肉があるから全部放り込めるくらい大きな室を作った
いきなりのことに戸惑ったメリザが俺に聞いてくる。
「ジーク、いきなり地下室なんか作って何する気ですか?」
そうそう、最近やらかし過ぎているせいでメリザやオットーも俺のことは呼び捨てにしている。俺もその方が気楽なのでお願いしたんだ。
もちろんモース達冒険者にも同じことを言ったよ。
閑話休題
「メリザ、いらない棚とかない?肉とか酵母とか食材の貯蔵庫にしようと思うんだ。すみに氷の塊を出して冷やすから、かなり日持ちすると思うよ。オットーに頼んで、明日にでも入口に木の扉を取り付けて、棚を置いて欲しいな。」
納得した顔で首肯したメリザについ軽口を叩く。
「酒樽も置けるし使い勝手がいいと思うんだ。エールは冷えていた方が美味しいから父さんもオットーも喜ぶんじゃいかな?」
「ジークなんでそんなこと知っているんですか?まさかエールを…」
メリザが胡乱げに睨みつけてくる。
しまった。前世の「ビールは冷やして飲む」という常識が口に出てしまった。
動揺しない様に、無視して言葉を続け話を逸らす。
「あと、夕食は折角だからメリザの家族とメイド達も一緒に王都で出した昼食会のメニューにしたら?ルーデ祖母ちゃんもサラも食べてないし村に広げちゃっていいよ。」
そう言ってテケテケ歩いて調理場に行き肉と酵母を収納魔法から取り出す。
もちろんフォレストカリブーの肉も多めに出しておく。
それを見て俄かに喜ぶメリザ。一応ママンに確認しに行ったが、OKが出たみたいでサラを連れて戻ってきた。
「奥様から許可が出たので、早速準備しますね。ジークはリビングで寛いでいてください。サラ、初めてのレシピだからしっかり覚えてくださいね。」
メリザの目に僕の姿はもう映ってないだろう。
リビングに行くと、かなり驚いたのだろう祖母ちゃんが、それでも優しい目でこちらを見てくる。
一応、俺のことはきちんと受け止めてくれたみたいだ。
手招きされて、テケテケ祖母ちゃんの前まで行くと、優しく抱っこされ膝の上に座らされた。
すぐそばの祖母ちゃんの顔を見つめていると、祖母ちゃんが優しい声で囁きかける。
「ジーク人は弱い生き物なのよ。大きすぎる力は凡人には恐れられるの。あなたの力を下手に知られて『悪魔の子だ。』と騒がれ、異端視されるのはかなりつらいことよ。命の危険も考えられるわ。領民も含めて出来るだけ隠した方がいいわね。洗礼式が終わるまでは不自由かもしれないけど隠しておきましょう。」
そして一呼吸置いた後、話を続ける。
「でも、ありがとうね。みんなを守ってくれたそうじゃない。それだけじゃなく王国も救ったのですって…小さい体で頑張ったのね。かなり無理したみたいだけど大丈夫?大人は子供を守るものなんだから、あまり無理せずに自分のことだけ考えてればいいのよ。それでも本当にありがとう。あなたは我が家の誇りだわ。しっかり大きくなってね。」
祖母ちゃんにやさしく諭され、いい子、いい子、して貰った。
なんだか照れくさくって、嬉しくって祖母ちゃんに何時迄も抱きついていた。
読んでくださってありがとうございます。
のんびりペースで掲載させてもらいますのでよろしくお願いします。




