48 混沌の昼食会
「カールの実家のバルト男爵だが、キュプナー子爵領を没収してバルト男爵に与えるつもりじゃ。キュプナー子爵になるのかな?」
陛下が徐に話始める。
「あそこの娘婿は、この出兵で手柄を立てれば第一師団の連隊長だな。第一師団の連隊長にはヤーコプもなるから、人手が足りんのでカールが近衛百人長に復帰。ノーラは小隊長じゃな、あと男爵に陞爵。今回の作戦に参加したものはジーク以外、全て叙勲する。」
ママンを見つめて陛下が問いかける。
「それでいいか?マリー」
「私に聞かれましても…」
困惑するママンに陛下は続けた。
「それぞれの者には確認を取るが第一功の者に了承を取らなければな。」
「そういうことでしたら結構です。」
ママンが了承すると陛下が大きく息を吐いて零した。
「これで一つ片付いた。本当に忙しくて困る。皆も待たせておるし食堂に行くか?」
「「畏まりました。陛下」」
陛下は立ち上がりつかつかと見知った家のように食堂に向かう。
ヒルデ小母さんとママンも後に続く。
俺一人首を傾げているとママンが聞いてきた。
「どうしたの?ジーク」
「陛下が自然に家の中を移動しているから変な感じがしてね。」
「陛下とヒルデ先輩よく家に来ていたのよ。落ち着いて寛げるって言ってね。」
「なるほどね!」
そんな話をしていると食堂が騒がしい。
食堂を覗くと祖父ちゃんと団長がリバーシをしていた。
かなり白熱している。
陛下とヒルデ小母さんも興味深そうに覗いている。
メリザは王都に着いて早々にリバーシと糖蜜を神殿に奉納して特許権を取ってきていた。
ついでに木工所で十個ほど作らせて、祖母ちゃん所に一セット置いてあるそうだ。
ということで早速もう1セット持ってきて陛下とヒルデ小母さんに進めている。
メリザ商売上手だ。
メリザの方を見るとキラキラ光る眼でサムズアップしてきた。
昼食の準備もばっちりみたいだ。
暫く食堂でガヤガヤしていると「昼食の準備が出来たのでお運びします。」とセバスが告げた。
「貧乏男爵家なのでお口に合う物は出せませんが…」とママンが前置きしてスープから運ばす。
パンも一緒に盛り合わせて運んできた。
うんうん。ふっくらパンになっている。
黄金色の透き通ったスープに目を見張る。一同
スープを口に入れて目を見張る。一同
中に入っているなんちゃってロールキャベツを口に入れて目を見張る。一同
パンを取り、ちぎって口に入れ、スープに浸して食べて目を見張る。一同
陛下が叫んだ。
「なんじゃ!このスープとパンは?予は今までこんな美味いもの食ったことないぞ!宮中より良いものを食べおって何が貧乏男爵じゃ!マリー予を担いだな!」
メリザはじめメイド集が誇らしげにサムズアップした。
「陛下、これはケルナー辺境伯を持て成すために急遽手に入れたレシピを使用人たちが丹精込めて作ったものです。私も食べるのは今が初めてです。それなりの食材を使っておりますが宮廷料理に及ぶような高価な物は使用しておりません。使用人の努力の賜物です。ご容赦を…」
「む、む、む、使用人の努力の賜物か?ならば仕方が無いのう。」
ママンが口上を述べると陛下も少し落ち着く。
そして、ゆっくり味わって食べていく。
「しかし、上手いぞ。こんな透明感があるのに深みのあるスープは初めてじゃ。具材の野菜に包んである物は肉か?それにしては柔らかい。それとこの柔らかくふわふわのパンはなんじゃ?見たことも聞いた事も無いぞ。」
ビアンカ姉が「お代わり!」と言ったのだがメリザに続きがあるから後でと言い含められて我慢した。
次は温野菜とトマトのサラダである。ソースのマヨネーズ付である。
野菜サラダはありふれたものなのだが、ソースを付けた途端に目を見張る一同
メリザ達全員サムズアップである。
メインの肉料理が運んでこられたが、一つの皿に二個の肉料理が乗っている。
一つはフォレストカリブーのステーキ。もう一つはハンバーグ。かかっているソースはハンバーグソース用である。
ステーキを一口食べて皆目を見張る。ソースとよく合うのだ。
陛下が聞いた。
「これはフォレストカリブーのステーキか?」
メリザが答える。
「さようでございます。」
「このソースによって旨味が数段上がっておるな。」
そしてハンバーグを食べて目を見開く。
「これはまた、初めての料理。ステーキとは似て非なる物。しかし柔らかく噛めばあふれる肉汁がたまらん!これもフォレストカリブーか?」
「ブラウンボアとブラウンカリブーです。陛下」
メリザが答えた。
「なんと!ブラウンボアとブラウンカリブーでこの美味さか!他の料理の食材もフォレストカリブー以外は高級食材は入ってないのか?」
「はい、一番高いもので鶏の卵です。」
「なんと!すべて市井の食材でこの美味さか?信じられんが…」
陛下はそれから一心不乱に料理を食べまくった。
子供達は全員全部の料理をお代わりしている。
メイド衆はうんうんと頷いている。
それに、負けじと大人もお代わりする。
混沌となる食卓で俺はメリザを手招きする。
「材料足りる?」
「肉が足りません。あとパン種が…」
「パン種は発酵するのに時間がかかるよ?」
「申し訳ありません。わたくしたちの分なので…」
ニッコリ笑って頷く。
メリザに抱かれて厨房へ行き肉と酵母を余分目にドンドンと置く。
歓声が上がる厨房。
メリザに抱かれて食堂に行くとノーラ姉がまた空気を読まない一言を言う。
「また、ジークの仕業?」
大人たちの視線が一瞬で俺に集まる。
ノーラ姉がまた一言。
「新しいレシピね?」
大人たちが復唱する。
「「「「新しいレシピ?」」」」
「ジーク、これはそちのレシピか?」
聞いてくる陛下にしかたなく頷く。
「はい」
鋭い目つきになった。
しかし、流石に今は食事中なのでそれ以上は突っ込まなかった。
そして、みんな満腹になるまで食事を堪能した後、紅茶と一緒に運ばれてきた物を不思議そうに見つめる。
最後のデザートプリンです。
メリザがスプーンですくって食べてください。というと皆恐る恐る口に入れる。
そして一瞬後、女性陣と子供が叫びをあげる。
「「「「美味しい。」」」」「「「あまーい。」」」
女性陣、子供達、大歓喜である。
「口に入れるとプルンと蕩けて、コクと上品な甘さが残る。この世のモノとは思えない美味しさ。さらに底にある。黒いソースが甘さのアクセントになってもう絶妙な美味しさ。」
誰だかわからないがグルメレポートをしてくれた。
ビアンカ姉が速攻お代わりを申請するがさすがにこれはお代わりを用意できなかったようだ。
但し、メイド衆は試食でしっかり食べていた。
この後、壮絶なレシピ争奪戦が勃発する。
「マリーこのレシピを予に譲るのじゃ!」
「わたしにも、わたしにも譲って!マリー」
「我が家にもよかろう?家族なのじゃ良いよな!良いよな!」
「すまぬ。わたしもレシピを頂けないか?」
この場に居た貴族が全員レシピを欲しがった。
ママンがこっちを見てくる?
「このレシピはノーラ姉さんの婚活の秘密兵器です。そう簡単に渡せるものではありません。」
俺が苦しい言い訳で乗り切ろうとすると、
がしっと俺を抱きしめる、ノーラ姉さん。うれし泣きしている。
陛下が妥協案を出してくる。
「それならば教会にレシピを奉納すればよかろう。王家の晩餐会で出た料理の方が、箔がつくぞ!」
ノーラ姉さん飛び上がって喜び、うんうんと頷いている。
陛下の案が採用されたので後日レシピを渡すことになった。
但し、酵母については必要な時に俺が売るということにして貰った。
陛下からレシピ一つに付き、金貨十枚で買うということなので皆それに習ってくれた。
他に新しいレシピは無いのかと聞かれたので研究が必要なので新作が出来たら知らせると言うと皆、狂喜乱舞した。大げさなことだ。
今後のレシピの管理はノーラ姉さんが婚約するまでノーラ姉さんに任せることにした。
ノーラ姉さんの喜びようが凄まじく俺を抱いてぐるぐる回るので目が回りそうになった。
食事の後、祖父ちゃんとノーラ姉さんに今回の褒章について陛下から打診された。
祖父ちゃんとノーラ姉さんが涙を流して喜んだ。
その後リバーシの即売会なんかもあったがご機嫌のうちに陛下は帰って行かれた。
ヒルデ小母さんの用事は予想通りAランク魔物の討伐に助力することで、できるだけ早く来てほしいとのことだった。
国軍との連携を確認しているので二、三日後には王都を出発することになりそうだ。
本当に慌ただしい。王都観光もしてないのに…
『本当に人生はままならない!』
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