47 すげーめんどくせー
つかつかと歩く女王様、迷わずリビングに到着。
ガバッと扉を開けて中に入る。
ヒルデ小母さんも何のためらいもなくリビングへ。
ママンは一つ溜め息をついてリビングへ。
俺はトテトテとゆっくり歩いてリビングへ入る。
後ろでドアがキィーバタンと独りで閉まる。
慌てて振り返り扉を確認する。
誰も扉触ってないよね?
えっ幽霊?朝から?
うそでしょ?こないだ殺した人の祟りとか?
想像してゾクッ、背筋が寒くなるのを感じた。
扉を見ている俺に、ソファーにどっかり座って寛いでる女王様がのたまった。
「ビビったか?風魔法で扉を閉めて見た。ふふふ。ビビった様じゃな。案外肝は小さいの!わっはっはっは。」
くっ完全に玩具だ!
ママンとヒルデ小母さんが天を仰いでいる。
取り敢えずママンの横に座って隠れるようにしがみ付いた。
「堅苦しいのは嫌いじゃ。学園の時のように無礼講でよいぞ!」
「アーナ先輩いきなり来たと思ったら、ジークを玩具にして酷いんじゃありませんか?ジークはこれでも一生懸命、王国の為に頑張って来たんですよ。労いの言葉もないんですか?」
女王陛下にいきなり説教するママン。中々やるな!
忘れていたように話し出す陛下。
「そうじゃ!そうじゃ!ジーク、お主の活躍はアルベルトより聞いておる。複数のAランク魔物の討伐。キュプフェルトと近隣の村を包囲していた魔物の殲滅。ご苦労であった。王国も首の皮一枚で救われた。礼を言う。」
「滅相もないお言葉。恐縮でございます。」
俺は恐縮して答礼する。
陛下がいきなり褒美の話をし始めた。
「褒美として爵位を与える。今が男爵であるから陞爵して子爵とする。これはマリーだな。ジークも洗礼式が終わったら子爵じゃからな。これで許してくれ。」
良く分らないのでママンを見上げる。
「ちょとアーナ先輩ジークが混乱してるじゃないの!陞爵とか言ってもこの子まだわかんないわよ!それと洗礼式終えたらこの子に子爵位を叙爵するってこと?そんなことできるの?」
ママンが分らない顔をしている俺の代わりに突っ込んでくれる。
「うんできるぞ!前例があるからな。普通成人する時に下級貴族の子弟には騎士爵が与えられるが、成人前だから叙爵できるんじゃ!お披露目時にいきなり爵位持ちじゃからな注目されるぞ!」
自慢げに胸を張って答える陛下。
「そんな、注目されたくないのよこの子は!いい加減面白がってるでしょう?」
ママンが俺の気持ちを理解して突っ込んでくれた。
「いやな。ヒルデの娘や内の娘と家格を合そうとすると、どうしても早めに爵位を上げとく必要があるんじゃ。成人するまでにもう一回手柄を上げなければ伯爵にはなれんからな。マリーが頑張って領地開発して辺境伯になってくれればなぁ。何の問題もないんじゃが…」
いきなり家格の話をする陛下に突っ込むママン。
「ちょっと待ってくださいよ!ヒルデ先輩はこないだ婿にこいと言っていましたけどアーナ先輩の娘ってエミリア?」
「そうエミリアでもいいし、まだ頑張って産むからな相性のいい子と結婚させる。じゃから侯爵にまではなって貰わんと困るんじゃ!」
でたー王族との結婚話。まためんどくさいことになりそうだ。
「内の娘が第一夫人、ヒルデの所が第二夫人じゃ。そうなるとさらに厳しいか?」
なんか夫人の順位付けまで決まっているし…
「そうなのよ、マリー。私も頑張ったんだけどさすがに女王にねじ込まれたら断れないのよね。」
ヒルデ小母さんも納得済み?
なんだか嫁を二人貰うことになったみたい。
「まだ、猶予はあるんでしょう?」
ママンが食い下がってくれる。
「うん、洗礼式までは水面下で動くだけじゃ!あまり気にせんでもよい。このまま普通に育っても、この国一番の優良物件じゃからな。リーゼロッテがもう五歳若ければ我が国も安泰だったんじゃがの。上手くいかんもんじゃ。」
次期女王の旦那にしたいと言い始める陛下。話が飛躍しすぎている。
「そうよねぇ~ロッテちゃん可愛くていい子なのにあんな馬鹿に目をつけられて本当に災難よ!」
ヒルデ小母さんが殿下の不幸話で流れを変えた。
「そうなんじゃ!ロッテが不憫でのぉ。この際じゃからあの馬鹿処分してしまいたいんじゃが共和国が絡んでおるからのぉ。カーリンの親馬鹿思考は読めるんじゃが、欲深脳筋夫がのぉたちが悪いんじゃ」
今回の事件の真相へと話が進むかと思ったら、ママンが事後処理に話を飛ばした。
「じゃあ、ジークが言ったように馬鹿息子を救う代わりに、交易税の増税と魔獣の森周辺の領地を召し上げることになるの?」
渋い顔でうなずく陛下。
「そうするしかないのう。」
なんだか気の毒だったのでちょっと提案してみた。
「ついでにガイエス辺境伯公子を共和国に留学させてしまえばいいんじゃないですか?男には継承権はないですし、リーゼロッテ殿下の周りを騒がす事も無いでしょう?他の貴族子弟との繋がりも薄くなります。実質王国貴族界から五年間抹殺することになると思いますが?」
俺の案に飛びつく陛下。
「ジーク!そちは本当に赤子か?宰相でもその案は思い浮かばなんだぞ!辺境伯の息子を貴族学園に通わせない訳には行かないし悩んでおったのじゃ!」
さらに追加で提案してみる。面子とか建前って大事だからね。
「交換留学と云う体裁を取って共和国から有力貴族の子弟を留学させて、女王派閥や中立派と繋ぎをつけても面白いですね。共和国は商才に長けた者の力が強いと聞きます。新しい市場を見に来るのは商人に取って非常に魅力的です。優秀な人材が来るのではありませんか?そこから次の外交に繋げていけば南派閥の牽制にもなりますよ。」
「ふっはっはっは!ホントにジークは優良物件じゃのう!交換留学と云う形を取れば共和国代表クラスの子供を呼んでもおかしくないし、カーリンや馬鹿息子の面目も立つ。実に良い手じゃ!早速文官と相談してみるとしよう!」
あっ俺の株がまたあがった?
ここらで話を戻して、
「ところでこの度の褒美として子爵位を頂けると言うことですが、全て陛下とヒルデ小母さんの都合ですよね!褒美になっていないのではないかと思うのですが…」
三人が唖然とする。
「子爵位が褒美にならんじゃと?爵位を要らんと申すか?」
「ええ!あまり爵位を頂いても面倒事が増えるだけで何のメリットも感じません。王都で権謀術数に明け暮れて、ドロドロとした人間関係に磨り潰されるより、シュタート領でリーゼ姉さんの手伝いをしながら領民が豊かになるような領政を行う方が何倍も遣り甲斐があります。」
「お主野心はないのか?英雄になりたいとか?国王になって全ての者を跪かせるとか?色々思い浮かぶじゃろう?」
「これっぽちも!考えてください。今の僕でもこの王都を壊滅させることが出来るんですよ。本気になればガイエス辺境伯もサクッと潰せます。そんな赤子が英雄になりたい。国王になりたい。全ての者を跪かせる。冗談になってないですよ。」
俺の言葉に戦慄する三人。
「でも、そんなことしても何の利益もありません。大事な家族が困るだけです。但し、家族に何かあれば魔物だろうが人族だろうが容赦しませんよ!気を付けてください。」
「そちは、予を脅すのか?」
真剣な顔で俺を見つめる陛下に真摯に思っていることを伝える。
「いえ、ヒルデ小母さんもそうですが身分を盾に自分の都合を押し付けないでください。私の価値観は、他の貴族の方たちとはかなり異なるということを覚えていてくだされば結構です。」
顔が引き攣っているヒルデ小母さんに声を掛ける。
「それからヒルデ小母さんは一応身内認定なので安心してください。そんなに顔を引き攣らせなくても大丈夫ですよ。自領へ帰る時にAランク魔物を狩る手伝いをして欲しいんですよね!解ってますよ。」
それを聞いて悔しげに陛下が聞いてきた。
「ジークよ。予に対してはどうなのじゃ?」
チョット釘を刺しておこう。
「いきなり玩具にされて、自分の都合を押し付けられて良い印象を持たれていると思いますか?」
「…う、うむ。すまん」
意外に素直な対応。びっくりしたがすごく好感が持てたので対応を変更する。
「冗談ですよ!ママンの大事な友人で先輩なんです。それだけでもう身内認定です。それに急でしたが、うち見たいな貧乏男爵邸にお忍びで来てくださって、きちんと話をしてくださっているのです。それだけでお仕えさせていただく主に相応しいと考えております。」
一応持ち上げてお願い事をする。
「ですが、今回の褒美としてお願いしたいことがあります。一つは同行したパーティメンバー特にモース達冒険者にも寛大な褒章をお願いします。」
陛下が心配するなと胸を張って答えてくれる。
「それは大丈夫じゃ!冒険者達やオットーにも、きちんと叙勲し、褒美もつかわす。」
こっちは俺の切実な願望。
「もう一つですが、国が管理している図書館や書庫並びに王宮内の書庫にある本すべての閲覧権を頂けないでしょうか?もちろん禁書も含めてです。以上なんですがいかがでしょうか?」
俺の希望を聞いて陛下が仰った。
「なんだか肩透かしを食らった気分じゃ。まず最初に一緒に旅した仲間の褒美の心配じゃと?それも一階の冒険者に気を配るとは…」
そして俺の言質をとって都合のいいことを言い出した。
「分った。今聞いたことを考慮して褒美を考えよう。しかし洗礼式後の子爵位叙爵は決定だからな!公の場以外なら義母上と呼んでもらっても構わんぞ。せっかく身内と言ってくれたんじゃしな!」
ヒルデ小母さんも乗ってくる。
「アーナだけずるい。私も今後公の場以外なら義母上と呼んで欲しいわ!」
あーすげーめんどくせー
読んでくださってありがとうございます。
評価、ブックマークいただけると嬉しいです。




