46 くつろぎタイム?
一家は邸宅に戻り、セバス、イルマ、ペトラに出迎えられた。
かなり心配されていたようだ。
ママンはケルナー辺境伯への使いをセバスに依頼したあとくつろぎタイムに入った。
湯浴みの準備をしてもらい、俺を抱っこして湯浴みをする。
ノーラ姉が「早く!早く!次は私」と急かしてくる。
気持ちは判るけど、ちっとは落ち着いて欲しい。
「はー生き返る。」旅の汚れを落としただけでかなりすっきりした。
ママンもさっぱりした様子で寛いでいる。
楽な服に着替えリビングに行くと一斉に子供達がママンの周りを占拠した。
微笑ましい光景にニンマリする。
厨房に行って旅の途中に残っていた解体した魔物肉を出してレシピを教えて料理を作ってもらう。
猪肉と鹿肉を細か包丁で叩いて塩、胡椒、スパイスを入れてしっかりこねる。
パンを磨り潰したものを混ぜ、新鮮な卵と牛乳を入れこねる。
微塵切りにした玉ねぎをきつね色に炒めて火から外して冷やしたものをひき肉と合して混ぜる。
ひき肉を小判形に成形して、フライパンで両面に焼き目を入れた後、じっくり蒸し焼きにして中まで火を通す。
焼き終わったフライパンの残り汁にワインと野菜スープを入れ煮詰めてそれにバターを入れよく混ぜる。
塩、胡椒、スパイスで味を調えたものをソースとして焼き上げたものにかける。
ハンバーグの出来上がり。
これなら俺でも食べられそうなので試作でもいいから作ってとお願いする。
あと、旅の間干しブドウで酵母をこっそり作っていた。保存食の干しブドウと水を壷に入れて蓋をして、一日に一、二回息をさせて収納魔法にしまっておいた。
始めは腐らせていたけど、壷や蓋を念入りに熱湯消毒し、水もキチンと湯冷ましを使い出してからいい匂いがしてシュワシュワが出るようになった。
試しに小麦粉を貰って上澄み液と混ぜて種を作ってもらう。
明日になって膨らんでいたら半分を使ってパン種を作って、焼いてもらうことにした。
作ってから1、2時間くらい寝かすのも教えておいたので昼か夜にはうまくいけばフワフワパンが食べられるだろう。
オットーはフォレストカリブーを肉屋に解体してもらいに行った。
明日ぐらいに鹿肉ステーキが食べられそうだ。
◇◇◇
夕食はかなり賑やかだった。
ニマニマ、キラキラした顔のメリザ達が早速ハンバーグを食卓に並べたのだ。
俺だけじゃなく、全員分だ。
皿に盛られたハンバーグに興味はあるが、初めての料理に様子を見ている家族。
メイド達は早く食べろと視線で急かしている。
「これは全員試食済みだな。」と思い至る。
それでは食べようとした瞬間。
ビアンカ姉がフョークで切ったハンバーグの大きな塊を、大きな口でパックンした。
次の瞬間両目を見開きほっぺが落ちそうなほどニンマリして叫んだ。
「美味しーいの!今まで食べた中で一番おいちーの!」
そう言って二口、三口とほおばってモグモグモグ
開口一番
「お代わりなの!」
スピード完食&お代わり攻撃を発動する。
メイド達は慌てるかと思ったのだが、ニマニマしながらうんうんと全員が頷いている。
そしてペトラがいそいそと厨房に行きお代わりを取ってきた。
「うへーなんて段取りいいの?これは試食の時に同じことをやったな。」と当りを付けてジト目でメリザを睨む。
そんなことをしていると皆が食べ始めた。
「美味しいですわ!」
「「これは旨いな!」」
「あらあら、これは美味しいですね。うふふ」
「うっまーい!どこの晩餐会でも食べた事ないよ!」
リーゼ姉、父さん、ユリウス兄、ママン、ノーラ姉の叫びが次々に上がる。
「口に入れて一噛みすると肉がフォロッと崩れて中から肉汁がジュワ―と溢れ出し、ソースのなめらかでコクのある深い旨味と混然となって蕩ける様に崩れて行く。まさに至高のメニューだ!」
ユリウス兄がグルメ漫画の審査員になっている。
あっという間に全員完食の上お替わりを所望した。
メイド達は嬉々としてお代わりを配膳する?
メルザを手招きして呼び寄せる。
「肉は足りるの?」
「もう少しでなくなります。」残念そうにつぶやいた。
「メリザ抱っこ」
抱っこして貰って、厨房に行き追加の肉をドン!ドン!と置く。
歓喜の声が厨房に響き渡る。
食堂に戻るとジト目で見つめるノーラ姉がいた。
「もしかしてこの料理ジークの発案?」
俺が答えるまでもなく、メイド達がコクコクと頷いた。
「またあんたなの?レシピの扱いには注意しなさい!いい交渉材料になるわ!」
「他に新しい料理のレシピはないの?」
聞いてくるノーラ姉さん。
「他にも色々あるけど材料とか道具とか色々揃えなきゃいけないから…また考えとくよ。」
ノーラ姉の顔が綻びる。
「ジーク頑張るのよ!そしてレシピを私に渡すの!」
そう言ってブツブツ呟く。
「この料理で胃袋をつかめば、結婚だってあっと云う間に決められるわ!私の独身生活さようなら!絶対いい男捕まえて見せる!」
あー婚活がかかっているのか~
できるだけ援護することを心に誓うのだった。
色々な思惑の中、俺も久しぶりのハンバーグに大満足する。
大盛況の夕食の後、旅で疲れが溜まっていたのだろう。あっという間に眠ってしまった。
移動ベッドではなく久しぶりのママンのベッドで。
◇◇◇
翌日、ゆっくり目に起きて家族で朝食を取りながら穏やかな団欒を過ごしていると、ケルナー辺境伯から昼前に来るという連絡があった。
有無を言わせず来るそうだ。
こういう時は上位貴族が屋敷に招くのが常識らしいのだが、今回はヒルデ小母さんだけで来るし、こちらも旅で疲れているだろうからと気を使ってくれたらしいのだが、メイド達にとっては寝耳に水。昼食の準備にあたふたする。
昨日のハンバーグと、パン種が上手く膨れているのでそれ焼いてを出して…
今ある野菜に魔物肉の筋や、骨を砕いてコトコト煮混んで、スープだけを濾して卵白を泡立ててスープに入れて灰汁を取り、キャベツの様な葉物野菜でハンバーグの肉種を包んで煮込んでスープとして出す。
メリザに「生卵は食べるの?」と聞いたら普通は食べないらしい。
ただ、魔法で殺菌して食中毒防止はできるようだ。
なので余った卵黄でマヨネーズを作る。
卵黄とワインビネガーを串焼き用の串を紐で束ねて作った簡易の泡だて器で泡立てて、植物油をゆっくり入れてさらに泡立てクリーム状になったら、塩、スパイス、ハーブで味を調え最後に魔法で殺菌して貰って出来上がり。
トマトなどの生野菜や茹でて水を切った野菜にソースとして添えて出す。
最後のデザートは
卵に糖蜜を入れ、ほぐして牛乳を混ぜ裏ごしする。
糖蜜を鍋で熱して少し焦がす。
糖蜜を焦がしたものを少しと、卵を牛乳に混ぜた物を、コップに入れて蒸すか湯せんにかけて火を通す。
食べる前に氷でよく冷やしたらプリンの出来上がり。
こんな所をレシピとして渡しておいた。
あとは、メリザ、イルマ、ペトラ、ニーナ、オットーに任せて俺は成り行きを見守ることにした。
◇◇◇
ヒルデ小母さんが来る定刻になった。
玄関が騒がしい。どうやら小母さんが来たようだ。
俺以外の全員でお出迎えすることになっている。
書斎で本を読んでいる時に寝てしまいそのまま寝させているという設定で押し通すらしい。
旅の疲れが癒えていないようなのでそっとして置くと言えばさすがにヒルデ小母さんでもちょっかいは掛けにくいだろう。という作戦だ。
ヒルデ小母さんだけにしては、なんだか騒がしい。よく聞いた笑い声も聞こえてくる。
なんか嫌な予感がして書斎のソファーに寝転んで寝たふりをする。
ドタドタと複数人の足音が聞こえたと思うと、バタンと書斎の扉がいきなり開き、声が響く。
「いつまで狸寝入りをしているのじゃ!予が折角来たのに出迎えもせずに、いい気なものじゃな!不敬罪で打ち首にしても良いのだぞ!」
「うぎゃーご勘弁を…」思わずソファーから飛び起きる。
プラチナストレートの髪が美しく、神々しい雰囲気が全身から出ている、超美人のお姉さんが扉の前で腕を組んで仁王立ちしていた。
「そちがジークフリードか?」
尊大に聞かれたが訳も解らないのでコクコクと頷く。
「頭が高い、予がルンベルク王国女王、ユリアーナ・ウル・ヘルメスベルガ―・ルンベルクである。控えおろう!」
「はっはー」
あんたは水戸のご老公か?心の中で突っ込みながら、
俺は華麗なフライング土下座を決めたが、女王がキョトンとした。
しまった前世のくせが…
慌てて女王の前に跪き
「この度のご無礼、平に、平にご容赦を…」
「あっはっはっは。冗談、冗談じゃ!許せ。許せ。ヒルデにそちの話を聴いてな、面白そうだからチョットからかっただけじゃ。あっはっはっは。かたくるしいのは嫌いじゃ。リビングでゆっくり話そうか。行くぞ。ジーク。」
そう言ってつかつか歩いて行く。後ろに居たヒルデ小母さんが今にも吹き出しそうだ。
ママンは呆れた顔で女王陛下を見た後、憐れみを込めた目でこちらを見つめている。
うわー面倒臭いことになった~
『もういやだぁーこんなままならない人生』
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