45 王都への帰還
とにかく急いで王都を目指す。
何処に敵が、南派閥の手が伸びているか分らないからだ。
宿場町と云えども安全ではないことが堪える。
先行してヤーコプとヴィアさんが王都に帰還して近衛騎士団を動かすことになった。
機転を利かせたヤーコプが馬を余分に掠めて来たらしい。
二頭で乗り換えながら急げば今日中に王都に入れるかもしれないからだ。
二人は颯爽と去って行った。
この後は三日から四日の旅になる。
取り敢えず次の宿場町は兵糧などを補給するだけで素通りすることにする。
旅の間、魔物はシルバーウルフの群れやフォレストエイプの群れ、オークの集団、オーガの集団などCランククラスとそれなりの頻度で出くわすが俺が余計なことをするまでもなく、簡単に倒してしまっている。
宿にさえ泊まれれば何のことはない快適な旅なのだろう。
いや、普通Cランクの魔物に出くわすのはおおごとなのだが俺たちの感覚がマヒしてしまっているようだ。
昼ごろ宿場町に着いて、食糧を補給してしばらく進み、適当な水源で野営することを二日繰り返した。
三日目の昼前にヤーコプとヴィアさんを含む近衛騎士団二百騎と合流することが出来た。
五十騎が俺たちの護衛、百騎がキュプフェルトまでの街道の確保と宿場町の占拠。五十騎がキュプフェルトの統治にあたるそうだ。
まあ、王都も近いので安全になっているのだが、近衛騎士五十騎に守られているのだ、安心この上ない。賊の三人も引渡し馬車での旅に戻った。
そして、早めに宿場町の宿に入りゆっくりと旅の疲れを癒すのだった。
どの途王都に着けば俺はする事も無くなるので王都見学とか本屋廻り、図書館廻りとしゃれ込みたい。
そんなことを考えながら一泊し朝食の時に話を振った。
「魔物の素材結構あるんだけど王都に着いたらギルドによってもらっていい?ついでに金貨三枚で地図を買わされたから、買取価格も三倍にしろと吹っかけてくれるとうれしいんだけど…吹っかける時に見せるのは馬車に乗せている分だけで、実際には俺の収納に入れてるAランク魔物全部を倉庫で出すんだけどね。言質さえ取っとけば後でどうとでもごねられるでしょ?」
「我が孫はまた悪辣なことを考えておるわい!」
祖父ちゃんが呆れながら呟いた。
「今回の魔物素材の売却益と魔物討伐の報奨金は人数で均等割りにしようね?多い少ない文句なしってことでどうかな?」
「ほうほう、て言うことは私にも小遣いがもらえるってこと?」
ノーラ姉が嬉しそうに言う。
「団長さん達騎士団三人に、うちら家族、モース達冒険者の全員で人数割りだよ!少しでも買取価格が高い方がいいよね。どうせ王都のギルマスは南派閥とつるんでいるんでしょう?ヤーコプさん?」
「なぜその話題で俺に振る?俺は何も知らんぞ!」
ヤーコプが汗をぬぐいながら語気を強める。
「とにかくそれでいいよね?」
最後に確認すると、冒険者以外が頷いた。
モースが恐る恐る口を開く。
「ちょっと待ってください。俺たちはCランクですし、魔物討伐にはあんまり戦力になっていませんでした。人数均等割りは貰い過ぎでさぁ。」
「いーじゃないか、モース。リーダーのジークがこう言っているんだ。貰っておけば」
団長がモースに貰って置くように促した。
「団長!僕リーダーじゃないですよ!」
俺が抗議すると、
「今更何言っているんだ?あれこれ好き勝手やるわ、あれこれ仕切るわ、Aランクを含め殆どの魔物を狩った奴が今更何を言う!私の近衛騎士団長のプライドをズタズタに引き裂きおってまだ足りぬのか?ジークよ!」
鋭い目つきがやけに怖い。
「ごめんなさい。」と謝るしかなかった。
そしてみんなが笑って場が纏まり、王都までの最後の旅が始まる。
◇◇◇
無事に王都に辿り着き、冒険者ギルドにやってきた。
ノーラ姉以外の近衛組は王城に早速報告に行き、それ以外は全員居る。
祖父ちゃんが素材の買取依頼をだす。慌てて買取担当と、ギルマスがやってきた。
朝の打ち合わせ通りのことを、祖父ちゃんがそのまま口にするとギルマスが馬車の中身を見て渋々頷いた。
取り敢えず解体場所と受け入れ倉庫から人払いをしてもらう。
収納魔法に入れてある魔物を片っ端から出していく。
ただ、フォレストカリブーだけはオットーの知り合いの肉屋で解体してもらうことになっている。
家族で食べるためだ!
倉庫も解体場もいっぱいになってしまった。
其処にギルマスと買取担当が顔を出して青い顔をしている。
「こんなの聞いてないですよ!」
祖父ちゃんに文句を言うが
「お主が馬車だけを見て判断したんじゃろう?なんも聞かんかったしのう。国の危機に欲張りおって、大事な情報をきちんと流さなんだのが悪いんじゃ。金貨三枚貰って大損するのう。なんならグランドマスターでも、女王陛下にでも相談して貰っても構わんぞ!その時飛ぶのはお主の首じゃろうがな。リアルの…」
祖父ちゃんは辛辣に返した。
ギルマスはぐうの音も出ない。
依頼掲示板に貼ってあった依頼書も今回達成したものを片っ端から受付に持って行き、討伐報奨金も根こそぎ持って行った。
あと、祖父ちゃん以外全員がランク昇格申請を出しておく。
LVと今回の討伐実績があれば全員昇格できるだろう。
俺は流石にギルド登録出来ないみたいなのでママンに抱かれて大人しくしていた。
◇◇◇
一応戻ってきたことは近衛騎士が家に連絡してくれている。
モース達とはギルドで別れ一先ず祖父ちゃんの屋敷に向かった。
祖父ちゃんの屋敷に着くと玄関口に子供達が飛び出してきた。
「さびちかったぁー」ビアンカ姉がママンに飛びついてオイオイ泣き。
ユリウス兄は父さんに抱きつき、リーゼ姉もママンに抱き着いて顔を押し付けている。
まだ、年端もいかない子供なのだ。仕方がないよね。
ホッコリしながら少し離れた所から眺めていた。
祖母ちゃんからゆっくりしていけと言われたがゆっくりできないので馬車で帰ることになった。
当然メリザとニーナも一緒である。
ユリウス兄の洗礼式の準備が終わったことやその他の雑事に対する連絡だ。
ただその中に無視できない一言があった。
「ヒルデ様が王都にいらしております。マリー様がお戻りになったらすぐに連絡する様にと仰せつかっています。」
ママンは大きな溜息を一つ吐き呟いた。
「屋敷に着いたらセバスにヒルデ先輩の所に戻ってきたと使いを送っておくように伝えとくわ。」
俺も大きな溜息を一つ吐く。
厄介ごとの臭いがぷんぷんする。
『どこまで人生ってままならないんだろう?』
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