40 驚愕の事実
あたーらしい朝が来た♪きぼーのあさーだ♪
なんだかどこかで聞いたことのあるような音楽で目が覚めた気がしたが夢だったみたいだ。
すっきりとした覚醒は気持ちがいい。
目の前にはママンの顔があった。
あー一睡もしてないんだろうな。
そう思わせるほど憔悴してこちらを見つめている。
ごめんなさい言葉にしようとして思い止まる。
「ママンお腹すいた!」
ママンの目がどんどん座って行く。
口が大きく開き一瞬呆れた様子を見せたが開いた口からマシンガンの様に言葉を打ち出してくる。
「ジーク―あんたはあれほど自重しろと言っているのに、言うことも聞かず心配ばかりさせて…オットーに銘じて私が庇う邪魔をさせてどういうことよ!母親が子供を庇うのは当たり前なのに…それなのに、それなのに、それなのに―――キ――大体ねーあなたは調子に乗り過ぎてるのよ!ヘルタイガーの時だって不用意に魔法を放って油断して、大怪我するし……」
それから一時間今まで溜め込んでいた、心配と、怒りと、不甲斐なさが混じったような鬱憤を全て吐き出してママンはお小言を終了した。
「ゼェー、ゼェー、ゼェー、とにかく少し周りの迷惑も考慮して自重しなさい。それから私はあなたの側から離れません。子供を庇うのは親の特権です。分ったわね!」
やっと終わった。そして俺がぼそりと呟く。
「ママン、お腹すいた。」
キーーーと見開いた眼が、優しいいつもの垂れ目に変わる。
呆れた顔で一言。
「じーく?ぶれないわねぇ。」
そういってお乳をくれた。
ママンの肌は暖かかった。
◇◇◇
朝食も最近の恒例でスープに浸した堅パンの離乳食を食べさせてもらう。
全員俺がブラックバイソンの中で行ったことに興味津々だ。
一応中でのことを説明した。
口の中に飛び込んで口腔に二本の苦無を突き立てて胃の中に落ちるのを防いだ。
ライトの魔法で明かりをとる。
チロチロと鬱陶しい舌が俺を胃に押し込もうとするので、背中の短剣でぶった切り胃の中に流し込んだ。
唾と血がねちょねちょと気持ち悪いがしかたない。
次に氷筍の魔法で口腔を突き破ろうとするけど突き破れない。
魔力が残り少なくなったのでしかたないから賭けに出た。
短剣を強化して上顎の脳に近そうな所に突き立てる。
ナイフを右手に持って、イリスに作ってもらった外套で全身覆い尽くして念入りに包まる。外套に念入りに塗りつけた蝋のお蔭で唾や血を弾いて外套や服は濡れていない。
覚えていた呪文を唱える。
『大気に漂う数多の風と火の聖霊たち…我が言霊に従いて…わが敵に汝の大いなる稲妻の裁きを…』
『サンダーボルト』
周りを雷が駆け巡る気配と共に気を失った。
語り終わると同時にママンが俺のお尻をペチンペチンと叩き始めた。
涙をぽろぽろこぼして…
「馬鹿」「ホントに馬鹿」呟きながら。
「ごめんなさい」ぽつりとこぼすと俺を抱きしめ大泣きするママン。
暫くすると泣き疲れて寝てしまった。
俺はバイソンの死体を収納魔法に入れて、父さんがママンを馬車に運んで寝かせて毛布を掛ける。
その横に俺は座り御者台にはノーラ姉が座った。
ノーラ姉にグチグチ言われる。
「無茶ばかりする!」「生意気だ!」「私は荷運びしかしてない!」「私が活躍できない!」「結婚できないのはあんたのせいだ!」
いやいや最後は、絶対違うでしょう?
そう言えば確かにノーラ姉、活躍してないなと思った。
LV変わってないよね?と思いながら鑑定するとLV47になっていた。
「ノーラ姉さん活躍してないとか言いながらLV47に上がってるよ!」
知らせてあげると、「嘘!すごい!すごい!」とよろこぶノーラ姉。
ほっといて全員のレベルを確認する。
騎士団長LV67、ヤーコプLV53、ヴィアLV50、祖父ちゃんLV59、父さんLV56、オットーLV53、ママンLV51、モースLV40、アストLV41、イリスLV40、ピルネLV41、エルザLV43、俺がLV31。
全員軒並みLVアップだ。どんだけ魔物倒したんだかと呆れてしまう。
◇◇◇
午前中はのんびりした旅程が続いいて魔物も全くいない。
昼休憩前にママンが目を覚まし、いつものママンに戻っていた。
のんびり昼食休憩を取り小一時間ほどするとBランク魔物がうじゃうじゃ湧き始めた。
ブラックウルフ八頭の群れが居たり、レッドグリズリーが居たり、ファングボアが居たり、美味しい所でフォレストカリブーが居たり。
俺が出ようとしても皆我先にと飛び出してはあっという間に狩ってしまう。
まじ、瞬殺だ。
昼休憩の時に言ってしまったせいかもしれないと冷や汗をかいた。
何を言ったかって?皆に鑑定したLVの値を言ったのだ。
「うぉー夢のLV六〇台まであとひとつぅー」祖父ちゃんが雄叫びをあげ。
モース達冒険者が、「Bランク!Bランク!」と手を取って踊り始め、
ヤーコプさんやヴィアさんまで「「よっしゃ来たー!」」と叫びを挙げていた。
団長はいつもと変わらず静かに座っていたが、握りこぶしに力が入っていたのを見逃しはしなかった。
それに比べて家の両親とオットーは落ち着いていた。
そんな中ノーラ姉さんが空気を読まずにのたまった。
「ジークあんたLVいくつなの?」
「いやーたいしたことないよ!」
「じゃー言いなさいよ!気になるでしょう?」
暫くすったもんだするが結局俺が折れる。
「しかたないなぁLV31」
浮かれていた空気が一瞬で固まった。
両親とオットーは諦めた感じでうんうんと頷いている。
騎士団長の拳にさらに力が入ったのを見逃さなかった。
皆の後ろに炎を幻視した。
昼食休憩もそこそこに出発し昼から襲ってくる魔物にヒャッハー大会第二弾である。
断じて僕のせいじゃないよ!僕のせいじゃないったらない!
暫くすると森を抜け見渡す限りの草原地帯に差し掛かる。
厳しかった旅ももうじき終わりだとウトウトしていたら、ママンに起こされた。
「ジーク起きて大変なの!」
周りには皆集まっており北の方角だろう一点を見つめている。
遠くの方に物見の塔と思しき建物と城壁が見える。
気が付けば俺はママンに抱かれ馬車から離れて小高い丘に登っていた。
あ~やっと着いたんだ~とホッとしたが視線を城の手前に落として愕然とする。
魔物の大群が街の城壁を取り囲んでいるのだ。
ここまで酷い状況だとは思っていなかった。
百や二百の魔物じゃないのだ。桁が一つ違っている。
どれだけいるのか数えるのも嫌になるくらいの大群っだ。
「帰ろうか?」
誰も何とも云わない。
「数千対十四人どんなムリゲーよ!」自分で突っ込んで虚しくなる。
『あ~人生ってこんなにままならないものだっけ?』
読んでくださってありがとうございます。




