38 ブラックバイソン 前篇
翌日は非常に順調に進んだ。馬も馬房でゆっくり休み、残っていた飼葉やら野菜やらたらふく食うことが出来たみたいだ。
今日ぶつかるだろうブラックバイソンついて情報を貰っとく。
「ママン。ブラックバイソンのこと教えて?」
「あらあら、魔物の予習?ブラックバイソンンの情報ね。うふふ」
「ブラックバイソンはね大きな蛇の魔物なの。特に毒があるとかじゃないんだけどね、とにかく大きいの。そして鱗が堅いのよ。大きさが全長五十メートル以上、太さが一メートル以上あるの。生き物なら何でも一息で飲んじゃうわ。多分Aランク最強じゃないかしら?グリズリーも巻き付いて締め上げて骨を砕いて丸のみ。タイガーは速いから中々捕まえきれないけど五十メートル以上あるから囲まれて一気に締め上げられて丸呑みかな。そして鱗が堅いから爪も牙も歯が立たない。魔法も効きにくいのよ。鱗で魔法の効果も著しく下げられるわ。あの鱗鉄壁の鎧なのよ。素材としても高額買取されているし、お肉もあっさりしていておいしいから倒せれば一攫千金なんだけどね。強すぎて誰も手を出せないの。あと首切り落としてもしばらく体は動いて暴れるから注意してね。」
本当に厄介極まりない。対策が思い当たらないけど最悪やれることはやっておこうと少し準備をする。
ママンに聞いてみる。
「僕がかぶれるようなフード付の外套ってないかなぁ」
「ジークに合うほど小さいのはないのよねぇ」
困った顔でママンが答えると、そばにいたイリスが話しかけてきた。
「ジーク様に合うように有り合わせで作っちゃいましょうか?外套一枚でも防御力上がりますから。うん、サクッと作りましょう。」
身軽なイリスは自分が乗っていた馬から馬車に飛び移り、馬車に手綱を結んで、荷馬車に転がっていた布を使って器用に外套を縫い始めた。胴の部分、袖の部分、フードの部分をサクサク作って小一時間ほどで仕上げてしまう。
「イリスって女子力高いよね。いいお嫁さんになるね。」
ぼそっと俺が呟いたら、
イリスが顔を真っ赤にして答えた。
「手先が器用じゃないとシーフは出来ないですしね。幼いころから裁縫や料理はやっていますからこれ位は出来ますよ。それにジーク様に言われましても…赤ん坊ですからねぇ」
イリスが少しいじけてしまった。
出来た外套を着るとぴったりと合う。
「イリス、ありがとう」
と言ってその外套に蝋を擦りつけていく。
「あっイリスぅ、苦無の余りってないの?あったら2本頂戴。」
「良いですよ。他にご注文は?」
「えっとね。苦無に紐を括り付けてベルトに結わえて体を支えられるようにしたいんだ。」
「ジーク様城壁でも上るつもりですか?」
「えへへ、ホントにでかいんだよねぇ。あるのとないのでは成功率が全然違うんだぁ。」
「また、訳分んない事言ってぇ。あんまりマリー様を心配させちゃ駄目ですよ!昨日だってマリー様ずいぶん心配されていたんですから…」
その言葉を無視してさらに注文を出す。
「それと、俺が背負えるくらいの短剣の予備ってあるかな?」
「多分幌馬車の中にあったと思いますけど…ジーク様近接戦でもするつもりですか?」
胡乱な目つきで睨んでくるイリス。
「いやいや、そんなつもりは毛頭ないんだけど今度の敵はでかいでしょう?万が一、頭に取り付けたときに目を潰そうとしても俺が持っているナイフじゃ傷が小さすぎてダメージにならないんだよね。」
「あ~またそんな危険なことを考えている!ホント無茶なこと考えていますね!えっもしかして苦無も頭に取り付いた時に振り落とされない様にとか…」
「いやいや、万一に備えてだって自分から突っ込んだりしないから。」
「そうですか?心配だなぁ」
そんな話をしながら外套やイリスが用意してくれた紐やベルトにも蝋を塗りつける。
イリスも装備を次々に用意してくれた。
出してくれた物を装備できるように紐で結わえたりベルトに取り付けたりして準備が整った。
最後にイリスに釘を刺される。
「ジーク様はこのパーティのリーダーなんですから潰されると全滅しますからね。くれぐれも気を付けてください。」
「リーダーって…騎士団長も祖父ちゃんもいるじゃん。」
「ダメダメ、騎士の方たちは頭が固いから搦め手が取れないんですよ。すぐ真正面から戦いたがる。魔物相手じゃ早死にするんですよ。そういう人たちは…」
「そうなんだけど俺だって一緒じゃない?」
「何言ってるんですか?うち等ちゃんと知ってるんですよ!御姉兄様に経験積ませるためにゴブリンとかが狩りやすい状況に誘導してたでしょう?あの手際を見てたからこの依頼受けたんですけどね。ここまで多くの近衛騎士団長みたいな化け物達に囲まれるとは思いませんでしたが…精々稼がせてくださいよ。ジーク様」
「――あ~期待に沿えるよう頑張るよ…うん」
そんな話をしながら馬車に揺られているとお昼になった。取り敢えず休憩をとり、ブラックバイソン対策を話し合うがいい案が出ない。
とにかく実物を見てから考えようということになった。
小一時間ほども進んだだろうか?街道の横の森にでっかい魔物が一匹潜んでいる。
百メートル近い細長い魔物だ。ブラックバイソンだろう。
早速斥候のヤーコプさんとイリスが偵察に出かけブラックバイソンを発見する。
大きさは話に聞いたより大きく体長が八十メートル太さが1.3メートル頭が軽自動車並みとかなりでかい。
今はどうも食休み中みたいで全く動きがないそうだ。
チャンスと見て俺たちは動き出す。
念のため馬や馬車は五百メートル手前で置いておく。
そこから徒歩で気配を消して近づいて行く。
百メートル、五十メートル、三十メートル近づいても動きがない。
強者の余裕なのか?食い過ぎで動けないのか?とにかく近づけるとこまで近づく。
前衛は団長、祖父ちゃん、父さん、一列下がってヴィアさん、ノーラ姉さん、オットー。
後衛がヤーコプさん、イリス、エリザ、ピルネ、ママン、俺。
後衛の護衛にモース、アムト(盾持ち)の隊列を組んでいる。
合図と同時に前衛がブラックバイソンの首を狙って剣を振り下ろす。
ガッキーン、ガキーン、ガッキズザ
という音が響く父さんの大剣が鱗を砕き肉に食い込む。他の二人も鱗は砕いたみたいだ。
魔法使いは氷筍、石筍の魔法で喉下から頭部を突き上げる攻撃をする。
ヴィアさん、ノーラ姉さん、オットーは頭や目を狙って攻撃を叩き込み、弓使いも目を狙って矢を射る。
俺は気○斬改めエアサンダー(対象を気流に乗せた砂や鉄粉で削っていくことから)を発動して奴の首めがけて叩きつける。
キュイーーーン鉄板をサンダーで切る時の音が響き渡り、火花とブラックバイソンの鱗が飛び散る。
目を開いたブラックバイソンが身をよじらせ鎌首を擡げシャァ――と威嚇をしたあと、グルンと前衛の周りを回るようにかなりの速さでズリズリ動く、慌ててバイソンが描く円から抜け出す前衛。
最後に取り残された団長が跳躍でバイソンの胴を飛び越えた後、蜷局を巻いて締め付け攻撃をするバイソン。
間一髪団長は、かわしたがあの攻撃を食らったら全身締め上げられグチャグチャにされてしまう。
バイソンは蜷局を巻いたまま前衛を威嚇している。
キシャァ―――そして、ズン、頭部を伸ばして噛みつき攻撃を仕掛けてくる。
軽自動車並みの頭部が全身筋肉のバイソンからスリングショットの様に発射されるのだ、
前衛も剣や盾でガードするのだが頭部と接触するたびに弾き飛ばされる。
伸びた首元を狙い砕いた鱗を吸収したエアサンダーで叩き斬りにゆく。
キュイィ―――ン
鱗が混ざった分だけ切れ味が良くなる。
頭を戻し鎌首を擡げキシャァ―――そして、ズン頭部を伸ばして噛みつき攻撃を仕掛け前衛をはじき、伸びた首元をエアサンダーで削る。
数度同じ攻撃を繰り返すバイソンに、前衛も同じ攻撃に慣れて来たのか上手く衝撃を逃がし伸びきった首元に剣を叩き込む。
徐々に傷を増やしていくブラックバイソン。皆に少し余裕が出てきた。
蜷局を巻いて鎌首を擡げたバイソンが今度は前衛じゃなく後衛向かって全身で跳躍をする。
牙を向いて迫ってくるバイソンをモースとアストが盾で受け流す。
狙いは完全に俺だ。でっかい頭をよけようとした瞬間ママンが俺を庇うように覆いかぶさる。
ドッシン
頭から地面に落ちたバイソンがズリズリッと円を描く。
ママンは俺を庇ってバイソンにぶち当たり弾き飛ばされダメージを受けたみたいだ。
俺とアストはバイソンの体に囲まれる。
「アスト胴を飛んで逃げろ!」必死で叫ぶと同時にバイソンの胴が絞め上げる。
ママンの悲鳴と皆の叫びが辺りを包みこんだ。
読んでくださってありがとうございます。




