37 ヘルタイガー
次は夕方ごろにヘルタイガーに接触するはずなのでそれまでお乳を飲んでまた寝ることにした。
昼過ぎに起きると魔物の素材が増えていた。途中B、Cランクの魔物がいたので狩ったらしいオラウータンのでかいのが居たので少し驚いた。
一時間ぐらい進むとやたらでかい魔物の反応がありその周りにそれより少し小さな反応が五つ現れた。多分ヘルタイガーとサーベルタイガー?
「森の中のタイガー種はやっかいだ。」モースが呟く
「木を使った立体的な動きに翻弄されるのよね。」エリザが言う
「ヘルタイガー一頭にサーベルタイガー五頭だろう?サーベルタイガーが連携してくるわね。」ノーラ姉さんが言う。
「森から誘い出せぬか?」祖父ちゃんだ。
「無理そうですよ。まだ襲ってこないとこ見るとこっちを警戒していますね。」イリスの言葉。
「街道と森の間で睨みあいか?時間がないというのに…」騎士団長
「「根競べでしょう?のんびり行きましょうや!」」ヤーコプとアストがハモった。すごく意外だ。
「ヘルタイガーはとにかく早い。一瞬にして背後を突かれるからな。油断できない。密集体系で互いを庇い合うしかないんだよね。」ジルヴィアが言う。
「後衛も気を付けて一瞬で差を詰められて爪と牙で瞬殺よ」ママンが言う。
軽―い感じで俺が言う。
「みなさーん突撃の準備してください。卓袱台引っ繰り返しますよ!」
「卓袱台ってなーに?」
ノーラ姉さんからの質問がかえて来るけど無視して呪文を詠唱する。
『大気に満ちし大いなる風の聖霊よ…、我が言霊に従いて荒ぶる竜となり天を震わせよ…彼の者を巻き上げ刻み尽くせ…』イメージするのは無数の竜巻が魔物を中心に発生し森の木々をなぎ倒し吹上刻み付ける様子。トリガーワードを叫ぶ。
『トルネード』
前方に無数の竜巻が発生し木々を吹き倒し木片に変えながら吹上ぶつかり大きな竜巻になっていく。土は抉られ砂塵や木片でサーベルタイガーも切り刻まれる。
数分後現れたのは土が抉られ、木がなぎ倒された、直径三百メートルの広場と五匹のサーベルタイガーの死骸。
そして、ダメージは受けているが眼光に鋭い光を宿した全長6メートルを超えるヘルタイガー。
前足の爪を地面に突き立て、背を丸めバネを限界まで押し込んだような体制でさらに後ろ脚に力をため込んで俺を睨んでいた。
やべ!タゲられた。魔力を全身に纏い対物シールドにする。
両腕を交差し背中を丸めて対ショック態勢をとる。
同時に衝撃波が全身を襲い、後ろに吹き飛ばされる。
体重がないに等しいので吹き飛ばされるだけでダメージも少ないはずだ。
爪もシールドが受け止めてくれている。
目の前には小型のショベルカーの爪さきの様な前足が俺をシールドごと抑え込み身動きできない。
「ゲホッゲホッ」
腕と胸と背中に激痛が走る。
周りの大人たちは反応できていない。
「怖い!怖い!怖い!逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ…」
凍り付く思考の中で一瞬光がさす。
唯一動いていた団長がヘルタイガーに向かって剣を突き立てようとする。
それをタイガーは牽制の為に首を向け一睨みして止めてしまった。
奴に一瞬隙が出来た。獲物を捕らえたつもりでいるサーベルタイガーに腰からナイフを引き抜きナイフに強化をかけ、腕を強化して思いっきり顎下目掛けて投擲する。
ボキッと俺の腕が強化に耐えきれず折れて激痛が走るが恐怖に紛れて我慢できる。
投擲したナイフはちょうど下顎の骨のない部位に直撃し下顎を貫通し上顎の骨で止まってしまった。
残念ながら脳には届かなかったが、捕まえた獲物からの痛撃に、飛びのいて距離を取るヘルタイガー。
その隙に俺を抱え上げ退避するママンと盾を構え護衛するオットーとモース。
団長と祖父ちゃん、父さんがヘルタイガーを取り囲み動きを封じたうえで、魔法使いと弓使いが遠距離の飽和攻撃を仕掛ける。
ヘルタイガーから再度溜めの気配が感じられた。
「やばい、やばい、やばい」
大声を上げて周りに知らせてから、ヘルタイガーの顔面にフラッシュを発動させて目くらましをかける。
一瞬の閃光に視力を奪われたヘルタイガーは闇雲に暴れ回る。
その隙を逃がすほどうちのメンツは甘くない。
ヤーコプとイリスが弓矢と苦無でヘルタイガーの目を狙い的確に左右の目を潰す。
矢と苦無はヘルタイガーの視力を永遠にうばい去った。
暴れまわっていたヘルタイガーが一転体を沈め動かなくなった。
いつでも飛びかかれる体制で、魔力と気配を読んでいる。
俺は魔力を丹田に貯めて殺気を込めて一気に放出した。
ケルナー辺境伯邸で使ったモノのアレンジバージョンだ。
辺りを俺の魔力と殺気で覆われたヘルタイガーはパニックになっている。
其処を逃さず祖父ちゃんが右前脚を跳ね飛ばす。
父さんが、障害物がなくなった右側から首を狙って強化した剣を振り下ろしきれいに首を跳ね飛ばしてしまった。
助かったぁ~と安堵した。
次の瞬間から全身を激痛が襲う右腕、胸、背中、左手首とんでもないダメージを受けている。
脂汗がにじみ出て治癒魔法をかける余裕がない。
エルザとピルネが走ってきてエルザが光魔法の治癒を、ピルネは水魔法の治癒をかけてくれた。
激痛は少し収まったが痛みはまだ残っている。
そこへノーラ姉さんがポーションを持て来て飲ませてくれた。
かなり痛みは引いたが完治と言う訳にはいかないだろう。
まだ痛みは残っている。ママンとエルザが引き続き診察してくれたが、肋骨4本が折れて、背骨にひびが入り、右腕脱臼と上腕骨が骨折。左手の橈骨と尺骨が骨折。かなりの重傷だ。
自分に治癒魔法をかけるにも魔力が残り少ないので無理するわけにいかない。
今日は流石に動けないのでヘルタイガーの血抜きをしてもらって近くまで持ってきてもらい収納した。
その夜は近くの村に泊まった。
と言っても人っ子一人いない無人の村だ。
多分キュプフェルトに非難しているのだろう。
申し訳ないが少し豪華な家に泊まらせてもらった。
ベッドで寝れるのとそうでないのでは疲れの取れ方が全然違う。
俺の場合は最近いつも移動ベッドなので関係ないのだが…
夜飯は鹿肉祭りで俺も、ママンのお乳に加えて肉入り野菜スープにふやかしたパンだ。
固形物を食えるのは非常にうれしい。
そしてぐっすり眠る。
翌朝、魔力も回復したので怪我したところを治癒しておいた。
これで何時もの通りだ。
今回ヘルタイガーにタゲられてなすすべもなく捕まったのは痛恨だった。
その前に不用意に魔法に頼り過ぎた。かなり慢心していた。
あと、体は鍛えなきゃダメだなと思うのだけど赤ん坊がどうやってきたえるの?と言う愚痴になってしまった。
『余にも人生は理不尽だとおもった。』でも生きていたから儲けものなのだろう。
読んでくださってありがとうございます。




