36 魔物の群れ
昼を回ってしばらくした頃ママンに起こされた。
「ジーク寝ているとこ、ごめんね。ちょっと困ったことがあってね」
「ん?」首を傾げながらママンに抱き上げられて馬車を降りるとみんなが集まって喧々諤々話し合っていた。
「ここは慎重に迂回した方がいいんじゃないのですか?」ノーラ姉さん。
「俺が先陣で道を作るから後を突っ切れば大丈夫だ。追ってくるのは魔法で牽制すれば何とかなるだろう。」カール父さん。
「きっちり端から削っていきましょう。なに、雑魚ばかりだ。すぐに終わりますよ」ヤーコプさん。
「無理をせずに迂回するべきだな。」騎士団長。
「あのね。この先にオーガ、オーク、ゴブリンの集団が陣取っているのよ。それをどうするかで話し合っているんだけどね。全部で三〇〇匹ぐらいいるから厳しいのよね。」ママンが説明してくれた。
「地図を見せてくれる?」
「ハイ。どーぞ。」エリザさんが地図をくれた。
「この先に村があるよね。逃げ遅れている人がかなりいて、抵抗しているんじゃないの?」
皆の顔が一斉にこっちを向く。
そして地図を見てハッとする。
皆立ち上がり突っ込む気になったみたいだ。
ふー、と一息溜息を吐いて
「みんな殺気立つのはいいけど僕たちの目的覚えている?」
「それは分っているが助けを求める民を放っては行けんぞ!」祖父ちゃんが怒気を込めて言葉を発する。
騎士団長とヴィアさん、ノーラ姉さんも同じ気持ちなのか頷いている。
いつになく父さんが冷静だ。
感知を広げてみると予想通り村が魔物五百匹に包囲されている。
余程腕利きの冒険者たちがいるのか何とか防衛できているみたいだ。
村の中には千人位の人がいるのだが、戦えるのは百人位かな?
外から奇襲をかけて崩してやれば挟撃できそうなんだが数が多すぎるなぁ~
ちょっと遊んでみようかな?
「ちょっと待ってね。ママン馬車の中に連れて行って。」
馬車の中でセバスに貸して貰った本の頁をペラペラ捲って目的の魔法の詠唱文を見つけると、心の中で詠唱する。
イメージが出来たので発動前にキャンセルする。多分魔力量も足りそうなのでこれで行ってみよう。
「ママンみんなの所に連れてって」
「はーい」
「えっとね。ちょっと試したいことがあるんだ。魔物の近く五十メートル位まで近づいて魔法を放つから魔法が終わったら突っ込んで倒していって。村にも百人位戦闘員がいるから挟撃の形になれば魔物も崩れると思うよ。」
「騎士団長お願いがあるんですが。十時の方向にオーガキングがいるです。こいつが指揮執っているみたいだから潰してもらえますか?」
「了解した。一応隊列を組むのでオイゲン殿、カール、ジルヴィア、ヤーコプ、オットー、ノーラは私に続いてくれ。モースとアストはジークの盾役として雑魚を蹴散らしてくれ。イリス、エリザ、ピルネは後衛で援護。マリーはジークの側で援護しながら待機。」
「それじゃー進もうか。」
百メートル位で敵に気付かれたので魔法の詠唱に入る。
『大気に満ちし荒ぶる炎の聖霊よ…我が言霊に従いて…彼の者に与えるは煉獄の裁き…』
イメージは範囲内の分子運動を加速して発熱させる。指定範囲内に分子同士の衝突が発生し圧力が上がろうとするが定圧状態ですべてが熱エネルギーに変換され急激な温度上昇を伴い可燃物は発火し炎を巻き起こす。分子加速に使った魔力は直接炎に変換し炎の舞を顕現させる。魔物が発火し舞踊る様をイメージし、トリガーワードを唱える。
『煉獄地獄』
辺り一面の魔物が燃え上がり灼熱の炎が渦を巻く。村の手前までとオーガキングまでの魔物三百近くが一瞬にして火だるまになり転がり回っている。
騎馬で突入しようとした騎士団長たちも余の熱気に押し戻され動くことが出来ない。
呆然とその地獄の情景を見つめるみんなを見て遣り過ぎたと後悔する俺。
「ごめんなさい。やり過ぎちゃった。延焼しない様に土魔法で消して回ってくれる?水魔法だと温度が高すぎて水蒸気爆発起こす可能性あるからね。」キョトンとする魔法使いさん達。
「水蒸気爆発が分らないかな?高温のフライパンに水滴落とすとじゅって一瞬で蒸発するでしょう。温度がすごく高いと爆発して爆風が起こるんだ。ちょっとやってみるね。」
前衛のみんなに声をかけてかなり後ろに下がってもらう。
ウォーターの呪文を唱え発動場所をオーガキングの手前百メートル位に設定して水滴状で十リットルぐらい出す。
「ドッーン」熱気と爆風が辺りを包む。またやっちゃった。
爆風と熱で追い打ちをかけられる魔物たちに騎士団長は燃えていない外周の魔物を騎馬で蹴散らしながら進むことを選択した。
村からも魔物に向かって打って出たみたいだ。
レベル的にそんな高くないので統制がとれていなければ狩りたい放題だ。
炎が収まるころには魔物のほとんどが駆逐されていた。その間俺はまたお乳を貰ってひと眠りすることにした。
次に起こされたのは村の中だった。物資の補給と情報収集によったらしい。
馬にも休憩は必要だし、安全なところでゆっくり休養を取ることになったらしい。一応宿があったので宿に泊まらせて貰っている。
ママンにお乳をもらい野菜スープに堅パンを入れてふやかして貰ったものを離乳食として食べる。
久しぶりの飯は旨いとは思えないが嬉しいものだった。
情報収集は大人に任せて魔法書を読みながら眠りに着いた。
翌朝出発の際に聞いた話によると。ブラッディ―グリズリーに接触する前にボア種とカリブー種(猪と鹿の魔物)の集団がいるそうだ。数は百頭程度。できれば狩っておきたいという。
どの途道中なのでよることになる。
百匹のお肉集団に合うと皆ヒャッハーして狩りをしている。みんな大物は運搬に困るので中型から小型狙いで倒している。
俺は逆に大物にアイスジャベリンで止めを刺して五、六頭倒したところでエアーカッターで首チョンパし血抜きを行う。
皆ヒャッハーしているとさすがに魔物も逃げ出したが、お肉の山が出来た。
みんなで効率よく血抜きを行ない血が抜けた分から収納魔法に入れていく。
その前に氷魔法でパーシャル状態にしているので日持ちはするはずだ。
◇◇◇
収納魔法が使えるようになったのはセバスに貸して貰った魔法の本の中に神代魔法として呪文が乗っていたからだ。
神代魔法と云うのは神様が神様の言葉で教えてくれた魔法で神代語と言う特別な言語を使う。魔法の本の中には発音もきちんと載っていた。
この魔法はドラ○もんの四次○ポケットを作って収納するという魔法なのだが四次元という概念がイメージできなくて発動できないらしい。
前世で見たN○wtonに乗っていた高次元のイメージの仕方を基にしたらすんなり発動できた。元々設計をして図面などに為れていたのも影響しているだろう。
ただし収納魔法内でも時間の流れは一緒みたいなので防腐処理や冷凍保存が必要になる。
◇◇◇
再出発して一時間ぐらいでブラッディ―グリズリーを補足した。少しは闘いたいとのみんなの意見なのでお任せすることにした。
皆さん流石一流で着実にダメを入れているが時間がかかるのでちょっとお手伝いをすることにした。
お得意の威嚇咆哮のタイミングでフラッシュの魔法を目の前で発動させ目潰しを行ない。
フャイアージャベリンで目を焼いておいた。
目が見えない状態で暴れ回る敵は隙だらけで団長や父さん他のみんなに切り刻まれてあっという間に倒された。
皆苦笑いをしていたがしかたない時間がかかるのは不味いのだ。
次は夕方ごろにヘルタイガーに接触くするはずなのでそれまでお乳を飲んでまた寝ることにした。
読んでくださってありがとうございます。




