31 緊急家族会議2
オイゲン祖父ちゃんとサブリーナ祖母ちゃん、フリッツ伯父さんは六時前にやってきた。
現当主はサブリーナ・フォン・バルト男爵祖母ちゃんだ。
亭主の祖父ちゃんの名はオイゲン・フォン・バルト。元騎士団1000人長を務めたていたが娘婿のフリッツ・フォン・バルトに職責を譲っている。
フリッツ伯父さんは現騎士団第一師団1000人長で王都の守りを行なっている。今日は来ていないが父さんの姉ロジーネの旦那さんだ。
ノーラ叔母さんも何とか六時ごろ帰って来てくれた。
「今日の夜会が…私の結婚が…」とか呟いててらしい。
ちょっとかわいそうなことをしたかな?
俺は四人に赤ん坊としてご挨拶をしておいた。ニコニコ笑って手足を振ってである。
オイゲン祖父ちゃんとサブリーナ祖母ちゃんはしこたま孫をかわいがっていた。
定刻が来たので全員を食堂に通してもらう。
食事の内容は子供たちには白パン、ステーキ、野菜スープなど普通の食事だ。
大人たちは堅パンに野菜スープだけだ。
それを見て父さんが怒鳴った。
「この食事はなんだ!父上たちがいらっしゃっているのに失礼ではないか!」
バーン。机を思いっきり叩く俺。
そして父さんに向かって捲し立てる。
「さっきも言ったよね!ここは戦場だ!って。まだ寝ぼけているの?オイゲン祖父ちゃんたちが来てくれたのはそれを理解してきてくれているんだよ!少しは考えてよ!それから姉さん兄さんには関係ないからね。育ち盛りできっちり栄養とってもらわないといけないから別メニューを用意して貰った。なにか文句があるの?」
一瞬にして場が凍り付いた。
それを即座にリーゼ姉が破る。
「ジーク。今の言いようはなんですの!お父様に失礼ではないですか!お爺様たちもいらっしゃるのに…私もお父様と同じものに取り換えてください。みんなで同じものを食べた方が美味しいですわ。」
ユリウス兄も続く。
「ジークきちんと父上に非礼を謝れ。それからここは戦場なのか?王都だというのに…しかし、旅中の魔物の件もあるからな。ジークが戦場と云うならそうなのだろう。戦場なら仕方がないな。僕の分も戦場食に代えてくれ。」
ビアンカ姉も続いた。
「ジーク、オコはダメなの!お肉食べたいけどしかたないの…我慢するの。」
そして少ししょんぼりした。
周りの空気がほっほーと感心する空気になる。
「父さん失礼しました。ごめんなさい。」
せっかく姉兄がとりなしてくれたのだ。俺は素直にあやまる。
「うむ、分ればよい」
父さんは一言頷いたが立場がなさそうだ。
ビアンカ姉がトテトテ歩いて来て俺の頭を撫ぜて「いーこいーこ」する。
一気に場が弛緩して和やかな雰囲気になり、祖父ちゃんと祖母ちゃんの取り成しで子供たちの食事はそのままになった。
祖父ちゃん祖母ちゃんにも子供達と同じメニューが用意された。その辺は始めから仕込んである。
念のため、ちょっとした茶番を用意しておいた。
ただ、兄姉の反応は予想できなかった。本当に尊敬する。
ママンもびっくりしている。
赤ん坊が喋っている事や、赤ん坊が家族会議の中心になっていることはなぜか誰も突っ込んでいない。誰か根回ししたのか?
食事の最中にオットーも帰ってきたので食事が終わり次第会議に入る。
子供たちは、ペトラとニーナにお任せしてリビングに連れて行ってもらった。
大人達にオットー、メリザ、セバス、イルマを加え会議が始まる。
俺が口火をきる。
「オイゲン祖父ちゃん、サブリーナ祖母ちゃん、フリッツ伯父さん、ノーラ叔母さん急にお呼び立てしてごめんなさい。父が伺ってきた従軍に関して詳しくお話を伺いたいのです。」
オイゲン祖父ちゃんが話をする。
「イェーガー軍務卿より内々にキュプナー子爵領のキュプフェルトに向かい魔物退治に参加する依頼があった。手勢は軍が用意できるのは訓練所の騎士見習い三十騎。後は任意で希望者を募る。任務はキュプナー子爵領の現状調査とキュプナー子爵への面会。キュプナー子爵からは未だに軍への救援要請が届いていない理由の確認じゃ。」
「話になりませんね。軍務卿は死ねと仰っているわけだ。祖父ちゃんも真剣に考えていなかったでしょう?父さんが飛んで行ったから詳細を確認したのですか?女王陛下の意向というのも『キュプナー子爵領が心配だから誰かに様子を見に行かせよ』という所でしょう。いかがですか?」
「うむ」
祖父ちゃんがちいさくなって頷く。
「キュプナー子爵家は見殺しですね。救援要請は出されているのでしょうが途中で暗殺されている可能性がありますね。」
大人たちは、まさか?という顔をしながらゴクリと唾を飲みこんだ。
「伯父さん第一師団の動向はどうなのですか?」
「ガイエス辺境伯領までの街道に展開し魔物を押し戻すことは決まっている。キュプナー子爵領に関しては現在調整中だが遠征するなら家の連隊5千人になるだろうね。それ以上は派閥的に無理じゃないかな?」
「西方へ一個師団展開しようとすると第二師団を呼び戻すしかないのですね。」
「そうなるんだけどね。兵糧の問題もあるし二連隊一万人が精一杯じゃないかな?」
「移動距離が問題なんですよね。ケルナー辺境伯には領軍全軍で東進して貰った方がいいんでしょうけど…」
少し考えて今度はノーラ叔母さんに話を振る。
「ノーラ叔母さん、近衛や―」
「ノーラ姉さん!間違っちゃ駄目よ!」
「あっはい。では、ノーラ姉さん」
「何かしら?ジーク」
「王宮の状況はどうなのですか?近衛隊の同行とか、女王陛下や大臣達の認識とか?」
「ガイエス辺境伯派は必死で隠蔽しようとしているけど、事此処に至っては無理ね。女王陛下も憂慮しているわ。キュプナー子爵からの要請待ちなのだけどギルドからは子爵から救援要請を王国に送っているはずと再三連絡が来ているわ。それを受けての軍務卿の動きなんでしょうけど…近衛騎士団でも今回のスタンピートに対しては対応できないわね。なにせAランクの魔物が複数暴れ回っているからどうしようもないわ。騎士団長でもAランク相手には厳しいものね。」
「要請があれば勅命が出せるのかな?」
「多分出されると思うわ。第二師団と近衛騎士団半数は動かすでしょうね。場合によっては騎士団長自ら動かれるわね。というか機動性に優れた部隊を編成していつでも出れる様に準備をしているわ。」
「実は第二師団も準備は終わって演習という形で二旅団ほど移動を開始している。」
祖父ちゃんが呟いた。
「セバス、イルマその辺の裏付け取れてる?」
「はい、知り合いの商人に確認しましたところ第一師団よりも第二師団の演習で糧食が動いているそうです。近衛騎士団の実力派の皆さんは軽装で機動力を生かせる装備を準備されてるそうですので皆さんの仰る通りかと…」
「南派閥はキュプナー子爵領を生贄にして時間稼ぎし、その間に必死で魔物を押し返そうとしているんだね。できれば西や北に魔物が分散されることを狙っているのかな?冒険者を集めるのにもその方が都合がいいのか…なるほど。」
予想していたとはいえ本当に酷い有様だ。
ただ、女王陛下を始め近衛騎士団、第二師団の動きは的確だ。
それだけにキュプナー子爵と連絡が取れない現状がもどかしい。
軍務卿の行動にも理解はできるのだが…
むざむざ父さんを死なせる訳にはいかないんだよね。
『さて、どうしよう?人生ってままならないよな!』
読んでくださってありがとうございます。




