24 平和な旅路
ガタゴト、ガタゴト あ~る晴れた~♪ ひ~るさがり~♪
いやいや、ドナドナされて無いから!
ガタゴト、ガタゴト 馬車に揺られてすぐボーとしてしまう。
真夏だというのに…空があんなに青いのに…
太陽は真上から眩しい日差しで照りつけているのに…
そんなに暑くない!いや、暑いんだよ。
でも、日本のように蒸し暑くて汗ダラダラじゃない。
箱馬車の中で窓を全開にしていると、草原を風がサーと吹いて行くのよ。
真夏の日本で田んぼに風がサーと吹いて行くのと全く違うのよ。
遠くに見えるのは丘なのよ!山じゃないのよ。
野兎とかその辺で穴掘っているのよ。
おっさん若いとき一か月ほど出張に行ったフランスのことを思い出していた。
レンヌからモンサンミッシェルまで乗った観光バスから見た風景が、そのまんま目の前にあるのだからある意味びっくりである。
こんな風景からも脱日本を感じるとは思ってもみなかった。
ケルンブルグを出て五日経つのだがこれと言って問題もなく、朝宿を出て休憩しながら馬車を走らせ、次の町に着き、宿で泊まりを繰り返す。
流石大きな街道だけあって宿場町があり、無理に野宿する必要もなく夜も安全で快適な旅が続いている。
毎日のように魔物に襲われた山道はなんだったの?ってくらい平和なのだ。
◇◇◇
出発時、従士たちは朝早くシュタート領に向かって出発したらしく、朝食の時にはいなかった。
ギルドによって魔物調査の冒険者と合流する班と、甜菜を追加で買って帰る班に分かれて、城門の外で落ち合い村に向かうそうだ。
今頃は村に着いて日常生活に戻っているはずだ。
朝食を済ませたのち二台の箱馬車でケルンブルグの東門前の広場で護衛の冒険者と合流した。
冒険者はCランクの上位で男二人、女三人のパーティだ。
リーダーはモース。LV38の重戦士タイプでプレートメイルを着込んでいる。
といっても皮鎧の要所を金属プレートで補強したタイプなので見た目もそんなにごつくない。
武器はハンマーと盾を装備している。完璧壁役だ。
アストは筋骨隆々の男でLV39軽戦士タイプ。父さんと同じで胸部だけプレートメイルを身に着け後は動きやすく軽い皮鎧を装着している。
アックスを背負っているところを見るとアタッカーである。盾さえあれば壁役もこなしそうだ。
イリスは小柄な女の子でLV36。皮鎧にキュロット、ロングブーツにニーハイソックスを履いて背中には弓と矢筒を背負い腰にショートソードと短剣を差している。
ベストには苦無が装着してありチョッとした。プレートメイルになるのかな?
斥候役だ。レンジャーかな?シーフの可能性もあるな?
ピルネとエリザはローブを着用している。二人とも両手杖を持っているし魔法使いだとは思うのだが得意魔法が何なのかまだわからない。
LVはピルネが37で年はまだ十代ぐらい?エルザがLV39でママンと同い年ぐらい?
内の若手従士よりはよっぽど頼りになりそうだ。
よっぽどのことがない限り心配ないと思う。
貴族の子連れと言うこともあり女性の多いパーティを、ギルドが気を利かせて斡旋してくれたのだろう。
一台目の馬車は父さん、リーゼ姉、ユリウス兄、オットー、ニーナ、ピルネに御者がアムト。
二台目の馬車にママン、ビアンカ姉、俺、メリザ、イリス、エリザに御者がモースという構成になっている。
ちなみに家の戦力は、父さんLV53、オットーLV51、メリザLV49、ママンLV48、ニーナLV3、リーゼ姉LV2、ユリウス兄LV1、ビアンカ姉LV1、俺LV7だ。
大人たちはギルドではBランク上位になっているがレベル的にはAランクに相当する。
マジ家の家族武闘派だわ!護衛よりも強いってどーゆーことよ!
◇◇◇
旅の暇つぶしには、一台目の馬車にオセロが乗せられ、ガタガタと揺れるにも関わらず交代で楽しんでいるそうだ。
そして、二台目の馬車では…
「ちょっと待ってなの!こうやって。ここをこうしてこうとると。」
ビアンカ姉が声で確認しながら、両手の小指に毛糸を引っかけて交差し下から両手の親指と人差し指で掬い上げるように毛糸を持ち上げる。
「ふふん!やったの!きれいにできたの!」糸をとれたビアンカ姉が胸を張る。
「では、次はわたくしが…」メリザが人差し指と親指で糸を摘まんで上から廻し込む。
次は女冒険者のエルザが…
女性陣が夢中でやっているのは俺が子供の頃に教わったあやとり。
長い馬車の旅では本を読むといっても揺れて気持ち悪くなることもある。
電車やバスで読書やスマホを見るのとは違うのだ。
たまたまメリザが持ち込んだ毛糸で編み物をしていた。
それを見てちょっと毛糸を分けてもらう。
輪っかを作って一人あやとりで梯子を作って遊んでみた。
そしたらみんな興味を持っちゃって、やり始めたのが三日前。
ビアンカ姉が一番気に入っている。
本当に微笑ましい。
◇◇◇
馬車の中はハーレム状態なのだけど如何せんほとんど籠の中で寝かされているので関係ない。
座って景色を眺めるか、目に入る物を鑑定しまくってるか、ママンの膝の上で本を眺めているか、疲れて寝るかである。
たまーに兎とか猪を感知する時があるのでその時はママンに囁いて、みんなで休憩交じりの狩り大会が繰り広げられる。
リーゼ姉はちょうどいいので弓を使って練習を始めた。
リーゼ姉は一人で、ユリウス兄は父さんと、ビアンカ姉はママンと一緒に狩りについて行く。
狩りをするのは冒険者たちだ。昼飯に串焼き肉や、肉入りスープが付くのはやっぱりうれしいものらしく気軽に狩りを楽しんでいる。
子供達も冒険者に負けていない。
「あっちに兎がいるの!」
「よし見つけた。見つからない様にそっと近づくぞ」
「任せて!弓で狙える。」
シュゥゥゥ―ドス
兎をビアンカ姉が見つけ、ユリウス兄が追い込み、リーゼ姉が弓矢で射抜いた。
冒険者も負けじと
「あそこに猪がいるぞ」
「回り込め!」
「任せて射ぬける!」
シュッ―ドス
あっさり猪をゲットする。
本当に平和な狩りをみんなで楽しんでいる。
そんな時や昼飯を食べている時に、俺はちょっと離れたところで土魔法を使って壁を作ったり、穴を掘ったりして遊んでいる。
昨日1/10ガン○ムを成形している時にママンに見つかり呆れられた。
「あらあらジーク、なに作って…この精巧なゴーレムはなに?まさか動いたりしないわよね!」
顔は引き攣っているし、睨んだ目は怖いしでおっさんしばらく自重しようとおもった。
ただ、おっさんは聞き逃さなかった。ゴーレム?動かす?
ふふふ、やってやろうじゃねーかド○を踏み台にするガ○ダム1/10自立駆動バージョン!
シャ○専用ズ○ックでジ○のドテッパラに穴開けるシーンもいいなぁ~
夢が広がるおっさんだった。
白昼夢かもしれないが…
そんな平和な毎日がいつまでも続くわけがないとおっさんは考えていた。
『なぜって?おっさんの人生はままならないからだ』
読んでくださってありがとうございます。




