17 ケルンブルグの宿屋で2
昨日の夕方に領都ケルンブルグに着いたけど、さすがに夜は宿で休み、朝から父さんはケルナー辺境伯に討伐の報告をしに領主館に赴いている。
辺境伯家は古くからの馴染みだと云うこともあり、元気だったユリウス兄を同伴し領主館にいった。また詳しい情報を聞いてくるだろう。
魔物の素材は、今日オットーがギルドに持ち込んでいる。
熊の素材はほとんど捨てるところはなく、猪やオオカミの素材も回収してギルドに持ち込んでいるので遅くても数日後には買い取りが完了するだろう。
素材の買い取りに、討伐の報奨金も貰えるそうなので、今うちは金銭的にホクホクであるらしい。
また、シュタート男爵領から待ちこんだ作物や物品、途中で採取した薬草なども従士たちが現金化しているところらしい。
明日以降、男爵領に持ち帰る商品の買い付けを行って従士たちは村に戻ることになる。
一通り話を聞いたのだが、辺境伯とギルドの責任は看過できないと思うので疑問をママンにぶつけた。
「ママン、辺境伯とギルドに文句いえるの?」
「そうなのよ~危機管理体制があまりに杜撰なのよね~すごく文句を言ってやりたいんだけど魔物倒しっちゃたでしょう!それも無傷で!辺境伯領内では魔物の犠牲者がすごく多いの。その魔物を倒したカールがね、英雄扱いされているのよ!カールもなんか調子に乗っちゃってね、困ったものだわ!ジークに倒して貰ったくせにね!見ているとなんだか腹が立っちゃうのよね!」
また、ディスられる父さん。かなり頑張ったと思うんだけど…
こういう時男って…と思ってしまう。
「英雄がいるうちが、注目されるね。」
「変な貴族が厄介ごと持ち込まなきゃいいんだけど…」
「多少発言力が上がるからママンも楽になる?」
「ん~どうなのかしら?」
「でも、辺境伯には大きな貸が出来たからしっかり返して貰わなきゃね!」
「あらあら、そうね、チャンスよね!うふふ」
「ギルドにも釘を刺しとかないとね!なんだったら、シュタート領までの調査討伐をギルドで定期的に行えとか、シュタート領内にギルド支部を置けとかね!」
「ジークの方がカールよりよっぽど頼りになるわね!」
「夫婦仲は円満にね!悲しい思いをするのは子供だよ!」
「あらあら、ジークにお説教されちゃったわ。困ったママね。うふふ」
ん~母親と零歳児の会話じゃないよね!て言うか零歳児しゃべれないか!
「ママン、今後の予定はどうするの?」
「明日辺境伯に、ご挨拶に行くわ、できればギルドにも行きたいわね。王都までの護衛も雇わなきゃ。ギルドによった時に妹には手紙を出して、明後日に買い物をして明々後日に王都に出発かしら?」
「ぼく、買い物以外は宿で寝てるね。」
「ジークは全部連れていくわよ!会話はしなくていいから気が付いたことがあったら教えて?」
「え~面倒くさいよ~」
「社会勉強よ!」
「ぼくまだ零歳児だよ!」
「あらあら、今更、年のこと言うの?うふふ」
「じゃぁ、家畜とか、栽培したい果実や作物があるから市場に連れて行って!
領内の特産品作らなきゃいけないからね。」
「あなた、もう領地経営する気なの?」
「違うよ。屋敷の近くの林に実験農園作りたいんだ!あと、ちょっと山際に果樹園かな?」
「完全に領地経営じゃない!」
「おいしいものを食べて贅沢したいだけだよ!領民みんなでね!」
「領民においしいものを食べさせたいと思うことが領地経営の一番大事なことよ!」
「その辺のややこしいのは分んないからね。話変るけどお酒ってどんな種類あるの?」
「えーちゃんと手伝ってよ!まーいいわ。ジークが余にも異常だから調子に乗っちゃった。えっとお酒ね、エールにワインに蜂蜜酒、あと色々な果実酒があるかな。」
「蒸留酒っていう酒精の強いお酒ってある?」
「聞いたことないわね。錬金術とか薬師、教会の治癒魔道士が使うものの中に酒精が強いものはあるけど魔法で作っているし、飲むものじゃないしね。普通に飲んだりしないわよ?」
「内の領内でお酒作っている人いる?」
「みんな自分たちが飲む分くらいを少し作っているくらいよ」
「それじゃあ、余剰作物と道具と建屋があれば大量に作れそうだね」
「作るつもりなの?」
「うん、夕食にお酒飲めると大人は嬉しいでしょう?それにワインとかエールを使って肉を煮ると柔らかくて美味しくなるよ!」
「ジークどうしてそんなこと知っているの?」
「どうしてかなぁ?まあいいじゃない」
「もう、しかたないわねぇ~」
「色々やりたいから相談するよ!こっそり一人でやろうと思っていたけど、今回のことで色々やらかしちゃったからね?」
「ちゃんと、ママに相談してね。ジーク一人で抱え込むのはいやよ!もう二度と五日も眠ったままなんていやよ!わたしが生きた心地がしなかったわ!」
「ごめんなさい。心配かけて…」
「今回は私たちが不甲斐なかったからね。でもジークがいなかったら、私たち、いえシュタート領が壊滅していたわ。だから無理させてごめんなさい。そしてありがとうジーク」
「えへへへ、みんな無事でよかったね!」
「本当にそうね!」
「ママン、父さんてどれくらい魔物倒した時のこと覚えてる?」
「多分自分が倒したと思っている。お腹への一撃と私の魔法のダメージで倒れて止めは自分が刺したつもり。」
「メリザは何も聞かないけど全てお見通し、ジークが倒したと思っているわ。オットーとケイン、アナベルはジークが何かやって魔物が転倒し、カールが止めを刺したと思っている。ただ、ジークが何をしたのかまでは分ってないわね。というか普通分らないわよ!」
「その四人なら口止めする必要ないね!他の従士はみんな父さんがやったと思っているだろうし…」
「ジーク本当によく理解しているわね!」
「今ママンと話している会話を聞かれるのもまずいんだけどね。特に父さんには…」
「そうね、今後お互いに気を付けましょう。」
「ママンは冒険者だよね?あと、父さん、オットー、メリザ、ケイン、アナベルもランクはBなの?」
「そうよ。話したことあったかしら?良く分ったわね。」
「動きと魔力量かな。ただ、父さんとオットーは対人戦がメインだね。やっぱり騎士だよね。」
「そうか~魔力量でわかるのか~それで魔物の襲撃が分ったのね!探知範囲も広いわね。」
「始めはねそうでもなかったんだ。六匹のオオカミの時はギリギリだったし、でもね、襲撃を感知して、魔物にダメージ与えるたびに感知能力上がったり、魔力量とか増えたり、これもLVが上がったせいかな。」
「多分ね。色々スキルなんかも取得してそうだし、魔法が使えることからも、加護も貰っていそうだわ。」
「なるほどね。何となく納得したよ!その辺のこと詳しく知りたいから今度暇な時に教えてね。自分でも勉強したいから本とか見せて欲しいな。あと、魔法の本もね。」
「王都に行ったときまとめて購入しましょう。」
「一番気になってる事なんだけど、最後の熊の魔物は異常種だよね?体長もそうだけど魔力量が半端じゃなかった。」
「奴はね、百人以上人を倒していたからね。多分かなりレベルアップしていたんだろうね。下手すると上位個体に変異していたかもしれないね。また明日にでも、辺境伯やギルドで聞いてみましょう?」
「そうだね。そろそろ姉さん達が焦れているみたいだよ。」
「分るの?」
「部屋の外の廊下をリーゼ姉さん、ビアンカ姉さん、ニーナの三人がうろうろしているよ。」
「そんな事まで分るの?本当にすごいわねぇ~それではみんなでジークを囲んでお茶にでもしましょうか?」
「ゆっくり眠りたいけど大好きな姉さんたちの為にがんばるよ!」
ママンがみんなを招き入れメリザにお茶とお茶菓子を用意してもらってメイドも一緒の楽しいお茶会が始まったのだった。
当然、姉達の為に「きゃっきゃ」とスマイルは、忘れなかった。
読んでくださってありがとうございます。




