16 ケルンブルグの宿屋で1
みんなは俺のあれな一言に一安心したみたいで部屋から出て行った。
そして俺は恒例の「ちゅう、ちゅう、ちゅう」
食事の間にママンが熊を倒した後のことをいろいろ教えてくれた。
「ここはケルンブルグの宿屋よ。昨日の夕方到着してね。山道を超えて村についても野宿だし、結構急いできたから女性陣は疲れを癒しているの。」
「ジークが気を失った後、ダメージの少なかった従士が馬に乗って、すぐに幌馬車に知らせに行ったのよ。昼前にはリーゼ達は合流してたわね。」
「リーゼとニーナなんて熊の魔物を見た途端ガタガタ震え始めて、青い顔になったと思ったら、気絶しちゃったわ。天幕も張ってなかったし、箱馬車まで抱きかかえて連れて行くのが大変だったの。」ちょっとママンは呆れ顔
「それに比べてユリウスとビアンカは大物ね。魔物を見た途端、目を見開いて持っていた木剣と木の棒でたたきに行くのよ!その後カールの所に行って色々聞いていたわ。」
「『こーんな。こーんな。おっーきい魔物をパパンが倒したの?すーんごいの!さすが、ひゃくにんぎりは伊達じゃないの!』とかビアンカは叫んでいたし。ユリウスはユリウスで『父上どうやってこの巨体を相手に戦ったのですか?』『プレートメイルがこんなに損傷して!どのように紙一重であの爪を交わしたのですか?』とか言ってもうカールから離れないの。『最後には僕も父上の様にこの熊の魔物を倒せるようになるでしょうか?いえ、倒せる騎士になりたいです。もっともっと稽古をつけてください!』だってカールはうれしそうにずっと話をしていたわ」これまた呆れ顔でママンが話してくれた。
「カールや従者たちも頑張ってくれてかなりダメージも入っていたし、魔物は腹に突きたてた剣のダメージと私の魔法のダメージで倒れた事になってるの。そこをカールが首を刎ねて止めを刺した。流石にジークの魔法の毒で倒したとは言ってないわ。」
さらに真剣な顔で付け足す。
「ただね、メリザは完全に気付いているわね。魔法の練習している所も見ているしね。でもね、ジークが倒れたでしょう。そのあと私と一緒にメリザも必死になって看病していたの、誰もいない時には、『わたくし達大人が頼りないばかりに、ジーク様に無理をさせてしまって…』目に涙をためてながら看病してくれていたんだからね!感謝しなくちゃね。」
それを聞いて胸がジーンとなった。
「心配かけてごめんなさい。」思わず言葉が出てきた。
ママンと一緒に顔を見合す。
「ジーク、今、普通に喋ったわよね?」
「うん、普通にしゃべれるねぇー何で喋れるの?」
「私が聞きたいわよぉ!」ママンに突っ込まれた。
「ママン達の話していることは大体わかっていたんだ。でも声を出して話すのはね、舌が回らなくて片言になっていたんだけど…」戸惑った顔でママンに話す。
「もしかして熊の魔物を倒してジークのLVが上がった影響かな?猪の魔物倒した後に片言で話始めたもんね?」自信なさそうにママンが話す。
成程、ふと思いついて自分を鑑定する。
人族 LV7 ジークフリード・フォン・ミュラーと表示された。
LV表示が増えていた。
「LV7になってるよ。」ママンに教えた。
「えっ鑑定使えるの?」目を点にして聞き返すママン
「うん。でもあんまり使えないね。種族と名前とLVしか分らないよ。でも雑草と薬草の区別がつくから便利なのかな?」
「鑑定使うと頭痛とか気持ち悪くなったりしない?」心配そうに見つめるママン
「あー確かにあるね。頭痛と倦怠感は、でもたいした事ないよ。」
前世でずっと頭痛、倦怠感、胃痛、微熱と心拍数百以上は十~十五年の長い付き合いだ。あの頃に比べたら鑑定のダメージなんて無いにも等しい。こんなところで耐性が出来ているなんて皮肉な話だ。
ママンは胡乱げに俺を見つめて
「ジーク鑑定はねLVが上がると便利なんだけど、上がるまでのダメージに普通の人は耐えられないの。このスキルを持っている人はすごく重用されることが多いの。色々面倒なことに巻き込まれやすくなるから気を付けてね。それと無茶しちゃ駄目よ」
「分った気を付けるよ。」
ママンに釘を刺されたので素直にうなずく。
閑話休題
「ジークはLV7って言ってたわよね?赤ん坊でLV7って…Fランク冒険者と一緒じゃない!まあ言葉をしゃべれるようになっても不思議はないのかしら?それにしてもすごい経験値ね。」
ちなみにママンを鑑定するとLV48だった。
「ママンLV48なの?」ママンに聞いてみた。
「え?LV2も上がってるじゃない。この山越えの戦闘でLV2も上がったの?すごすぎるわねぇーもしかしてあの熊の魔物ってAランクのブラッディーグリズリーだった?他の魔物もランクが高いのかしら?ギルドに確認しなくちゃね。」
考え込みながらママンは呟いて、その後諦めたように俺に言った。
「急に話せるようになったのも、LVが高いのも何となく納得したけどこのことは誰にも話しちゃだめよ。よくって!」
「はーいママン。気をつけるよー」
素直に返事をしたんだけどそれでも胡乱げに睨まれた。
「どこで脱線したんだっけ?あっそうそうメリザと一緒に看病してたとこね。」
「でもジークの食い意地にはびっくりさせられたわ!」
笑いながらママンに言われた。
「ジーク、気を失っているくせに、食事の時間に乳首を口に持って行くとね、何時もの様に『ちゅう、ちゅう、ちゅう』としっかりご飯を食べるの。おしめもきちんと汚れるしすぐに目を覚ますと思っていたんだけど五日も寝ているとはねー」
ママンにその話をきいて自分に突っ込んだ。
俺はル○ィーか!
◇◇◇
「ケルナー辺境伯領にはケインとアナベルに行ってもらうことにしたのよ。やっぱり危険だし。こういう時にベテランは頼りになるわ。いい仕事してくれたわ」
そう言って詳しい話をしてくれた。
ケルナー辺境伯領にはケインとアナベルが連絡に行った。
まだ、魔物がいないとも限らないのでベテランを起用したそうだ。
二人はその日の内に騎兵五騎と空の荷馬車二台を連れて戻ってきた。
熊の魔物の素材は捨てるところがなく珍重される。余さず持て行くために荷馬車二台の追加は非常に良い判断をしてくれたらしい。
こんな時アイテムボックスとか空間収納が使えるといいなと思う。
激戦の後の休息と魔物の解体処理、箱馬車や猪肉の回収、騎兵への報告などで夕暮れを迎えその日はみんな気が緩んで宴会になってしまったらしい。
「ホント男って飲んで騒ぐの好きよね。」
ちょっとママンは呆れてた。
騎兵の隊長に状況説明し、魔物の素材をすべて荷馬車に乗せて翌日の早朝には出発したそうだ。
◇◇◇
ケルナー辺境伯内の一番近い村にはその日の夕方ついたそうだ。
「村に着いたときはホッとするより逆に緊張しちゃったわ。カールとオットーなんて声を揃えて『『こりゃあ戦場だなぁ』』て言ってたからね」
六十人の領兵とBランク冒険者二十人が村の近くに野営地を作っているし、村の防御柵は破壊されいくつかの家も瓦礫になっていた。
村のいたるところで痛みに耐える呻き声が聞こえ、村の広場には家を失った住民が野営をして、惨憺たる状況だったそうだ。
領都から来ていた指揮官に情報のすり合わせにいくと、いきなり父さんに抱きついて魔物を倒したことをすごく感謝され中々本題に入れなかったそうだ。
指揮官の話によると東の領外から山沿いに魔物が何体か現れ目撃された。
ケルナー辺境伯はギルドに調査依頼を出し、調査依頼を受けたCランク冒険者十名が一人を残して全滅した。その一人も相当酷い手傷を負っていて何とか状況報告の為に帰還したそうだ。
領都で対応の準備をしている間に、人の味を覚えた魔物により近くの村が襲われ、村一つが壊滅し百人近くが犠牲になった。
それらの知らせを聞いてケルンブルグから領軍四十名とB、Cランク混合の冒険者十五名が派遣されこの村の防衛に当たった。何とか撃退に成功したが、死傷者が領軍二十八名(死者二十名)、冒険者十一名(死者七名)、村人十八(死者五名)にのぼり壊滅的なダメージを受けた。
さらに悪いことに魔物はほぼ無傷で山岳地帯に逃げてしまう。
領都から再度討伐隊が派遣され、追撃に向けて再編成中に、魔物討伐の報告を受け驚愕したそうだ。
討伐隊は村にしばらく駐屯し、周辺の調査と魔物の討伐を行うらしい。
「やっと宿屋のベッドでゆっくり眠れると思っていたのに、本当に酷い状況でね。子供たちやニーナが脅えちゃうし、しかたないからその夜は村の外で野営したの。指揮官からも『辺境伯への報告も急ぎ行って欲しい。』と言う要請を受けたし、皆疲れているけど、しかたないからすぐ出発したわ。その後は特に問題もなく二日かけてケルンブルグに到着したのよ。」
「あっでも、着いた村では熊の魔物を倒したカールがね、英雄扱いされちゃってねーちょっと調子に乗っているのが腹立つことかしら…」
なんか最後は父さんがディスられて締めくくられた。
父さんや従士もかなり頑張っていたし役得があっても良いんじゃ無いかと思うのだが…
他人事ながら『人生はままならないな。』と思うのだった。
読んでくださってありがとうございます。




