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おっさんは、異世界で貴族に転生した。属性はマザコン?(仮)  作者: 多田野風太
2章 はじめての旅行
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15 今頃走馬灯?

 


 うぅ~体が重い、頭が痛い、腕に力が入らない。でも行かなきゃ。


 時計!七時四十五分やばい電話しなきゃ


『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…』


「もしもし畑街です。体調悪くて…少し遅れます。ハイ、三十分から一時間…ハイ…すいません。」


 取り敢えず体を起こさなきゃ。


 会社行かなきゃ。


『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…』


 フンッ両腕に力を込め起きあがる。




 あれ、会社の自分の席の前?


 正面の席には黒川課長?


「おはようございます。」


「―――」


 あ~無視ですか~


 遅刻してきた俺が悪いんですが…


 云う通りに一億の仕事は取ってきましたよ。


 本社から実家があるこの事業所に転勤して一年二カ月。


 お金がないって言うから九カ月間、本社で出稼ぎして二倍稼いできたんですが…


 無理ですよ!ここじゃこのプロジェクト。


 本社なら?できますよ。


 だって九カ月で六億の仕事こなしてきたんですから…


 死にましたけど…


 業者さんとも仲良いし…無理も聞いてくれますし…


 でも『この事業所でやれ!』って言うんでしょ?


 業績欲しいから…


『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…』




 ええみなさんいい人ですよ。人当たりもいいし、易しいし『無理するな』って言ってくれますから…


 俺の被害妄想です。


 でも、視線が冷たく感じるのです。なんだか浮いているんです。


「三十歳の総合職だからね。すぐ上司になるんでしょ?」


「地元に戻るのに年取り過ぎてるよね。いまさら教えることなんてないし…」


『助けてください。』と言えれば楽になるのでしょうか?


 うぅ~胃が…おうぇ吐き気が…


 慌ててトイレに駆け込みます。


 胃酸が酸っぱいです。


 汚れた顔を洗います。タオルも持っています。


『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…』


 顔を上げて鏡を見る。




 なんで彼女がいるんですか?隣にはお義父さんまで…


「人柄もいいし、高学歴だし、勤めている所も上場企業だし、結婚には賛成なんだがね~


 実家がねぇかなり草臥れているよね?


 新築にしたりしないのかい?ご両親は元気なんだろ?


 幹線道路からよく見えるよね。屋根に草が生えてるのはねぇ…親類への体裁もあるし…


 いっそのこと実家を出て家を建てなさい。お金?心配ないすべて援助するから…」


「結婚して子供ができて落ち着くまでは借家で暮らしたいんですが、社宅もありますし…」


「えっダメ!はい、頑張って実家を新築します。」


『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…』




 今度は誰?


 親父の横に…霊能者の先生?


 家の敷地をお祓いしに来てくれた?


 えっ家を新築しなきゃダメ?


 このままじゃ不幸になる?もう十分不幸だけど…


 親父もがんばる?えっ本当に?体調大丈夫?親父を信じていいの?


『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…』




 あー建築の契約書に判押しちゃったよ!


 ローンの書類に判押しちゃったよ!


 前金八百万円渡しちゃったよ!


 実家解体しちゃったよ!




 えっ?転勤?本社にもどれ?


 実家新築してるんですけど!ローン三十年始まるんですけど!


 えっ?仕事がない?この事業所に俺、必要ない?


 なるほど。分かっていました。転勤します。




 本社に転勤が決まったんだ。


 家が建ったら予定通り結婚しよう。ついて来てくれるよね。


 いや?地元を離れたくない?


 最近一緒に遊びにもいってない?


 すれ違いで俺のことが分らない?


 実家に家も建つんだよ。


 えっ今さらそれを言うの?


 別れよう。


 


 すいません。また、会社の車で事故してしまいました。


 今年二回目です。はい、自家用車合わせると五回です。


 抗うつ剤の副作用?


 あるかもしれません。


 自動車に乗るな?でも仕事に支障が…


 うつ病で無理が効かないから使い勝手が悪い?


 仰る通りです。


 配置転換?


 えっ設計の仕事は?


 内勤の事務職?


 設計の仕事も減っている?


 すいません。ご迷惑おかけします。


 また、設計部署に戻れるように頑張ります。


『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…』




 あ~生きるの辛いなぁ~


 ローンあるしなぁ~


 結婚できないしなぁ~


 仕事くびになるしなぁ~


 母さんに孫抱かせてやりたかったなぁ~


 もう四十歳越えちゃったよ~


 えっ母さんが痴ほう症?




 母さん苦しいよね。


 大きな癌がお腹にいっぱいだもんね。


 三週間、水も口に入れてないもんね。


 先生、モルヒネとかで苦痛とれないんですか?


 血圧が下がるからダメ。


 こんなに苦しんでるいのに?


 本人の意思が分らない?


 だって痴呆症でそんなの無理でしょ?


 神様、俺の命使って母さんの苦痛をとってください。


 おねがいします。どうか!どうか!


 ごめんね。母さんに孫を抱かせてあげられなくて…


 ごめんね。親不孝ばかりで…


 ごめんね。看病も碌にしないで…


 ごめんね。家族とけんかして…


 ごめんね。生まれてきて…


 ごめんね。


 でも、大好きだよ。ありがとう。




 あ~母さん逝っちゃった。


 なんだ。涙も出ないや。


 お葬式で、親戚に愛想笑いし…


 四十九日も愛想笑いで終わって…


 お墓の手配も終わって…


 あ~もう無理!!


 スキーでも行くかな。


 ◇◇◇


 あ~走馬灯か~


 いい思い出が全然ないじゃん。


 いい思い出もいっぱいあったはずなのになぁ~


 仕方ないか…


 ◇◇◇


「しらないてんじょうだ。」


 目じりから涙が一滴垂れていた。


 死んだんじゃなかったのかな?


 走馬灯もみたし…


 手を持ち上げて確認する。


 手は赤ん坊?


 あ~生まれ変わっていたんだ。うっかりしてた。


 なんだか、順番違うよね?


 ママン大丈夫かな?母さんみたいな思いはさせたくないな。


 いや絶対させない。


 所で、ここはどこ?


 周りを見回すとニーナが椅子に座ってコックリしていた。


 合流できたんだね。一安心。


 周りを確認すると部屋の中だった。


 窓が開いているし日も差してるので昼間だろう。


「ニーナ!お・き・て!」


 ガバッと音をたてて飛び起きたニーナ


 こっちを見る。一瞬、間が開く。


 また、ガバッと音をたてて俺に抱きついた。


「ジーク様ぁー」「よかったぁー。よかったぁー」を繰り返す。


「若奥様に知らせなきゃぁ」


 またガバッと音をたてて部屋の外に出て行く。


「若奥様ぁ、ジーク様が、目覚めましたぁー」遠くの方でニーナの叫び声が聞こえた。


 ドタドタといくつもの足音が響く。


 あ、ママンが来た。顔を見た。目があった。


 ママンの瞳から涙が零れ落ちる。


「ジークー」叫んで抱き上げられた。


 メリザにニーナ、リーゼ姉とビアンカ姉もいる。


 皆の顔を見回して目が合うと一様にほっとしたようだ。


 メリザとリーゼ姉は涙ぐんでいる。


「本当にジークが目覚めて良かったわ!熱をだすし、眠ったままでうなされているし…あれから五日も経つのですからね!もう目を覚まさないのではないかと心配で、心配で…でもよかった~目が覚めて…」


 ママンが一気に捲し立てる。


 あ~戻ってこれてよかった。


 そうか~五日も寝ていたのか~


 緊張して熟睡してなかったしな~


 魔力も使いまくって大分無理したしな~


 まだ赤ん坊なのになぁ~


 自重しなきゃなぁ~


 お腹すいたなぁ~


「ママン、まんま」呟くと、メリザがプっと吹き出した。


 つられて回りも笑い始める。


 リーゼ姉が「ジークらしいですわ。」と肩をすくめて呆れている。


 だってしかたないじゃん


 あれだけ頑張って、その後五日も寝てたんでしょ…


 でも、お腹がすくっていいかもしれない。生きてるっていいかもしれない。


「あ~でも、人生ままならないからなぁ~」


読んでくださってありがとうございます。

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