12 さすが領主様
父さんはママンの言う通りに従士たちに指示を出した。
斥候に指名したのはやっぱりベテランの盾役二人だった。
父さんが呼んだ時には装備は装着済み、腰には短剣と数本の投げナイフ、背中に矢筒、片手に弓を持っていた。開いた片手で堅パンを頬張り水袋の水で飲みこんでいる。
この二人どれだけ使えるの?駄メンズなんて言ってごめんなさい。
ママンにお願いして二人の所に連れて行ってもらう。
「あぶにゃいお。むりらめ。にけれ。かえっれくるお!おれかい。」
無茶苦茶しゃべった。
二人が口を開けて固まった。
「くれぐれも用心するように、索敵が任務なのだから無理をしない様に…」
ママンが二人に声をかけると、再起動した。
「こりゃー魂消ました!若様のために最善を尽くしまさぁ~戻ってくるまで待っててください」
ニカッと笑って胸をどんどんと叩く。
「若様の大きくなるのが楽しみでさぁ~こんな所じゃくたばれませんわぁ」
どんどんと胸を叩く。
「「では行ってまいります」」敬礼して足早に出て行った。
「あの二人、ケインとアナベルは、従士の中でも古参でね、帝国との戦にも行ったのよ!父の秘蔵っ子でね。凄く可愛がっていたわ。何回も魔物討伐に参加しているし、慣れているから大丈夫。心配いらないわ!」
と教えてくれた。
安心して一息つく。周りの様子を見回すと装備も付けずに朝飯をがっつく従士たちがいた。
特に若い連中がなっていない。まだ弛緩している感じがする。
これは、死人がでるかな?と気を引き締めた。
ママンは子供たちが気になったのか馬車の方に歩いて行った。当然俺も抱いている。
「ママン、まだ眠いの」
「こんな朝早くから、どうかしましたの?また、魔物ですの?」
「魔物なら今度こそ僕が討伐して見せます!」
ビアンカ姉が愚痴り、ぶるっと震えてリーゼ姉が心配し、ユリウス兄は平常運転だorz
「あらあらリーゼは不安かしら?あのね、山の様子がちょっと変なの。今従士に偵察をお願いしていますから、馬車の周りでご飯を食べて、出発の準備をしていてください。お父様が『子供たちは絶対に守る』と仰ってくれてますから心配いりませんよ!まだ、魔物が見つかったわけではありませんし…従士も十人もいますからね!ただ、野営地を離れると急に出発する時に困りますので必ずニーナと一緒に行動するように!よろしくて?」
「「「はい!ママン」お母様」母上」大きな返事が返ってきた。
「ニーナも宜しくて?もう少ししたらメリザも食事を用意してここに来ますから、子供たちの支度をお願いしますね。」
「畏まりました!」一礼してそのままママンについてくる。
少し離れ、子供たちに聞こえない所でママンに聞いてくる
「若奥様、強い魔物なのでしょうかぁ?オオカミの夜襲は本当に死ぬかと思ったのですぅ!今すぐ皆で逃げましょうよぉ~」
あ~かなり脅えていた。まだ十四歳の少女なのだ。
それでも子供たちの前では気丈にメイドとして不安を見せず振る舞っている。
かなりプロである。それ故かわいそうだ。
「ニーナ、オオカミの夜襲は怖かったわね!暗闇の中いきなり起こされて、周りを魔物に囲まれたのですもの!でも今度はこちらが先に魔物を見つけます。猪の時もあっという間にたおせたでしょう?」
ニーナの顔から不安が少し消える。
「それにね、ジークがついているの!危なくなったらあっという間に倒してくれるわ!ね~ジーク!」
ママンいきなり振るなんて反則!一応
「あーい、らいじょぶ」返事しておいた。
ニーナは目を白黒させ、不安も吹っ飛んで「ジークさまがぁ!じーくさまがぁ?」と繰り返し呟いていた。
最後に「にぃーな!がんば!」とダメ押ししたら、ママンが大声を上げて笑ってしまい、ニーナも釣られて引き攣り笑いをしていた。
ママンは天幕に戻るとメリザに子供たちの食事の準備と出発のお世話をお願いして、自分はお茶を飲んで一息ついている。
防具は昨夜から装着したまま、そばには剣、弓矢、槍が手の届く場所にあり、臨戦態勢はできている。
俺も気を緩めてまったりすることにした。
「ママン、あいがと、だいすき!」
と言ったらものすごい勢いで抱き上げられ頬擦りをされてしまった。
こうゆう時のスキンシップって大事だよね!
ママンも緊張を緩めてくれるといいのだけど…
◇◇◇
四十分後、ケインとアナベルが無事帰ってきた。かなり青ざめ焦っていた。
「4キロメートル下った森の中で魔物を発見しました。今は獲物を捕食しているみたいです。通った後は倒木でかなり発見しやすかったです。全長7メートルを超える熊の魔物で立ち上がり腕を上げると高さ十メートルは超えるのではないでしょうか?かなりの魔力もちと思われます。ランクはC+いや矢が刺さっていましたから手負いです。Bになっているかもしれません。」
場が一瞬で静まり返った。青い顔をしている者もいる。
「今から逃げられるか?」父さんが確認する。
「無理でしょう。匂いを追って村まで来ます。」
「「「「「「「「「「――――」」」」」」」」」」 沈黙に包まれる。
「とにかく倒さねばいけないことが分かったな!今すぐ昨日仕留めた猪の肉と素材、オオカミの素材を捨て、年の若い従士二名が幌馬車に乗り子供たちと一緒に村に退却しろ。次に箱馬車の馬8頭には鞍をつけ騎乗する。ニーナはその一頭に乗り幌馬車と同行しろ。万一の時は、リーゼとビアンカを乗せ村に走らせろ。残りの従士8人と、オットー、私、メリザ、マリーは魔物に一当てする。勝てないようなら隙をついてマリー、ケイン、アナベルは騎乗してケルナー辺境伯に救援要請に向かってくれ。メリザと怪我をした3人は騎乗後、幌馬車を追い子供たちを連れて村に知らせに走れ。すまんが後の者は俺と一緒に遅滞戦闘だ。よろしく頼む。」
父さんの言葉に皆食い入るように聞き入っていた。
俺はママンの腕の中でコソコソ話をする。
「ジーク、ママンといっしょ、いい?」
「もちろん」
「ねらいはうしおあし。くま、はしえない。たてない。つめよけえう。あらまちょん。」
「わかったわ」
「あと、よわいとこ、つきうけうと、のおくしゃ。」目と眉間と顎下を指さす。
「あらあら、良く知っているわねぇ~ジークが一番怖いかもね?うふふ」
ママンは、目を見開いた後、笑って呟いた。
そして、大きく声を上げた。
「カールの作戦で行きましょう。相手は大きいだけの獣よ!遠間から確実にダメージを入れていきましょう。……狙うのは後ろ足!足をつぶせば動けなくなるわ。みんな逃げやすくなるの。後、立ち上がれなくなるから前爪の攻撃範囲が狭くなるわ。突っ込み攻撃もできなくなるから安全率も格段に上がるの!そ・し・て・頭が下がるから倒しやすくなるわ!……確かに毛皮も分厚く魔力が高いから攻撃は入りにくい!でも時間をかけて弱らせれば大丈夫!うちには『百人斬』のカールがいるの!!『王国の英雄』カールがいるの!!ランクBの魔物なんてカールが止めを刺してくれるわ!みんな魔物を撃ち漏らしたケルナー辺境伯領の奴らにうちの強さを見せつけてやりましょう!!」
そして、大きく右手を突き上げた。
「「「「「「「「「「おおー」」」」」」」」」」ものすごい掛け声が響いた。
「でもぉ、一つ言っとくわ!功を焦って突っ込んで、挙句の果てに死んでも年金は払わないわよ!しっかり生き残って褒美を受け取りなさい!!」
「そりゃねーわ」「若奥様厳しすぎー」「こりゃまいった」
と笑い声まで聞こえ始めた。
ママンの耳元で呟く。
「ママンあおうのうまうま」
「あらあら、知らなかった?一応領主ですもの!うふふ」
家の女神さまは、とっても男前だった!
読んでくださってありがとうございます。
読んでもらえるのがうれしくて休みの間暴走してしまいました。
お話も予定から逸脱しています。
更新に時間がかかるかもしれませんが、ご容赦ください。