11 駄メンズ達の晩餐
ママンは言うが早いか俺を抱き上げ父さんの所へやってきた。
「カール、オットー、メリザ話があるの。」
「どうしたんだい?慌てて。」
父さんが串肉を頬張りながらママンをみる。
他の二人も側に来て車座に座る。
「村に帰りましょう。」
男二人が驚いた顔になる。そして父さんがわめいた。
「何を言ってるんだい早ければ明日の夕方にはケルナー辺境伯領に入れるんだよ!それを今更帰るって…物資も大量に運んでいる。魔物の素材もある。このまま帰ると大損だし何よりギルドに調査依頼が出せないんだよ?」
「でも命を失うよりはいいわ。子供たちもいるのよ!」
「だから、俺が守るっていっているだろ?」
「ちょっと聞いて。」
地面に俺が書いたより分り易く街道と地理を書き込む。
馬車と今まで倒した魔物を示す石を置いていく。
最後に一際大きな石を置いて話し出した。
「山道をケルンブルクに向かって進んできたけど三度も魔物に遭遇したわ。それも進むにしたがって魔物は強力になっている。図にすると分り易いでしょう?強力な魔物に追いやられて移動してきたのよ!このまま行くと強力な魔物に明日あたり遭遇することになるわ!」
「たしかに三度魔物に遭遇したけど全て討伐しているじゃないか!それに魔の森に向かっているんじゃないんだ。ケルナー辺境伯領に向かっているんだ。そんなに強力な魔物の話は聞いたことがない。もし居たとしても討伐隊に退治されているさ!それに今日倒した猪の魔物が君の言う強力な魔物じゃないのかい?あいつにはオオカミの牙は立たないぜ!」
そう捲し立ててコップを煽る父さん。
どうも酒が入っているみたいだ。ふぅー
「私は若奥様に賛成よ!今からでも村に退避するべきだわ!そのうえで戦力を増員してケルンブルクまで行けばいいのよ!」
メリザがはっきりいいきった。
「しかしなぁ~旦那様の言うことにも一理あるぞ。子供たちが心配なら、いざとなったら、若奥様、メリザ、ニーナが子供たちを馬に乗せて逃げればいいんじゃないですかい?俺たちもそんな軟じゃないですぜ!」
オットーがいつもと違った口調で言い切った。こいつも飲んでるな。
周りの従士も話に割って入ってきた。
「俺たちがどんなに強い魔物でもぶちのめしてやりまさぁ~」
「嬢ちゃん坊ちゃんは命に代えて守ってみせますよぉ~」
「俺たちにゃ~神様が付いてるんでさぁ~そうでなきゃ、あんな大怪我した三人の傷があっという間に治ることなんてありゃしない!大丈夫でさぁ~」
口々に声を上げ大丈夫を連呼している。
こりゃだめだ、救えねぇ~
酔っぱらって気が大きくなっている駄メンズたちを見た後、ママンに視線を向けるとママンも呆れていた。
「とにかく用心するにこしたことはないわ。今晩の見張りは三人でやってね!昨日みたいにジークに叩き起こされるのは勘弁してね!」
ママンに何を言われているのかわからない従士が目を白黒させている。
従士たちが父さんを見るが肩をすくめて『分らない』のジェスチャーをしている。
ママンは俺を抱き上げメリザと一緒に子供たちを馬車の所に連れて行った。
その時ニーナも一緒に連れて行き馬車の中で子供たちと一緒に寝るように言いつけた。
「また、人のいないとこに行くの?」ママンが俺に聞いてきた。
こくりと頷く。
「あまり無理しちゃだめよ!子供が気を失うのを見るのは心臓に悪いんだから…」
「あいー」とごめんなさいをする。
「もうちょっと大人がしっかりしてればね。謝らなきゃいけないのは私たちの方ね」
ぶるぶるぶると必死に首を振る。
人のいない所に行き、大きな岩の三十メートル前で止まる。
月明かりは有るけどやっぱりくらい。
「ちょっとまってね。明かりを灯すわ」
そう言って何かを詠唱するママン
「ライト!」
街灯みたいな明かりが灯った。やっぱりきちんと魔法を学びたいなと思う。
さて、始めるかと思ったらメリザが二人分の弓矢を持ってきて一方をママンに渡す。
ママン達も弓の練習をするみたいだ。矢を番え、弓を引き絞って矢を強化する。
シュッッッガツン
見事、岩に突き刺さった。
それでは俺も始めますか。地べたに座りコロンとコケない様に気を付ける。
手のひらに魔力を集め、魔力をイメージに置き換える。
イメージはク○リンの気○斬だ。
円盤にあたったところから岩が切れていく。
岩を切断しても円盤は残っていたが回転速度が落ちていた、
魔力を足して回転速度を上げてやり今度は高速で円盤を動かし大岩を切り刻む。
魔力操作がかなり難しいが最後のとどめに首ちょんぱはできそうだ。
それを見ていた、ママンとメリザが大きな口を開けて固まっていた。
「ジーク様がいれば強力な魔物が来ても大丈夫なのでは……」
メリザが小さくつぶやいた。
まだ、魔力も残っている。
旅行前に比べると魔力量が格段に増えている。
魔物を倒すたびに特に多くなっているみたいだ。
もしかしてLVとかが上がっているのかもしれない。
落ち着いたら鑑定してみよう。
確認のために、最後にアイスニードル六十四本撃って終わりにする。
打ち終わるとママンとメリザも終わったところだった。
「ママン!」呼びかけると言葉が出た!
びっくりして振り返ったママン。もう一度
「ママン!」二パッ
飛んできて抱き上げて頬擦りするママン。再度
「ママン!」
メリザを見てママンが
「ジークが呼んでくれたの!はじめてよ!は・じ・め・て!」
「良かったですわね。若奥様!本当にジーク様は賢いですわぁ!」
喜んでくれるのはいいのだがちょっと眠くなってきたので目を擦る。
「ごめんなさいねジーク。嬉しくってはしゃいじゃったわ!今日もいっぱいがんばったから疲れているわね!さあもう寝ましょう。天幕まで連れて行くから待ってね!」
三人で慌てて野営地に帰ってベビー籠に寝かせてもらった。
とにかくやれることはやった後は運に任せるだけ。
みんな無事でケルンブルグに着くんだ!と心に決めて眠りに着いた。
ピピピピピッ小鳥の泣き声がする。でもかなり騒がしい。
目を開けると空が白み始めていた。
周りの魔力を探ってみる。
獣や小動物が山を登って移動している。
大分近いなと思いながら、隣で寝ていたママンを揺する。
「ママン!おっき!」おおー片言がでるよー
ママンがびっくりして目を覚まし抱き寄せてくれた。
お腹減ったのでお願いする。
「ママン、まんま」仰天して目を見開くママン
「ジークがしゃべってる……」
父さんを叩き起こして
「ジークがしゃべってる」を連呼するママン嬉しいのは分るのだが時間がないのでちょっと怒って強めにしゃべる。
「マ・マ・ン!ま・ん・ま」
「あらあら、ごめんなさい!びっくりして、嬉しくて…」
慌てて食事をさせてくれる。
それを見ていた父さんが唖然としてフリーズしていた。
まだ反応はないけど嫌な予感がするので、ママンに話しかける。
「まものぉちかうぃ!きうぉつけれぇ!」そして再びもぐもぐタイム。
暫く周りの気配を探るママン。そして分ってくれたようですぐに叫んだ。
「カールみんなを叩き起こして!直ぐに警戒態勢を取るのよ!隠密に優れたものを斥候に出して!しっかり食事もとらなきゃ!メリザ昨日のスープを温めて!食べ終わったものから荷造りよ!とにかく急いで!」
「ニーナは子供たちを起こしてきて、できるだけ早くね。」
俄かに野営地が騒がしくなる。女性陣だけ……
まだ空が白み始めたところだ、昨日の騒ぎで遅くまで起きていたのだろう。
まったく緊張感がない。困った駄メンズたちだ。
ママンに父さんがどうしたのか聞いてくる。
「こんな朝早くから何を騒いでるんだい。そんなに怖いのかい?」
「ええ怖いわ!あなた感じない?小鳥の泣き声が異常よ!山の気配も何か変。獣たちが山の上に移動しているみたい。何か近付いて来ているのよ!間違いのほうがいいの!その時は皆に謝るから…だからお願い指示を出して!」
父さんは呆れて困惑した後、あきらめた素振りをみせて、やっと従士たちに支持をだし始めた。
ごはんをいっぱい食べさせてもらったので口を離し、一言つぶやいてしまった。
「ひゃくにんぎりぃ?」
「ええそうよ!昔は強かったんだから、でも田舎に引っ込んで訓練も少なくなって…領地経営もあるしねぇ」
「魔物の森のかいこん!」「魔物たおしてつよくなる!」
「そうね!ここを乗り切って頑張ってもらいましょう!」
「あいー」
駄メンズ再生計画を話し合うのだった。
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