10 悲しき串肉祭り
下り坂になって馬も楽になったのか若干進むスピードが上がった気がする。
三時の休憩も終わりあと一時間位したら野営地点を決めようかと言うとき、また魔物の反応があった。
ケルンブルグからの道を真っ直ぐの登っているみたいで、時々止まって何かしているみたいだ。
距離は八百メートル位先でかなり離れている。下りで見晴らしが良いのでもうじき見えるはず。
魔力反応はオオカミより小さいのだが、高さ、幅ともに二メートル、長さが四メートル位とかなり大きい感じがする。
とりあえずママンをゆすって前方を指さすと、父さんに声をかけ馬車を止めてくれた。
馬車を止めたまま、父さんとオットーで偵察に行った。
案の定、猪の魔物が道を登りながら木の根を掘り返して食べているそうだ。
こちらに気付いていないのでこっそり近づいて一気に倒してしまうようだ。
図体がでかいので馬車にぶつかられると粉みじんに吹き飛んでしまう。
馬車からできるだけ遠くで戦闘し、気が付かれた時のために盾役で馬車を守っておくことになった。
急襲するのは父さんとオットー、盾役は馬車の手前でベテラン二人が受け流す。
他の従士は投擲槍と盾を持って万一に備える。
正面から当たると吹き飛ばされるのでくれぐれも注意するように指示をだしていた。
ママンに支持がなかったので、俺は弓矢をつかんでママンの背中をよじ登る。
ママンは気付いてくれたのかメリザと一緒に弓矢を持って外に出て俺をおんぶひもで背中に固定してくれた。
目指すは弓の射程が届き打ち下ろしになる大岩の上だ。
岩の上から覗くと猪の魔物はまさにドスファ○ゴだった!
全身の毛皮は分厚くダメは通りにくそうだ。
眉間を狙っても牙や鼻に邪魔されそうだし頭蓋骨も分厚そうだ。
それでも目を狙ってこちらにタゲを取りうまい具合に大岩にぶつかってくれれば、案外楽に討伐できそうなのだが…
全員が配置についたところで父さんとオットーが剣を抜いて躍りかかる。
上段から大剣を首元めがけて叩き込んだ。
しかし剣が届く前に体を動かされ刃がいなされた。
分厚い毛皮に阻まれ少し肉を抉っただけにおわる。
ママンの瞼を撫でて狙いを教えると、一つ頷いてメリザに向かって「右目」と一言。
返すメリザは「左目」と一言。ホントこの二人息ぴったり!!
ちょうど剣で傷つけられて怒りまくったドスファ○ゴは前足で地面をかいて突進の準備をしている。
俺はママンの後ろから肩に触って魔力を通す。
矢を番え引き絞った弓を強化して威力を増し、矢にも魔力を纏わせ強化する。
最後に矢に紐をつけた感じで右目に絶対当たるように誘導するイメージを追加する。
「「疾っ」」
ママンが吠えた。メリザも吠える。
そして二本の矢が寸分たがわずドスファ○ゴの両目を貫く。
右目に刺さった矢は貫通して脳まで達したようだ。
「ドスン」と言う大きな音と地響きと共にドスファ○ゴが倒れピクピクと痙攣している。
「「「うわー」」」と言う歓声が聞こえた。
ママンが首を後ろに向けて一言。
「ジークあなたすごいことするわね!ただ皆には内緒よ。 それとちょっとは自重してね!」
と言ってウインクしてきた。
メリザも苦笑いしながらこっちを見ている。
あ~やりすぎたと背筋に冷たいものが流れた。
ママン、メリザと一緒にドスファ○ゴの近くまで行く。
父さんとオットーが獲物を取られて苦笑いしている。
右目の矢を見て「すごい威力だねぇ」と感嘆する。
「矢に魔力を纏わして強化してみたの。身体強化の延長とイメージすれば案外簡単よ。あなたも剣を強化してみたら?」
「そうか!そんな方法もあったのか?」
背中の大剣を引き抜き剣に魔力を纏わす父さん。
徐に近くにあった大岩に剣を叩き込む。
なんの抵抗もなく真二つに割れた。
「本当にすごい切れ味だねぇ。ただ身体強化と併用するのに訓練が入りそうだ。後かなり魔力も喰うねぇ。」
「強化するのに纏わす魔力量が多いのよ。武器の表面を薄く纏わす程度でいいの。その方が切れ味も増すはずよ。あと切っ先に延長するように魔力で刃を伸ばしていくと切れる長さも伸びるはずよ。この猪の首ぐらい一刀両断ね!」
「すごいことを発見したねぇ。いつ思いついたんだい?」
「さっきよ!弓矢を射る時、ジークに教えてもらったの。ねージーク」
「あははは、冗談はよしてくれよぉ~」
「ところでこの魔物の血抜きはやんないの?さっさと内臓も抜いて移動しないと日が暮れちゃうわよ!」
「そうだそうだ、さっさとやってしまおう。」
そう言って父さんは、急いで従士を呼びに行った。
◇◇◇
俺にはとても気にかかることがある。
父さんたちの話を聞いていると、出現した魔物がかなり多すぎる。
山脈の北側から、まるで強い魔物に追われて移動しているように思える。
最初の六匹のオオカミは偵察隊で、次の二十匹が本体。
そして猪の魔物は走る耐久力がないので木の根を食べて空腹を抑えながら移動してきた。
この後現れる魔物がいるとしたらオオカミよりも魔力量が大きく猪より堅く大きい魔物になるのだろうか?
獣で考えると猪よりでかくて、オオカミより強いとなると熊やトラなのだが、そんな魔物が出てきたら、このパーティなんて瞬殺されそうで不安で仕方ない。
我流だけど魔法が使えたので魔力があるうちに練習しておこうとおもう。
猪を解体している間、ママンを引っ張って抱っこしてもらう。
「何処か行きたいの?」ママンが聞いてきた。
「あう」と頷き、人気のない所を指さす。
指さした方に連れて行ってくれる。
誰もいないことを周りを見渡して確認し、大きな岩の手前三十メートル位で止まってもらう。
さて、魔法の練習を始めよう。
先ずは氷魔法から、魔力を集めて手のひらに集中する。
イメージするのは氷。気体を分離して針の様に圧縮し分子運動が止まるイメージで固定化する。
余剰となった運動エネルギーは氷を加速するエネルギーに変えて的を撃ちぬく。
試しに、一針打ち出してみる。
『アイスニードル』
岩に突き刺さった。そしてすぐ消える。
次に二本、その次は四本、八本、一六本、三十二本、六十四本まで成功した。
そして、気を失った。
◇◇◇
目を覚ましたのは馬車の中だった。
誰もいなかったが外で賑やかな声が聞こえる。
みんなで食事をしているみたいだ。
肉の焼けるいい匂いがしてくる。
猪肉の串焼きでもしているのだろう。
あ~俺も腹減った。肉食いてぇー
ふと窓の外を見ると薄暮のころだった。
誰か迎えに来てくれるのを待つ間に次の魔法のイメージを考える。
まず、竜巻を作る。縦に上昇気流が発生するが竜巻の外側に上から下に循環する流れを合成する。
回転するドーナツ状の空気の流れを薄くし、円周方向に引き伸ばして回転速度をどんどんあげていく。
厚さ一ミリメートル以下直径一メートル位で高速回転させ固定化した上で目視誘導して相手に当てる。
気流の中に砂や小さい金属粒子を入れてやると切断効率が上がる。
イメージはク○リンの気○斬
そんなことを考えているとママンが馬車に入ってきた。
「おなかすいた?」ママンに聞かれたのでこくりと頷く。
「ちゅうちゅうちゅう」いっぱい食べる。
食事をしているとママンが話しかけてきた。
「ジーク氷魔法なんてつかえたのね?びっくりしちゃった。でもママの前で魔法の練習なんて初めてよね?どうしたの?魔力切れで気を失うまで魔力を使うことは、危険なのよ!生命力を使っているのと一緒なの!やめて欲しいの!言っていること分る?今のジークは何か焦っている気がするのだけど……心配事でもあるの?」
大きな瞳で真剣なまなざしで問いかけてくる。
ママン全てお見通しである。
説明したいのだけど言葉が話せないのでどうしようか?
食事が終わると抱っこをせがむ。
とりあえず馬車を降りて、地面に座らせてもらう。
木の棒で地面に波打つ線を書く。
次に石を四つトコトコ動かす。
そして動かしている前に石を六個置く。
ママンの顔を覗き込む。
「この四つの石が馬車ね?そして六つの石が最初のオオカミ?」
さすがママン理解が早い。
「あいー」と返事して六個の石をどけ、今度は二十個石を置く。
「夜襲ってきたオオカミたちね。次は猪かしら?」
「あいー」二十個の石をのけ大きめの石を置く。そして取り除く。
さらに倍以上ある大きな石をおいて、手を熊の手にして「がうぉー」と叫ぶ。
ママンは目を大きく見開いて聞いてきた。
「猪より大きな魔物が来るって言うの?もしかして熊?」
俺は首をコテンと傾げ自信なさげに「んー?」と返事をする。
「分らないけど、襲ってくるかもしれないと思っているのね?」
俺は首を縦に大きく振りながら「あいー」と返事をする。
「そうだとすると逃げた方がいいわね!」
リーゼ姉達の方を指さし泣きそうな顔で「あううー」唸る。
「リーゼ達子供のことが心配なのね?でもあなたが一番年下の赤ちゃんなのよ!」
ちょっと呆れた顔で俺の顔を見つめたあと、優しい顔で頭をなでてくれた。
「ジークはお利口で、優しいのね!ちょっとカールと話してくるは!」
決意に満ちたママンの顔は凛々しく神々しかった!
『でも上手くいくかな?人生はままならないからなぁ~』
読んでくださってありがとうございます。