9 神様の話
目を覚ますと今度は馬車の中だった。
父さんがいなくて代わりに、メリザとニーナが乗っていた。
ゴトゴト揺れているので移動しているのだろう、けどどっちに向かっているのだろう?
ママンは俺が起きたのに気付いて抱き寄せてくれた。
そして俺が言葉の意味を理解しているのを分っているかのように昨夜の魔物襲撃から今までの経緯を話してくれた。
俺の泣き声と、何故か起った爆炎により目覚めた従士一同は夜明けまでかかって二十頭のオオカミ型の魔物を何とか討伐した。
途中誰が放ったかわからない爆炎魔法三発が魔物のリーダー格を叩きのめさなければかなりやばかったそうだ。
こちらも盾役三人が重傷を負い、村に引き返そうか思案していた所、いつの間にか重症者の傷がふさがった。
鈍い痛みと微熱が残っているが、戦闘にも支障はないということなので一路ケルンブルクに向かっているそうだ。
リスクはあるが、村に帰っても、どの途ケルンブルクの冒険者ギルドに調査討伐依頼は出さなければならない。
村の最高戦力がこの場に揃っている。
すでに魔物二十六頭とかなり多くの魔物を狩っている。
さらに昨夜の襲撃に群れのリーダー格がいたのでほぼ討伐できているだろうと判断したそうだ。
懸念事項としては領主一家が全てそろい、尚且つ幼子ばかりなのでメリザは強硬に村に帰ることを主張した。
「家族は死んでも俺が守る!」
と父さんがのたまったため、二の句が継げなくなったらしい。
俺の中で父さんの脳筋疑惑がいっきに膨れあがった。
そして最後にママンがつけたした。
「あらあら、何かあってもジークが守ってくれるものね!うふふ」
と言って鼻頭をツンツンと突いた。
目を逸らして口笛を吹く真似しかできなかったのだが、それを聞いたユリウス兄とビアンカ姉が一斉に「僕が「私が守る!」」と騒ぎ始めたのが微笑ましかった。
ちなみに昨夜の襲撃時にリーゼ姉さんは震えながらも馬車の窓から戦況を見守っていたらしく相当怖かったらしい。
ユリウス兄、ビアンカ姉はあの喧騒でもぐっすり眠っていたそうで将来大物になると場を和ませたそうだ。
周囲を警戒する必要もあり、父さん、オットー、ベテラン従士二人が、それぞれの馬車の御者を務めている。
使用人用の箱馬車には怪我をした三人が乗り、できるだけ体力を回復できるように横になっている。
馬車の中には弓矢と槍も載せて、昨日以上に臨戦態勢が整っているのだがなんか弛緩した雰囲気が漂っていた。
子供ばかり退屈し始めたので、ママンが神様のお話をしてくれた。
遠い昔、光と闇の夫婦神さまがいました。退屈だったので大地と空と海を作り、二人だけだと寂しいので人、獣、草木、魚を生み出しました。
仲の良い夫婦神様に六神の子供が生まれました。水の女神、火の女神、風の女神、地の女神、命の神、混沌の神です。神々は中央の神山の頂に住み、楽しく暮らし全てを見守っていました。
命の神は浮気者で人の娘5人と交わり子を五人もなしました。
始まりの五王(北の王は帝国の皇帝の先祖、東の王は今は亡き東の女王、西の王が今の王国の女王様の先祖、南の王が共和国の元老院代表の先祖、中央の王が教皇様の先祖)となり人の国を治めます。
他に獣の姿で人の娘に近づき子をなすとその子は獣人となりました。
世界を管理していた四人の女神は、忙しいので眷属となる精霊を召喚し、四季を作りました。
その時の精霊の末裔がエルフとドワーフと言われています。
あるときいたずら好きの混沌の神は人々に欲望を与えて中央の王を唆し、東の王国を滅ぼさせてしてしまいます。
滅ぼされた東の王と民の呪いにより、東の地は瘴気に覆われ死の大地と化してしまいました。
そこに魔物が生まれ、魔物の住処になってしまいます。
平和が好きな神様たちは、欲に塗れた人間に怒り、神山を崩し天界に隠れてしまいました。
神山の麓に住んでいた中央の王と民は、神山崩しの災害で多くの者がなくなってしまいました。
命からがら逃れた中央の国の者は、神の怒りに悔い改め、神に許しの祈りを捧げます。逃れた先で教会を作り、神の教えを説き、施しを行い、何とか生き続けることができました。
放浪の民となった中央の国の人々はなんとか、神山あとの盆地に国を復興し教国となりましたが、現在も神様に祈り、施しをし、許しを請い願っているのです。
他の三つの国でも欲に塗れた人が増え、人同士で殺し合い戦乱に明け暮れていました。
そのため人の数が減り、国が滅びかけていました。
見かねた四神により知恵、力、技術、忍耐を、命の神から魔法を授かりなんとか滅びからは免れることが出来た人間なのですが未だに戦争はなくなっていません。
平和が好きな神様たちは人が仲良く暮らせる日を心待ちに天界から守ってくれているのです。
ママンが話し終わるとビアンカ姉が呟きます。
『混沌の神さまは悪い神様なの。私嫌いなの!』
「あらあら、ビアンカもいたずらするでしょ?
神様の悪戯だから規模がすごくなっちゃったのね。
ビアンカも悪戯しないようにしなくっちゃね?」
「うん、わかった悪戯したり、他の人とけんかしないようにする。」
「あらあら、ビアンカはいい子ね~うふふ。」
リーゼ姉がママンに聞いた。
「洗礼の時にもらえた加護が智慧とか魔法なの?」
「そうよ!リーゼは水と命の加護を頂いているはね!
ということは知力と魔法に属性があるから、文官や魔道士向きね。
ただ、努力すると他の加護も頂けることがあるから努力することが大切なの!」
ユリウス兄が相変わらず自身に満ちて喚き始めた。
「今度の洗礼式では全ての加護を貰って見せるさ。」キランと歯が光った。
「あらあら、ユリウスは勇者様になるのね!すごいわ!うふふ」
思い思いに話し始めた子供たちを優しい目で見つめるママンとメリザ。
『この二人本当に女神と聖母だよなぁ~』と思うのであった。
神様の話の途中でも馬の休憩を入れながらのんびりと山道を登って行った。
途中から森がなくなり高山植物や低い灌木が増えていることから大分高い高度まで登ってきたことが伺える。
富士山の五合目みたいに溶岩が砕かれたものじゃなく、立山や槍ヶ岳みたいな堆積岩が隆起して地層ができている山肌だ。
石灰岩や大理石なんかも探せばあるかもしれない。
石灰があると肥料にいいのだけどと、思いながら岩肌を眺めていた。
◇◇◇
正午を少し回った時、昼休憩にしようと父さんから声がかかった。
ちょうど山道の中間地点でここからはケルンブルグまでの下り坂になるらしい。
馬車が置けるほど十分開けたところに岩陰から清水が湧きだしており、背の低い柔らかそうな草も生えていた。馬の休憩にも持って来いである。
さっそく、荷物を下ろし、火を焚き始めた。
薬缶に湯を沸かし、茶葉を入れてお茶を飲む。
かたパン、干し肉、ドライフルーツだとお茶はごちそうだ。
俺は一足先にママンからご飯を「ちゅぱ、ちゅぱ」食べ終わったので、こそこそハイハイして回ることにした。
広域に魔力を広げて鑑定すると脳の処理能力オーバーで気絶する恐れがある。
また魔物などに魔力を察知される可能性があるため、狭い範囲で探知と鑑定を繰り返して周りを調査していった。
すると大量の薬草がある所を見つけることが出来たので、してやったりと人を呼びにハイハイして戻った。
ちょうどメリザが食事を終わって一息ついていたみたいなので近くまで行って、メリザの上に這い上がり抱っこを強要する。
そして薬草がある方を指さして、服を引っ張って連れて行った。
薬草の群生地まで連れて行くとメリザは飛び上がるくらい驚いて俺のことを見てきた。
唇の前で人差し指を立て「しー」とすると
『うんうん』と頷いて暇そうな従士を集めてさっそく薬草の採取を始めてくれた。
メリザ曰く、かなり貴重な薬草でハイポーションの原料になるのだとか。
薬師ギルドに下ろすと一株銀貨二枚で買い取ってくれるので百株以上採取できたから、金貨二枚にはなるそうだ。
今回の王都行費用の足しになるので、メリザもママンもホクホクニコニコだ。
さらにこの場所を覚えておけばいつでも採取できるため今後の我が家の収入源になることだろう。
そんなおいしい休憩を終えてお腹いっぱいになったのと一仕事したのでママンの腕の中でうとうと眠り始めた。
眠りに着く前にママンが「今回の旅はジークが大活躍ね!」と言っておでこにキスしてくれた。
おっさんとっても嬉しくて心地よい眠りに着くのだった。
読んでくださってありがとうございます。




