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ケータイ小説

わたしは、ケータイ小説を読むことはない。

流行だって事は知ってるけど特に読まない。


文庫本とか、父が持っている『パッド』を電子書籍リーダーにして読む。

とにかく本は読む、沢山読むのだけれどあれは好かない。


だって、だいたいは『女子高生の赤裸々な云々』だとかそんなのばっかりだ。

あんなのポルノとどう違うというのだろう。


だいたいラストは、複雑な人間関係とセックスに倦みつかれた主人公が病気で死ぬのだ。

でも、現実はそう簡単に終わらない。

毎日毎日がそのまま続いていくのだ。


リストカットや自殺なんてのもナンセンス極まりない。

だいたいそういう事を試みる人は、結局生きる。


私だって同じことを考えなかったわけではないけれど、そんな事はしなかった。

すれば、たちまち学校で話題にされるからだ。


辛くはない、私は誰からも相手にされない。

普通の容姿と身長を持ったことを親に感謝するべきだろう。


ただ、私には病気がある。

なんだかわからない病気が。


半年前に世界規模で謎の病原菌が流行した。

それに、私も感染したのだ。


症状は微熱とめまい、そして吐き気。 

感染経路は不明で、ワクチンも開発されなかった。

学校では大騒ぎになった、私の周囲からは友人だった子が消えた。


「アイツのそばに寄ると死ぬから!ぜったい近寄っちゃ駄目だよ!」


騒ぎ屋の一人がここぞとばかりに大声で叫んだ。

私自身、信じられないほどの速度で友人がいなくなった。


いつも一緒に帰ってくれる子が話しかけなくなった。

たまに私に視線を向けてくる男子が、私を無視するようになった。


しかし、WHOから突然『無害』という宣言が出された。

日本の厚生省も同様のコメントを出して、事態は沈静化した。


私の周囲もそうなった。

でも、私とクラスメート達の距離はそのままだった。


現実なんてこんなものだ、私の意志を無視して毎日毎日が続くのだ。


今日学校で突然校内放送が入った。

C組の田辺くんが、通り魔に殺されたそうだ。

たちまちクラスメート達はショックに陥った。


でもあれがショックなのかは分からない。

泣き出す子もいたけど、どう見ても集団ヒステリーとしか思えなかった。


ああいうのは怖い。

どうして興味がひとかけらも無い相手が死んで涙を流せるんだろう。


騒ぎ屋の子が、聞かれても居ないのに自分の『推理』をとうとうと述べ始めた。

いわく、あいつは不良だから敵対している不良に刺されたに違いない。

いや、たぶんヤクザか何かの仕業だ。


話は急激にエスカレートしていった。

馬鹿馬鹿しくなって、私は黙って席を立ち教室から出た。


廊下を通って階段を降り、下駄箱まで辿りつき外履きに履き替えて歩き出す。


『生徒の皆さんは…集団下校を…』と、壊れたスピーカーがうるさく叫んでいる。

特に気にする事はない、それより本屋さんに行こう。


街中を歩く、いつもは賑やかなとおりだが、今は違う意味で喧騒に満ちている。

警察官がいる。

カメラマンがフラッシュを炊いている。

ヘリのプロペラが回る音が聞こえる、たぶんマスコミのヘリだろう。


街中でA組の青池をみかける。

私はあいつが嫌いだ。


性格が暗いし、背は低い。

それより何より嫌なのは、あいつも感染者の一人だからだ。

私がクラスメートから距離を置かれたのもあいつのせいだ。


あのウィルスは感染経路が不明だ。

だからクラスメート達は、私と青池の性的関係を疑った。

体液感染したのではないのかと言うのだ。


吐き気がした、そしてあいつは何も言わなかった。

私は泣きながら否定したのに、あいつは縮こまって何も、何も言わなかった。


その姿が、何より嫌いだった。


あいつは今でもイジメを受けている、いい気味だと思う。

このまま学校に来なくなればいいのに、とも思う。

でもあいつが来なくなれば、矛先が私に向きそうでそれも嫌だった。


青池のことはどうでもいい、とにかく本屋へいこう。


ケータイが鳴る、メールが届いていた。

他の学校には友人がたくさんいる、彼女達とはSNSで連絡を取りあう友人だ。

あまり会うことはないけれど、それでも大切な心の支えだ。


わたしは携帯を操作しながら歩く。

最近の話題は、怪談が主だ。

この街には幽霊が出るって話しがある、もちろん噂だけで誰も会った事は無いそうだ。


学校は退屈だけど、彼女達のおかげで日常は楽しい。

早くこの退屈な日々を終えて就職して一人暮らしをするのが私の夢だ。


本屋の前に着く、私はケータイをポッケに仕舞う。

自動ドアをくぐって、有線放送が流れる店内へと入る。

今日は何かいい出物はあるだろうか?


私は大島ゆう子、ケータイ小説が嫌いな女子中学生。

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