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ハイ・タイムス

フリーのジャーナリストって奴はタフな仕事だ。


俺の名前は青池遼平。

フリーのジャーナリストをやっている。


と言うと聞こえはいいが、俺のやる仕事といえばケチな覗き屋といったところ。

だが、腕はいいのは間違いが無い。


例えば、この街で芸能人のスキャンダルが発覚した。

発覚したのは俺の写真が元だ。


大学卒業を控えて生まれ育った街に戻ってきた俺は、

たまたまホテルから出てきたアイドルの写真を撮る事に成功した。


そいつを即座に週刊誌に売りつけ、100万の値がついた。

それに味を占めた俺は、今でもこの仕事を続けている。


親は俺の事を裏切り者だと罵る。

大手の新聞社に内定が決まっていたが、俺はそいつを蹴ったからだ。


まったく分かっちゃいない。

あのシャッターを切る瞬間の快感は俺をとてもハイにさせる。

だからこの仕事を続けているのだ。

そして、今日俺は再び生まれ育ったこの街に戻ってきている。


メシの種、殺人事件が起きたという情

報がネットを駆け巡った。

すぐさま俺は車で現場に急行、そこで俺は写真を撮りまくった。


まず、犠牲者の写真を撮り、その後街中の写真を撮った。

『日常が崩壊する瞬間』と題して、俺は犠牲者の写真込みでそいつを売るつもりだった。


だが、今俺の前にいるのは本来でいう所にスクープの対象などではなかった。

暗い表情、さえないルックス、低い身長。

つまり、俺の弟だ、よりにもよって。


しかし、どうやらこいつは運がいい事に犠牲者の第一発見者だという。

俺はとても幸運だ。

だがこいつは、何をどう聞いても口を割らないのだ。


取調室でもそうだった。

奴を身内名義でそうそうに引き取り、警察署を後にした。


今、俺たちが居るのは、町の古ぼけた喫茶店だ。

いつ潰れてもおかしくない、客足がまばらというか皆無。


しかし、取調べにはもってこいの場所。


「おう、いい加減吐いたらどうだ?」


「・・・うるせえ」


テーブルには適当に入れたであろうコーヒーが湯気を立てている。

奴はテーブルに俯いて、こちらを見ようともしない。

ケッ、役に立たない野郎だ。


まあ無理も無い。

こいつは30分ほど現場で叫んでいたらしい。

警察に保護された後も、そうしていたそうだ。


その後、1時間ほど取調べを受けた。


だがアイツが無罪である事はあっさり分かった。

理由1、現場に指紋が一切残っていない事。

理由2、犠牲者は鋭利な刃物で腹部を切り裂かれていたが、凶器を所持していないことと返り血が衣服についていなかったこと。

理由3、奴が犠牲者の唯一の友人であったこと。


三番目については怪しいところだが、もう一つある。


「理由4、お前みたいな痩せたクソちびがあいつを殺せるわけがない事…」

「う、うるせえっ!」


小さな声が、店内に響いてすぐに消える。


「…はぁ、お前さぁ~ほんっとに何も見てないのか?」

「見てねえよ…何にも…あいつはもう、もう…死ん、で」


見れば目には涙。


「悪かったよ、災難だったな。ただひとりの友達だったのにな」

俺は悪びれずにそう言う。

「あんたに…アイツの何が分かるんだよ!」

奴は叫ぶ、こう言い返される事は予想の範疇だが。


俺は重々しく、こう答える事にした。


「わからんよ、何も。実は特に興味もない。欲しいのは情報だけだ」

「なっ…!」

あいつは言葉を失う、まあそれでいい。


「ふっ…ふざけんな!俺は何も見てねえよ!てめえに話す事なんざもうねえ!

 だいたい写真は撮ったんだろ?…帰れよ!俺、も、もう、帰る」


奴は席を立つ。

弱弱しい抵抗、期待通りの行動だった。


「…友達の仇、討ちたくないのか?」

奴の動きが一瞬止まる。


「当たり前だろ!犯人が居たら…居たら…ぶっ…ブッ殺してやる!」

俺はその姿を見て、少々驚く。へえ、こういう事も言える奴だったとはね。

やつの目には今までに無い光が宿っていた、殺意と決意。


パシャリ!

俺はシャッターを切る。


「この野…」

俺は奴の顔に名刺を押し付ける。


「なんだよ?これ?」

名刺は非常に簡素なものだった。


『宗方総合調査事務所 ~信用調査等等承ります~』

簡素なフォントで内容も簡潔極まりないものだった。


「探偵?」

「じつはこの街に知り合いが住んでてな、警察のOBで昔はかなりの腕利きだったらしい。

普通、私立探偵なんてのはチンケな強請り屋みたいなもんだがこの人は違うらしい。

開業してから、実際に殺人事件の犯人を挙げてるって評判の人だってよ」


それは事実だ。

探偵と言えば、通常興信所の事を言う。

だいたいが浮気調査だのなんだのの雑多な仕事、下手すりゃヤクザのつかいっぱだ。

だが、この人は実際は違う。どうやってだか知らないが、実際に事件を解決している。


「都合よく俺が帰ってきてて良かったな」

「・・・待てよ」

このボケは俺の提案に疑問を呈しているらしい。


「何だよ」

「犯人逮捕すんのは警察の仕事だろ?民間の探偵なんてアテになるのかよ?

 だいたい探偵ってのはカネがいるんだろ?そんなカネあるわけ…」


「それでお前の気はそれで済むのか?」

あいつはまたも口ごもる。


「お前のただ一人の友達だったんだろ?」

「お前はそれでいいのか?」

「お前はそれで本当に…」


そんな言葉を何度も繰り返すうちに、奴は無言で頷いた。


「よし、それなら行け。俺も何か情報があったら連絡するから。」


奴は名刺を手に喫茶店を後にした。


俺はテーブルの冷めかけたコーヒーを呷った。

おそろしく不味かった。


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