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スクール・カースト

『あいつじゃ無理じゃね!』とか。

『あいつじゃねぇ…マジ無理!』とか。


その後にくるお決まりの笑い声とか。


そんなモノを毎日耳にする。


だいたいそいつは耳障りな『音』となって教室を満たす。

野太い低音とでピーキーな高音が交じり合った耳障りな『音』


うちの学校のぶっ壊れかけたスピーカーのノイズよりも最低な周波数でそいつはよく響く。


音っていうのは人間の足よりも早い。


逃げられようが無いから、さらに大きな音でかき消すしかない。


たとえば『うるせえよ』とか『ふざけんな』とか。

そういう言葉をでかい声で怒鳴って音の波を打ち消してしまうのだ。


だが俺にそんな事はできはしない。

怖いからだ。

ただただ怖い。

だから俺は必死になって耳をカナル型のイヤホンで塞ぎMP3プレイヤーの音量を上げる。

そんで、必死になってその周波数の圏外へと遠ざかろうとする。


だがその波は周囲に伝播して、音速で教室を出る俺を追いかけてくる。

笑い声は教室の外に伝播する。

どうしようにも逃げ場が無い、もうこの手の事には慣れたがどうにもやり切れない。


最悪なのはネット上のSNSの我がクラスのコミュニティ(『マイフレンド!』とかいうコミュ名!)にも同じ内容が登校されて笑いものにされる。


その笑い声は、800Mhzの周波数帯域を通ってネットワークのサーバーに記録される。

電波って奴は光と同じ速さで飛ぶ。

音よりも格段早い、これじゃ逃げようも無い。

俺にできるのは、聞こえてくる声を可能な限り遮断する事だった。


うちのクラスは良くあるにぎやかなクラスって奴で、話好きな奴が多い。

だが、結局そんな場所でもモノを言うのは暴力だ。


腕力による暴力と言葉の暴力。

中学の頃は前者が、今はより洗練された後者がモノを言わせている。

中学時代にいじめを受けていた俺は、高校進学後も同じような目に合わされていた。


もっとも最近じゃ学校だって監視されてる。

問題を起こした生徒には断固とした対応をというのが、うちの学校のモットーらしい。


しかし、問題とはなんだ?と俺は考えずにはいられない。

つまり、学校の運営に泥を塗るような行為。

マスコミに叩かれたり警察が動いたりするような事だろう、多分。


それ以外の問題については生徒の自主性に任されているらしい。

なんだか知らんが、生徒手帳にもそう書かれている。

  

俺は背が低く、ルックスは人並みだが性格は暗いほうだ。

そいつを毎回毎回取りざたされては、なじられ、笑われ、馬鹿にされる。

一度キレかけた事もあったが、背の高いクラスメートのかるい膝蹴りで文字通り一蹴された。


性質が悪いのは、そいつは笑顔でそうしやがったという事だ。

しかも、他のみんなには見えない角度で。


洗練された暴力と、音と電波の周波数が支配する世界。

端的に言うとそれが俺の住んでいる世界だった。


しかし、学校を辞めるわけには行かない。

だいたい友達だっている、俺はそいつを探しに教室を出た。


多分、あいつは今日も目に付かないところでタバコでも吸っているのだろう。

あいつは不良だけど、凄くいい奴だ。

俺に優しく、ときに厳しく接してくれるいい友達だ。


俺の日常においては、あいつがいる場所がいっとうマシな場所だった。


あくまでもさりげなく目立たないように廊下を歩く。


俺がたどりついた先は、校舎裏の倉庫の裏だった。

アイツが喫煙所として使っているいつもの場所。

昔は屋上で吸ってたけど、バレて停学処分を食らって以来そこは使っていない。


だが、あいつは居なかった。


突然、耳から音楽が消える。

いや、誰かが俺の後ろに忍び寄ってイヤホンを抜いたのだ。


「あれあれ?どうしたの?」

にこやかな笑み。

だがこいつの笑顔を見るたびに、心の襞にざらつくような感触を覚える。

不快感。


膝蹴りを入れたのはこいつだからっていうのもある。


奴は数人の取り巻きといっしょに居た。

携帯ゲーム機を持ってなにやらやっているらしい。


「彼を探してるんでしょ?残念だね?彼はいないよ」


こいつの声を聞くとざらざらする、喋らないでくれ。


「たまにはさ、俺らと遊ぼうよ?例えばプロレスごっことかさ」

また笑い声。


「お前さ、なんか自意識過剰っていうの?みんなお前の事気に入ってるんだってのに」

「そーそー、アイツになら何を言っても言い易いっていうかさ」


笑い声。


「…じゃ」


もの凄く小さな声で、俺はその場を後にしようとした。


「ちょっとちょっと♪」


が、足をかけられて転ばされる。


その後はお決まりの蹴り。

俺は耐え続ける。


頭を1回、腹を10回。

そいつを2、3人でワンセット。


そいつらが笑い声を上げながら去って言った後、俺は服の埃を払って立ち上がる。


こいつはよくあるスクール・カーストという奴だ。

目立たない奴も、悪い意味で目立つ奴も、カースト上位に入らなければこうなる。


だがあいつは、スクールカーストに自らを投じようとはしなかった。

だから俺もそうする。



あのくだらない連中のおかげで時間を取られたが、俺はそのまま帰路につくことにする。

あいつはたぶん、馴染みのゲーセンにでもいるんだろう。


夕暮れ時だった。

空を見ると、ビルの向こうに赤太陽が沈みかけている。


俺はゲーセンまで走る。

だが、今日はやけに人通りが多い。


というか、変だ。

何かがおかしい。


今日はやけにパトカーが多いし、それに警官だってそこらへんに居る。

なにより、向こうから何人かの人間が走ってくる。


俺はとにかく走った、ゲーセンの横を通る。

だが、ゲーセンのビルの路地に赤いものをみつける。

赤い液体が道路に池を作っていて、そこにあいつの使い慣れた学生カバンを見つけた。


さらにその路地のビルの壁に赤い跡。

赤い蛇のように、路地の奥へと続いている。


俺は路地の奥へ駆け込むと、そこに長年の親友が腹から血を溢れさせて死んでいるのを見つけた。


アイツはスクール・カーストから抜け出して、二度と戻ってこなかった。

俺は、アイツがいなくなった事で文字通りカーストの最底辺に落ちる事になる。


俺は青池一、スクール・カースト最底辺の中学生。

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