電子の眼
チャイムが鳴った、俺はすぐさま行動に移った。
高野と岸本から、逃げなければならない。
理由は明白だ、奴らは「敵」なのだ。
駅前の本屋で、中にいた奴らを無慈悲に切り刻んだ「敵」
俺はカバンを手に取り、教室を抜け出そうとした。
だがここで慌てて教室を飛び出せば、奴らに見つかる。
俺は目を閉じると、心の中で叫んだ。
「我はマギウス、青池一!全ての周波数は、俺に従う!」
意識がまた遠くなり、俺は緑色で満たされた空間に居た。
校舎の透視図、その中に青い光点を見つけた。俺の体だ。
赤く光る点もある、高野と岸本だ。
俺の教室はA-1、奴らがいる教室はA-3。
俺のクラスまで一つ間がある。
俺は、高野と岸本が動き出さないか注意深く観察した。
奴らは談笑しているように見えた。
電磁波そのものとなった俺の耳には、その音は届いてこない。
だが、今は教室を抜け出す好機だ。
俺は瞬時に意識を体に戻すと、廊下へ駆け出した。
その刹那、目の前にあの忌々しい文字が浮かび上がった。
『役務受領』
畜生、なんだってこんな時に。
「回答=汝、Slave、青池一は敵対存在の行動を観測するべし」
クソッタレのオートマトンが、俺に囁いてくる。
俺は仕方なく、どこかに身を潜める事にした。
「回答=隠蔽地点を選別、トイレに身を隠すのを推奨する也」
俺の視界に、最寄りのトイレへのルートがオーバーレイ表示される。
ちくしょう、逃げなきゃいけないのに、行き先がトイレかよ。
だが、従わなければ俺は死ぬ。
全速力で近くのトイレに入り、個室に入って鍵をかける。
目を閉じると、再び俺の意識は体から離れた。
不便な能力だ、どうして力を使うときに体を自由に動かせないのか。
どうせなら、力を使いながら並行して体も動かせればそれでいいんじゃないか。
「回答=それはMasterにより禁制がかけられている故也」
オートマトンからの回答が帰ってくる。
禁制、そうかよ。能力を便利に使うこともできのに、それは禁じられているのか。
あのクソ中年、宗方がそうしているのか。
「回答=故に、貴公は制約の元、首尾よく役務を全うする必要がある也」
俺は意識を高野と岸本に集中した。
高野と岸本に意識を集中した。
赤い光点が見える、あれが敵性存在だ。
俺はさらに意識を集中し、解像度をあげる事にした。
光点に視界が集中し、高野と岸本の姿が見える。
奴らは席から立ち上がると、ドアを開いて教室を出て行く。
奴らがこの後どこに行くのかを、見極めなければならない。
俺は、高野と岸本を注視し続ける。
奴らは俺の視線を追い返す事はできない。
これは不可視の眼、電子の眼だ。
高野と岸本は、階段を降り、下駄箱で靴を履き替えると校舎を出た。
「注意=対象を失探せぬよう、被覆領域の拡大を推奨する也」
俺はその言葉に従った、その瞬間、緑色の世界が大きく広がった。
俺の体がから発信される電磁波が、俺の住む街全域を覆い尽くしたのだ。
これで、奴らを追える。
あいつらがどこに行くのか、見極めてやる。
トイレの中で、俺は体験したことがない奇妙な感覚に震えていた。
怒り、とも違う。脳の芯から震えるような感覚。
言うなれば、戦闘的な気分とでも言おうか。
「回答=貴公の脳内に於けるアドレナリン濃度を増加させた也。役務の達成に向け奮励努力すべし」
くそったれ。




