接敵
俺はふらつきながら教室に戻った。
背中を叩かれた、蹴られた。
身体中から吐瀉物の匂いは消えていない。
ふらつく足取りを絡め取られ、俺は机の上に勢いよくダイブした。
ガシャン、と音がした。
机ごと床に倒れこむ。
教師の叱責が飛ぶ。
クスクスという笑い声が響いてくる。
俺はその全部を無視した。
無視せざるを得なかった、体が勝手に動いていた。
痛みはない、痛みはオートマトンが消していた。
ただ、心は死んでいた。
俺は倒れた机を直すと、席に着いた。
授業が続く。
その間にも、俺はペンを回し続ける。
二回転、三回転、ずっとだ。
なぜなら、俺の視界にあのくそったれなオートマトンの告示が浮かび上がったからだ。
『役務受領 偵察行為を継続せよ』
くそったれなMasterからの新たな司令。
俺はペンを回し続ける。
教師の声は耳に入ってこなかった、
俺は恐怖に竦みそうになる。
この文字が写ったという事は、この『役務』に従わなければ、俺は死ぬ。
脳を強制的に停止され、廃人になる。
レーダースコープには、確かに光点が写っている。
『回答=敵性存在を検出、校舎全体に電磁波を放出。解像度を上げよ』
俺はペンを回し続ける。
そうしているうちに、俺の意識は体から離れていった。
幽体離脱、いや、俺の意識が電磁波に乗って上昇してゆく。
俺は校舎を上空から眺めている。
後者は緑色に輝き、まるでポリゴンで作られた立体的な三次元マップのようだ。
俺は上空から光点へと勢いよくとダイブする。
いた、光点は二つ。
足がすくんだ、動けなかった。
その二つの光点は、俺の見知った人間から発せられていた。
『回答=敵性存在をさらにスキャンせよ』
だめだ、動けない。
『回答=役務に従わねば即座に貴公の脳機能を停止する、カウントを開始』
視界に数字が表示された。
60、59、58、数字は刻々と数を減らしてゆく。
俺は電磁波そのものとなって、光点の周囲をすり抜けた。
そいつの二の腕に、一本の光の筋が走った。
まるで断ち切られたかのような一本の線。
『役務完了』
俺の意識は俺の体へと戻った。
震えが止まらなくなった。
敵性存在は、高野と、岸本だった。
隣のB組の高野と岸本、俺にゲロを吐かせた奴らだった。
一体どうなっているんだ。
俺は授業が終了するまでずっと、机を見つめ続けていた。




