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ウォッグ!―X号兼務特殊警備員―  作者: 椋之 樹
第二章 私達がここにいる理由
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警備員の真意



 雅生が追うには、彼女達の走行速度は速すぎた。

 途中でどこに行ってしまったのか分からなくなり、無線から屋上云々と聞こえたから、屋上へ行ってみたという形だ。立ち入り禁止のテープを跨ぎ、狼奈に遅れて約一分後に屋上へ到達した。

「姫々島!どこだ!?」

 鎌鼬を追っていたのに、妙に静かだ。

 狼奈なら出会い頭に拳を交えていそうな感じがしたのだが、そういうわけでもないのだろうか。

 辺りを警戒しながら、ヘリポートへと向かうと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。

「なっ……あ……?」

 心臓が跳ね上がり、言葉が詰まる。

 雅生の目に飛び込んできたのは……血溜まりと二人の人物だった。

 鎌鼬らしき人物が、狼奈の首を掴み上げていたのである。

 狼奈の体中は切り傷だらけで無惨な姿となり、真っ赤な血が全身から足先への滴り落ちていた。まるで死んでいるかのように、抵抗の様子すら見せず、手足をぶらつかせている。

 そして、彼女を翻弄している鎌鼬も異常だった。

 首から上が、なかったのである。

 まるで、伝説の妖精であるデュラハンを連想させる姿だ。

「何してやがんだテメェッ!!」

 理解の及ばない化け物。

 湧き上がる恐怖心を懸命に押し殺し、鎌鼬に対する怒りをドーピングにして大声を張り上げる。

 すると、鎌鼬の首が動きこちらを見た、様な気がした。

「君は……あぁ、昨日の。最近ここの警備員に仲間入りした少年かい?見たところ、能力持ちではないようだけれど、何で君みたいな一般人がウォッグへ?」

「そんなことはどうでも良い!早く姫々島を離しやがれ!」

「ん?あぁ、そう言うことか、早とちりなことだ。別に死んでいるわけでもないのに。心配しなくても今離してあげるよ、ほら」

 放り投げる様に、簡単な動作で、鎌鼬は狼奈を投げた。だが、鎌鼬の手から離れた瞬間、突然狼奈の体が加速する。

 異様な速度で迫る狼奈を、雅生は体全体で受け止めた。だが、あまりの勢いに留まることを知らず、そのまま狼奈に巻き込まれて屋外換気扇に直撃する。

 腹と背中に走る痛みをグッと堪え、血だらけになっている狼奈を慌てて抱き寄せた。

「ごっ……!?く、そっ……おい、姫々島!大丈夫か!?待ってろ、今すぐに誰かを呼ぶから……!」

 すると、狼奈に腕を掴まれる。

「待、ちなさ、い……ケホッ!大丈夫よ、これくらいただの掠り傷でしか、ないわ……」

「大丈夫ってお前……そんな簡単なものじゃないし、掠り傷で済む問題でもないだろ!これ以上無理して動こうとするな!」

「だったら……誰がこの場を守るっていうわけ!?」

「……!?」

 胸倉を掴まれ、鬼気迫った顔で詰め寄られる。

 その迫力に、雅生は思わず口をつぐんでしまった。 

「防災センターの二人は非戦闘員みたいなもの。隊長が居ない限りは、私が身を張って戦うしか方法がないのよ!それとも、あんたが戦うって言うわけ?能力も持たないクセに、弱いだけのただの人間のクセに……!私達のことなんか理解も出来ないクセにッ!!」

「お前、何を……!」

 六角喜介と言い争いをした時とは明らかに違う、自虐と焦燥感が、痛いほど伝わってきた。

 何が彼女を駆り立てるのか。

 その発端となってしまったと思われる男が、嘲笑を含んだ口調で行動を起こす。

「いいねいいねぇ、ようやく君らしくなってきた。そう、これは化け物同士の対話だ。君がその気ならば、こちらもそれ相当の姿になるとしようか……?」

 鎌鼬が宙に浮かび上がり、服が弾け飛ぶ。

 服の下には人間の形をしたものは存在せず、代わりに半透明の球体らしき物が出現した。辛うじて、そこに何かが居る、と認識できる程度だ。

 次に、耳へ微かに響いてきたのは、ヒュンと風を切る音。

 その音と共に、半透明の球体、鎌鼬が雅生達に迫り来る。

「ヤバッ……!」

「……ッ!」

 瞬間的に、危険を察知。

 恐らくは狼奈も同じように感じた筈。だが、彼女は突然雅生を突き飛ばし、鎌鼬を真っ正面から受け止めたのだ。

「ぎ、ぎぎィィッ……!!」

「なっ!?おい、姫々島!!」

 鎌鼬に巻き込まれ、彼女の体に次々と傷が増え続ける。

 見るに堪えない光景の中、狼奈は雅生を睨み、大声でこう叫んだ。

「足手まとい!弱いあんたなんか大っ嫌いだ!だから早くどこかへ行けェェッ!!」

 訳が分からない。

 人のことを攻めたてたり、庇ったり、嫌いと言ったり……味方である筈なのに、何がしたいのかさっぱりだ。

「が、ァァ……ッ!!」

 そんなことをしている間にも、狼奈は体を切り刻まれながら宙に放り出され、地面に叩きつけられた。もう動くことすらも限界である筈なのに、立ち上がる度に鎌鼬を自身の体で受け止める。

 時に拳を、蹴りを繰り出すが、見た目通りの半透明球体に、物理は通用している様子はなかった。

「あいつ……まさか……」

 その時、ふと先程の防災センターでの会話を思い出した。

『カットエッジは、コモンドレートにとって大切な取引先ですから』

『あら、それが警備員という職業よぉ?』

『隊長が居ない限りは、私が……!』

 そう、カットエッジと契約をした以上、警備員は契約先の財産を守らなくてはならない。つまり、屋上に設置されている給水タンクや屋外換気扇も、ウォッグにとっては守る対象になっている。その為、破壊でもされた時には、契約違反となってしまう。だから、狼奈は文字通り身を張って、鎌鼬の襲撃からカットエッジを守っているのだ。

 守るために命を削らなくてはならないのか、という意味ではそれ限りでもない。設備を守りつつ、超能力者と戦う舞台を作り上げるには、世理の《不可侵領域》が必要になってくる。だが、彼女が居ない限りは、今いるメンバーでやれることをやるしかない。

 それが義務、職務なのだから。

 それが、オールオブガーディアンの信念。

 現代に於ける、本物の守護者という存在が、そこに居た。

 彼女の懸命過ぎる姿を見て、こう思わずにはいられなかった────『守る』って、こんなに難しいことだったのか、と。

「尚更、尻尾巻いて逃げるわけにはいくかよ!だけど、どうすれば…………ん?」

 ポケットに手を入れると、三個の小さな丸い物が入っていることに気付いた。

 拳も蹴りも通用しないところを見ると、世理から受け取った警棒も意味を成さない。なによりまずは、あの球体の動きを止めないと、対処するどころではないだろう。

 だが、この小さな丸い物が、突破口を開く鍵となるかも知れない。

 雅生は一途の願いを込めて、狼奈と鎌鼬の元へと走っていく。

「はぁっ……はぁ……く、そっ……」

 狼奈は全身を腕で抱えるような態勢で、給水タンクに寄り掛かると、肩で息をして鎌鼬を睨む。

 鎌鼬は球体の姿のままユラユラとゆれると、あくまで傍観者のような口振りで狼奈を見下ろしていた。

「気弱な人間が予想も付かない形で傷を負ったりすると、即座にショック死することもあると言うよ。それと比べたら、精神力だけは異常に強いといったところかい?まぁ……今この状況では関係ない話だけど、ねッ!」

 口もない、ただの半透明球体が言葉を発している時点で奇妙な話だが、今はそれどころではない。

 鎌鼬が狼奈に向かって飛来した瞬間を狙って、雅生は手元の赤く丸い玉を、三個全て投げ付けた。

 球体の中に玉が入った瞬間、バァン!と一発の破裂音。

 鼓膜を揺らす程の大きな音が、屋上全体に響き渡った。

「うぐぅッ!?」

 同時に鎌鼬の呻き声が聞こえたと思うと、球体が人の形に変貌し、地面に着地。

 上手くいったと、直感した。

「らァァァァァァッ!!」

「くっ……!?」

 雅生は走りながら伸縮性の警棒を取り出すと、一度強く振るい、寸法を伸ばす。

 人間の形となった鎌鼬に全力を込めて振るうが、やつは片腕でそれを受け止める。

 半透明であるので顔色を窺うことは出来ないが、か細い呻き声が聞こえた為、どうやら効き目はあったらしい。

「いくら人間じゃないと言っても、人間の形は捨てられないってことか?安心したぜ……その形の方が、お前にとっての原形みたいだな?」

「なん、だい……今のは?」

「かんしゃく玉だよ、スゲェ音だっただろ?二日前にクラスメイトの馬鹿のせいで、担任に叱られたんだけどな。その時、脱出する為の手段とかなんとか言って無理矢理渡されたやつだ。勉強は嫌いなくせに、こういうのを改造するのだけは得意なんだってよ、馬鹿みてーだろ?」

 鎌鼬の刃は球体の中で蠢いている。そこへかんしゃく玉を投げ入れたとしても、真っ二つにされて終わりだ。だが、肉眼では捉えきれない程速く、大量の刃が渦巻いている状態ならばどうか……不規則に動き回る刃と刃の間に、かんしゃく玉が入り込んで、上手く圧力が掛かる可能性が高くなる。

 即ち、三個の内、一個だけ爆破の条件を満たして破裂した。

 確率としてはとても高いものではないが、何とか望み通りの結果が出てくれたようだ。

「どうして、こんなものが通用、すると?」

「いくら人間の形をしていないとはいえども、元々はお前も人間なんだろう?物理的な影響を受けないとしても、その球体はお前の体そのものだ。つまり、球体の中で強い衝撃を起こせば、必然的にお前の体に影響が起こる。例えば、球体の中で爆発が起こったとすると、それは人間の体の内部で爆発が起こったと同等の効果が現れる。それが例え小さいものでも、音だけだったとしても、予測できない形ならば、相当不快感は増すんじゃねぇの?」

 想像したくはないが、身体の中で小規模の爆発が起こったとしたら……どんなに強靭な肉体を持つ人物でも、全く関係ない。内部から衝撃が広がり、強烈な痛みが伴うだろう。

 今、鎌鼬が味わったのはそれほどの衝撃だ。

「あぁ、なる、ほど……まるで内蔵が破裂してしまいそうな不快感だったよ……だが、もしその策略が上手くいかなかったら、どうするつもりだったのかな?」

「上手くいけば、お前の動きを止められるかも知れないと思った……後は、なるようになれだ」

「へぇ、面白い見解だ。冷静に事態を分析したかも思ったら、後先考えていない無鉄砲な行動だった、というのか?なるほど、意外としか言いようがないけれど……今は君を相手にする方が、よっぽど脅威になるかも知れないね。実に、気持ちが悪い目をしているよ」

「ほざいてろよ、気持ち悪いのはお互い様だ」

 鎌鼬は雅生の警棒を押し返すと、二人から距離を取った。

 それから睨みを効かせる雅生と、満身創痍の狼奈を一瞥してから、一歩、また一歩と、少しずつ後ろに下がっていく。

「さて、姫々島狼奈。今夜の二十二時。カットエッジが閉店した後に、もう一度ゲスト来店させてもらうよ。その時までに決めてくれるかい?」

「あ!おい!待てよ!」

 雅生が慌てて鎌鼬の後を追おうと駆け出す。

 しかし、彼は消えるように姿を消してしまった。

 その場に、嫌な言葉を残したまま……。

「────僕達に敵対するのか、僕達と組むのかを」

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