英雄に憧れた少女の終焉②
世界の終焉。
眼前に広がるのは、そんな言葉が相応しい荒れ果てた焼け野原だった。
何故?
いつ?
誰が?
どうやって?
何一つ分からないまま、全てが終焉を迎えた……その事実だけが頭の中を渦巻いていたのである。
「お母さん!お父さん!お姉ちゃん!皆……ど、こ……ねぇ……返事、して……ッ」
ふと思い出したように、家族の名前を叫ぶ。
しかし、返事は無い。
悲鳴にも似た声は荒廃した世界の中へ空しく溶けるだけで、彼女の無力さを際立たせるばかりだった。
「……探さなきゃ……」
次に少女が起こした行動は、自分が何とかしなくてはという、彼女が憧れるヒロインのように少々勇敢な決意だった。
行方が分からない家族を探しに行こうとしたのだ。
だが。
そこで諦めておけば良かった、と即座に後悔することになる。
結果的には、発見した。
目印となったのは、姉が着けていた金色のブレスレットだ。日の光が感じられない世界ででも、自ら光を放ち、自身の存在を主張しているかのように光り輝いていた……ただ。
「……あ……あ、ぁ……あぁぁ……イヤ……い、や……」
そこにあったのは、亡骸。
黒炭のように全身が黒く変色し、変わり果ててしまった三人の家族。
心が強いとも言い切れない少女が受け止めるには、あまりにも……唐突で、残酷で、非道な現実。
現実から逃れようとするかのように、少女はその場に崩れ落ちて、頭を激しく振りながら……。
「いやぁぁッ!!イヤッ、イヤだッ、いやアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
絶叫、絶叫、絶叫、絶叫。
悲痛に満ち溢れた悲鳴を挙げていた。
焼け野原はそんな悲劇すらも呑み込み、無へと帰してしまう。
声が枯れるまで声を挙げ、ようやく収まったと思ったら、立て続けに激しい吐き気が襲い掛かってきた。
「はぁ、はぁ……うっ……ぉ、え……ッ!もう、イヤ……なんで、なんでこんなことに……」
こんなものが現実である訳がない。
夢なら今すぐに覚めてくれ。
地面と頭を指先で掻き毟り、現実逃避をするものの、目の前の現実は鮮明に映り続ける。
次第に、認めざるを得なくなっていた。
終焉を迎えたことも、家族が全員死んだことも、そして……自分がこの現実の中に生きていることを。
「恐い……恐い、よ……誰か、助けて……」
もう、何が何だか、訳が分からない。
家族の亡骸の前で、膝を抱えて縮こまってしまった。
考えることすらも放棄し、ただジッと時間が過ぎるのを待つ。
そこには彼女が憧れるヒロインの姿はなく、ただ現実に打ちのめされる、か弱き一人の少女があるだけだった。
すると。
突然、背後から声を掛けられる。
「────大丈夫かい?」
振り返れば、彼女と同い年位の、金色のショートヘアを揺らす一人の少女が立っていた。
だが、不思議と驚くことはなかった。
精神が限界まで追い込まれていたからか、金髪少女が女神のような包容力のある人物に見えたからか……それは分からない。
だが、少なくともその金髪少女は、か弱い少女にとってこの世界で出会った唯一の同類だった。
「え……だ、れ……ぁ……」
すがるように、声を滲み出した。
直後。
金髪少女は何も戸惑いもなく、小刻みに震える身体を優しく抱擁してくれたのである。
「恐かったよね、無事で本当に良かった……」
「あ……ぅ、ぅ……」
涙が、止め処なく溢れ出てくる。
甘い香り、柔らかく暖かい身体……金髪少女が漂わせる安心感が、いつしか癒しに変わっていた。
全ての不安が、恐怖が、瞬く間に浄化されていき、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「そうだ、まずは自己紹介からだね。ボクの名前は城ヶ嶺……じゃなくて、ユーミリア。僕らは君を助けに来たんだ」
「ゆーみりあ……?たすけ、に……?」
ユーミリアと名乗る少女は優しげに微笑む。
そして、彼女を誘った。
日常という枠組みから、外の世界へと。
「うん、だからもう心配は要らない。一緒に行こう────朝霧未結さん」
それは、終焉から始まる再起だ。
ヒロインに憧れたごく普通の少女、朝霧未結。
彼女が滅ぼされた世界の謎を暴く為、次元を渡るチームを築き上げるまでの物語。
その名は────『伝説守人』。




