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ウォッグ!―X号兼務特殊警備員―  作者: 椋之 樹
第四章 『ウォッグ』対『ソウスイノゲン』
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The Last Guard《ケウク》②

「はぁ……はぁ……何とか、なった……」

 仰向けで倒れるケウクを前に、世理と隣同士に立って安堵の息をついた。

 一歩間違えれば消し炭にされるところだったが、制服が少々焦げるだけで済んだ。

「はい、これでようやく……」

「……ヒヒッ」

 しかし、不意に響き渡る不気味な笑い声。

 反射的に驚愕して、やつの方を見た。

 ケウクは大の字で倒れたまま、掠れた声を挙げている。

「フヒッ、フヒヒッ……!負けるわけにはいかねぇんだよなぁ……しかし、畜生……その気になった君が、これほどとは……」

「ケウク……!」

「まだ、やるつもりですか?言っておきますが、正攻法では私に勝つことは出来ません。もう、復讐は諦めて下さい……!」

 腕と足が折れているとはいえ、こちらを守りながら、ケウクの猛攻を圧倒的に抑えた世理だ。

 例え一対一で対峙したとしても、その力の差は歴然だろう。

「確かに、正攻法で勝つのは不可能に近いようだ。だけど、それ以外のやり方なら……君に負ける自信はない。現に、先程も君を殺す一歩手前にまで追い込んでやれたしさ?」

 ゆっくりと、身体を起こす。

 ケウクが顔をこちらに向けた瞬間、同時に自分の目を疑った。

「……ッ!?」

「お前……その顔は……!」

 仮面が剥がれて、露見された素顔。

 それは、悲惨という言葉が相応しい有様だった。

 顔の皮膚が全て剥がされ、眼球は両方ともくり抜かれて陥没している。口は接合されたように塞がれており、声を出すこと自体が辛そうに見えた。顔は火傷をした後のようにただれた部分も見受けられ、最早人間の顔の原型を保っていない。

 これが、人体実験によりもたらされた結果だというのだろうか。

「わたくしはねぇ、何が何でも復讐を辞めるわけにはいかないのだよ。わたくしが、悪として生きる……そう誓った時から、ねぇ」

「な、なにを……?」

 ケウクの塞がれた口角が薄らと上がったのを目撃。

 直後。

 何処かで爆発音が響き、建物が小さく揺れた。

 世理が右足を抑えながらこの場に膝を着いたのを見て、慌てて彼女に寄り添う。

「ぁッ……!?」

「爆発!?世理!大丈夫か!?」

「フヒッ、フヒヒッ……!」

「爆発……八回……今のは、まさかッ……!」

 世理は自身の手を見てから、真っ直ぐに前へと突き出す。

 しかし、何も起こらない。

 先程までは何らかの形で、《不可侵領域》の影響が現れた筈なのに……。

「やられた……!今のは、《不可侵領域インバイオ・リギオン》の指定球を爆破した音……!?」

 彼女の力は、事前に球体を設置することで効果範囲を定め、初めて扱うことが可能になる。

 恐らくそれらの球体を、建物の上下四隅、合計八カ所に設置していたのだろう。

 今の爆発は、それら八つの球体を破壊した爆発だったのだ。

「ここ数日間、わたくしは鎌鼬を囮にしてカットエッジの各所に、オリジナルの爆弾を仕掛けていた。今のは建物の最も外側だったから、損傷は少なかったようだね。だけど、次はこうはいかない。わたくしの合図で全ての爆弾が同時に作動したら最後、カットエッジは瓦礫の山へと変貌する。無論、内部に居る人物もタダでは済まないだろうがね?」

「鎌鼬の言っていた役割ってのは……そういう理由があったのかよ……!」

 鎌鼬が表立って暴れている中、仮面の人物が彷徨っているというのは、影で爆弾を仕掛ける為だった。

 始めからケウク一人だけでは、即座に監視の目が向けられるだろう。

 しかし、鎌鼬が囮となることで監視の目を引き寄せていたのだとしたら……相当、用意周到に爆破計画を練っている筈だ。

 今の爆発も然り、最早脅しでは済まない。

「第二ラウンドは君達に負けた。あぁ確かに負けた。しかし、残念ながらこれでジ・エンドだよ、フヒッ、フヒヒッ……!黙ってあの悪人をわたくしの手で殺させてくれれば、こんなことにはならなかったのに。実に、残念だよ」

「く、そ……ッ!ぶけんなよ……!」

 ケウクが親指と中指の腹を合わせ、ゆっくりと手を上に挙げる。

 二つの指に力が入り、ケウクの言う合図が発せられようとしたが……。

『残念なのは、果たしてどちらのことかしらねぇ?』

 イヤホンが外れて、スピーカーモードとなった世理の無線機が、声を発し始めた。

 それは、防災センターの四辻津々代の声だ。

「……なに?」

 ケウクの動きが止まる。

 彼女は軽く息切れした様子で、世理へと呼び掛けた。

『いやぁ、好奇心っていうのは侮れないものよぉ。ねぇ、世理ちゃん?覚えている?ここ最近、防災センターの落とし物が、可愛らしいぬいぐるみばかりだったじゃない?』

「え?あ、あぁ、確かに。前もぬいぐるみを貰うとか何とか言っていましたね……?でも、それがどうしたのですか?」

 事態が読み取れずに、世理と互いに目を合わせて首を傾げる。

 だが、そんな中……ケウクの顔色が変わった。

「ぬいぐるみ……?ま、まさかッ……!?」

『ご名答ぉ。ちょっと気になっちゃって中身をほじくり出してみたら、中から橙色の球体が詰まった小瓶が出て来たのねぇ。なるほどぉ、これってあなたの力を詰めたものだったわけかぁ』

 どうやら彼女の独断で、既に爆弾を発見していたようだ。

 落とし物を壊すことや勝手に弄ることは、警備員としてはあってはならないこと。

 しかし、今回はファインプレーであるとしかいいようがない。

「どんな悪運の強さだよ、あいつ……」

「四辻さん……まぁ、今回ばかりは大目に見ましょう……流石です」

 ならば、もう既にケウクの計画は破綻しているも同然なのだろう。

 元研究員の彼女のことだ。異能爆弾の制御方法は心得ている筈なので、なんらかの形でそれを無効化にしている筈だ。

 驚きを顔に浮かべていたが、対するケウクは一拍置いてから再び口を開く。

「……だが、わたくしの仕掛けたものは一つ二つではないよ?例え、万が一、誰かに拾われたとしても支障が出ないように、百近くの爆弾を隠させてもらったのだからね。君が偶々爆弾を発見したとしても、今の状況に何も変化はな……」

『────正確には百四個でしょぉ?』

「…………は?」

 続けて、衝撃。

 ケウクですら把握していなかった爆弾の数を、四辻は即答した。

『お生憎様。たった今、瑠羽ちゃんに手伝って貰って、カットエッジ内のぬいぐるみを全て回収。更に、全ての爆弾を無効化にさせてもらいましたぁ。外側のやつは気付かなかったけど、いやぁ、大変だったわよねぇ、瑠羽ちゃん?』

『肯定です、珍しく四辻津々代がやる気だったので、私も張り切ってしまいました。宮園世理、甘い物を所望します』

 つまり、現時点で爆発の心配は無くなった、ということだ。

 こちらがケウクと戦っている最中も、彼女達も彼女達なりに、裏で出来ることを済ませてくれていた。

 世理は安堵の溜め息を吐くと、無線に向かって要望を応える。

「お疲れ様です、二人とも。後でチョコレートケーキをご馳走させて頂きます」

「それで?作戦は、失敗に終わったみたいだけど、次はどうする?」

 確実に、追い詰めつつある。

 それは間違いない。

 だが、ケウクは落胆していない。

 むしろ、賞賛するように、笑い声を挙げながら手を叩き始めた。

「フヒッ、フヒヒッ……ヒヒヒヒッ、ヒヒハハハッ!フィヒヒヒヒッ!……あぁ~、ここまでやられると、流石のわたくしもキレそうだよ」

「ケウクさん……」

「予備には予備、更に予備を置いておくものだねぇ。薄暗くて見辛いかも知れないけれど、この部屋には沢山のぬいぐるみが敷き詰められているんだよ。まさかここまでは、気付くわけないよねぇ?」

「……!」

 薄暗い部屋に加えて、周りに気を配る暇すらなかった。

 その為、完全に見落としていた。

 改めて注意深く辺りを見渡すと、発見する。

 ケウクの言う爆弾、つまりはぬいぐるみが、数え切れない程の数で部屋全体が埋まっていたのだ。

「わたくしをとことんまで邪魔してくれたお礼だ。君達だけでも、この場で道連れにしてあげよう」

「そんなこと……ぁ……ッ!」

 世理が両手に八つの球体を作り出す。

 だが。

 こちらを取り囲むように橙色の球体が出現し、世理の動きを止めた。

「おっと、動かない方がいい。《不可侵領域》とやらが使えない今の君は、最早赤子も同然。わたくしが手を下してやっても良いのだが……君たちはどちらが好みかな?」

「ぐッ……!ここまで来て、また……くそ……!」

 再び形勢逆転。

 また、主導権を握られてしまった。

 思わず歯ぎしりをしてケウクを睨むと、イヤホンから瑠羽の声が響いてくる。

『芦那雅生、聞こえていますか?返事はせずに、私の言うことを聞いて下さい。四辻津々代が言うには、ケウクの繰り出す炎は原理的にも、水を被れば効果がなくなる性質があるそうです』

「……!水……」

『その部屋の設備の一つに、スプリンクラー手動スイッチが設置されています。それを押してスプリンクラーが作動すれば、ケウクの持つ攻撃手段を全て無効化することが出来るかも知れません。そんなことをすれば後ほど整備士から大目玉を喰らうことになるでしょうが……』

 スプリンクラー。

 目だけを動かし周りにある設備を見ると、確かに、『手動』と名前が刻まれた大きめのスイッチがあった。

 傍にスプリンクラーと名前も書かれている為、間違いないだろう。

『しかし、その為には現時点で警戒態勢にあるケウクを振り払う必要があります。何とかこちらで手段を考えますので、今はとにかく時間を……』

 その時、足に何かが当たった。

 それは、世理が落とした球体だ。

「いや、その必要はねぇ……」

 賭けだ。

 常人が覚醒者に挑むのは自殺行為でしかない。

 だが、上手くいけば……一気にトドメを刺すことが可能になる。

『はい?』

「お前らが作ってくれたチャンス……絶対に無駄にはしねぇッ!」

 雅生は素早い動作でその場でしゃがみ込んで足元の球体を拾い、後ろに飛び跳ねる。

「芦那さん!?」

「動いたらそこで終わりよぉッ!?」

 橙色の球体が炎の獣へと形を成し、こちらへと狙いを定めた。

 対する雅生は安全ベルトに装着された黒ケースへと手を突っ込み、中身を取り出す。

 それは、世理から受け取った警棒だ。

 警棒へと球体をなすり付け、《不可侵領域》で鉄棒を包み込むと……。

「それはこっちの台詞、だぁァァァァァァァァッ!」

 迫る炎の獣へ、全身全霊で振り下ろした。

 バヂィィッ!

 電撃が走るような激しく弾ける音が響き、獣が消滅すると同時に、後ろへ吹き飛ばされる。

「弾いたッ!?」

 そのまま真っ直ぐに設備へ直撃。

 丁度、思い通りの場所へと跳べた。

 目の前には、瑠羽が指定したスイッチがある。

「が、は……ッ!うご、けェェッ!」

 間髪入れず、スイッチに向かって拳を叩き付けた。

 すると、部屋の中心から広がるように、スプリンクラーが作動した。

「み、ずッ……!?ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 絶叫が部屋全体を覆う。

 水の雨に包まれたケウクは顔面を抑えて、断末魔の悲鳴を挙げるのだった。

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