食事
毎度閲覧ありがとうございます。作者の連夜です。
今回の話ですが、作者の体調不良により投稿がやや遅れましたことをお詫び申しあげます。
~in【『幻色国』『ペンゲア』】~
???「うっがぁああああっ!!」
橙城「!?こいつっ…!」
男は燃えながらも橙城に向かって刀を振るった。
"ガギッ"
鈍い金属の音が辺りに響く。
"ギギャガガ…"
橙城「この…っ!!」
"ガギンッ"
橙城は刀を強く外側へ弾いた。
橙城「疾きこと…風の如し!!」
橙城「【ガスト・ムーブメント】!」
"ビュッ"
突風が橙城の背中を押す。
橙城は一瞬で男の懐へ入った。
???「う?」
橙城「はああああああっ!!」
"ばばっ"
橙城が両手を前に突き出す。
"ボシュッ"
すると突然、一瞬にして男を燃やしていた炎が全て消えた。
???「お、お、お…?」
橙城「【風車】!!」
"ゴォゥッ!!"
橙城の手の平から風が生まれる。
そして目の前の男を後方へと吹き飛ばす。
橙城「はあああああっ!!」
橙城がそのまま手を右方向へと向けると、今まで橙城から男に向けて吹いていた風は、男の左側から右側に吹く風へと変わった。
橙城「落ちやがれ!」
男「わびょっ!!おおぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!!」
突風は男をクレーターまで運んだ。男はクレーターの坂の部分に落ちると、ころころと転がって行った。
橙城「ハァ…ハァ…」
橙城「つくづく…俺も…体力が…ないな…」
氷河「橙城!」
"タッタッタ…"
氷河「無事か?」
橙城「あぁ…切り傷一つねぇよ」
氷河「…すまん」
橙城「仕方がねぇさ、…油断しない奴なんていねぇ、ほらよ、返すぜ…」
氷河「あぁ…」
"シューッ…カッ"
氷河は橙城から刀を受け取ると、鞘に収めた。
氷河「何だったんだ…?今のは」
橙城「恐らく…『麻薬中毒者』」
氷河「『麻薬中毒者』…?」
橙城「あぁ…あいつの目、戦っているってのに俺に焦点が合っていなかった。喋りも変だったしな、…恐らくこの国が滅びる前、この国から定期的に麻薬を買っていたんだろうな…それが今回ペンゲアが潰れたことによって、麻薬がもう二度と手に入らないと思ったか、それとも今なら簡単に手に入ると思ったのか…それは定かではないが、まだあいつの頭が完全にとろける前、結局は麻薬を求めてここまで来たんだろうなぁ…」
氷河「…ここ、麻薬つくってたのか…」
橙城「見る奴が見たらわかるが、今俺らが踏み付けている植物。これは麻薬『ドラゴンソウル』だ。使用した際、物事を判断する脳の一部に強烈に働きかけ、幻覚、神経麻痺、幻聴等の症状が引き起こされる、とんでもない劇薬だ」
氷河「おいおい、麻薬って吸って使うんだろ?ここにいたらまずいんじゃないのか?」
橙城「この『ドラゴンソウル』は使用するまでにとんでもない手間がかかる。本来は医療現場などで麻酔に使われるような薬草だ。正しく使えば中毒性もないしな、まぁ、だがここに長居するのは確かにおすすめできねぇな、さっさと離れるか」
氷河「あぁ」
氷河が返事を返したその時であった。
「あの…」
氷河「ひっ!?」
氷河は後ろから聞こえてきたか細い声に俊敏に反応すると、刀を抜き、後ろの人物に向かって刃を向けた。
氷河「な、な、な、何者だ貴様っ!」
「あぁああ!待って下さい!怪しいものじゃないんです!ただの旅人なんですよう!」
氷河「ただの旅人が背後から声をかけるか!驚かせやがって!!危うくこのクレーターに落ちるところだったんだぞ!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!驚かせるつもりはなかったんです!ただ何回も声をかけているのに気付いてもらえなくって、つい…」
氷河「何を!私のせいにするのか貴様っ!」
「ひゃあああっ!!ごめんなさい!ごめんなさい!」
橙城「おいおい落ち着けって氷河、完全にやり過ぎだぞ?」
氷河「ぐっ!しかし…」
橙城「まぁまぁ、落ちなかったんだからいいじゃねぇか、それよりお前、旅人って…見たところまだガキじゃねぇか…しかも女…」
橙城は目の前の少女をしげしげと見詰めた。
橙城「(オレンジ色の髪に、赤い目。茶色に統一されたフードつきのくたびれた服、右頬に月と左頬に太陽の青い彫り物。所々にある痛々しい傷の跡、…そして何より気になるのはあの『刀』…間違いなく身長に不釣り合いな長さだ)」
少女は見られているのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながら俯き始めた。
橙城「お前、いくつだ?というか名前は?」
少女「えっと…名前は『朽梨林檎』と言います、年は、えっと…11です」
氷河「11!?」
朽梨「はい…11歳です」
橙城「11、というと…大体、小学4…いや5年生くらいか…お前、なんだってそんな年で旅なんか始めたんだよ?」
橙城は朽梨の前にしゃがみこみながら聞いた。
朽梨「…国の、そう国の掟で…」
氷河「随分と酷い国だな…」
朽梨「仕方がありません。代々の慣習ですので…」
朽梨は首を横に振った。
橙城「それで?…さっきお前は『何回も声をかけているのに』と言った。何か俺らに用事があったんだろう?一体何を言おうとしていたんだ?」
朽梨「そうでした!忘れてました!!」
朽梨は目の前で手を合わせた。
朽梨「まず、確認したいのですが…その格好を見る限り、お二方は旅をしているように見えます。間違いないですか?」
橙城「あぁ、そうだ」
朽梨は表情を明るくした。
朽梨「それはよかった!実は、お願いしたいことが…」
橙城「?」
朽梨「あの、よければですけど、私を一緒に連れていっては…」
氷河「却下だ」
氷河が即答した。
朽梨「な、な…?」
氷河「『何故』…か?」
朽梨はコクコクと頷いた。
氷河「まず最初に、お前の素性を我々が知らんからだ、さっきは橙城に止められたからあれ以上の追及はしなかったが、私がクレーターに落ちかけた一件!あれもまだ私は許してはいないんだからな…」
橙城「…やれやれ」
橙城は『仕方のない奴だ』と言わんばかりに首を横に振った。
氷河「第二に、安全面。橙城はともかく私はお前の身まで守ってやれるほどの実力を持ち合わせてはいない。我々の旅には明確な目的、目標は無い、故に敵がどんなものか、まずいるかいないかすらわからん。安易にお前を同行させる訳にはいかない」
朽梨「力…」
氷河「第三に、金銭面。衣・食・住に関して、今は手持ちがあるからいいが、これが尽きれば我々はその日その場で調達を行うこととなる。二人分でも厳しいのに、三人分ともなると…」
朽梨「お金…」
氷河「…と、まぁ、以上の点で私達はお前の同行に賛同する訳にはいかない」
橙城「『私達』って…俺まで勝手に加えるなよ…」
橙城はそう言うと、朽梨の方を向いた。
橙城「まぁ、金と信用という事は抜きにしても、俺も同行には反対だな…『足手まとい』…とまでは言わないにしても、下手に死なれたりでもしたら目覚めが悪い。それによって俺の、俺らの旅に支障が出たりしたならばそれこそ、迷惑だ。…冷たいようではあるが、な」
朽梨「そんな…それじゃあ、それじゃあ…解りました!それならば!実力を!実力を示せば!!いいんですねっ!?」
朽梨は橙城を見上げながら、叫ぶように問い掛けた。
橙城「…随分と自身有り気だな…」
朽梨「はい!」
橙城「そこまでいうなら見せてもらおうかな?実力…」
氷河「おい!橙城!私は納得していないぞ!」
橙城「まぁまぁ、氷河、…んで?具体的には、どうしようか?『実力を見せる』と一口に言っても…俺らが直接戦うなんてことはできねぇし…なぁ」
橙城はこの時朽梨を嘗めていた。
所詮目の前に立っているのは11の少女なのである。
『実力を見せる』…所詮は子供のざれごと。
小学生ぐらいの男子がよくやっているやんちゃ、それに類する類いのものなのだ。
少し『現実』を見せてやればおとなしく引っ込むであろう、とたかを括っていたのである。
しかし橙城は二つほど忘れていることがあった。
一つ目は、目の前にいるのは男子ではない、そのため例に漏れるのは必然である、ということ。
そしてもう一つは朽梨が今いる場所についてである。
先程橙城が襲われた男。あのような男が、果たして一人だけであったと断言出来るであろうか?答えは否である。
即ち、この場はとても危険であると言える。
そんな危険な場所に朽梨は今までいたのである。
…果たして『運が良かった』程度で済むようなことであろうか。
橙城は以上の事を見落としていた。
橙城「調度よく敵でも現れてくれれば…ん?」
橙城は自分の足元を見た。
橙城「何だ…影が、伸びて…」
橙城「(違うっ!俺の後ろに誰かいるんだっ!!)」
氷河「橙城!後ろだっ!!」
橙城「くっ!」
"ズゴガッ!"
橙城が自分の後ろに気配を感じ、身を避けた次の瞬間、橙城のさっきまでいた場所に刀が突き刺さっていた。
見るとそこには先程の男が立っていた。
???「ひゃへへヘ…」
橙城「またお前か…!」
橙城は身構えた。
橙城「朽梨!氷河!お前達は下がっていろ!」
橙城「(こいつ…なんてタフな野郎だ…!)」
橙城「次は手加減しねぇ!一発で仕留めてやる!!」
"だっ!"
"ぐぐっ"
橙城が駆け出したその瞬間。強く後ろにひかれるのを感じた。
橙城「なっ!?」
見ると、橙城の服の一端が男の振り下ろした刀によって地面に刺さっているのが見えた。
橙城「くそっ!」
???「ひゃへへはははは…」
"ブオンッ!"
男は大きく振りかぶると、橙城に向かって殴り掛かった。
橙城「(この威力は…!やばいっ…!!)」
橙城は腕を顔の前に交差させ、なるべく衝撃を防ごうとした。
"こんっ!"
橙城「!?」
しかし、男の拳は橙城の直前で、
朽梨「よっ…と」
朽梨の刀によって止められた。
朽梨「【雑食】」
"ずずず…"
橙城「何!?」
橙城「(刀が…伸びた…!!?)」
朽梨「これはちょうどいい…」
朽梨「【絶食】」
"バクンッ!!"
刹那。
男は橙城の目の前で『肉塊』と化した。