死合い
この話は電子辞書上で一回まとめてそこから出しているものなので
一話一話の長さが違います。そこで電子辞書上の何話かをまとめて一話分としています。・・・今回の文章にいくつかおかしな文章の流れがあるのはそのせいです(笑)
試合は拮抗していた。と言うのも、月歌があまりやる気をださないのにたいし、二人組が攻めあぐむという予想外の弱さを見せたからだ。
月歌「ハッ!」
"ガッ"
?A「うぐっ」
?B「………強い!」
月歌「…」
"シュバッ"
構えを戻す月歌。『常に本気』がモットーの彼にしては珍しい構えをとっている。つまり、彼は今手加減をしている。
月歌「おいおいおまえら、あれだけ大口叩いておいてもうおわりか?これじゃあ『奴隷』はおろか『仲間』『友人』なんて夢のまた夢だぜ?」
月歌はこう言うが、この二人組実はそこそこに強い。
が、やはり先程、勝利宣言と取られてもおかしくない一言をかました分、月歌は勿論のこと、観客席もこの進展しない試合に段々と空気が冷え始めている。
観客S「なーんかパッとしないんだよなぁ…」
観客H「確かに、これじゃあなぁ…」
"ザワ…""ザワ…""ザワ…"
観客席が段々ざわめきはじめる。
やがてそのざわめきは大きな怒りへと変わり、
試合の場へと降り注ぐ。
観客A「おいおい、もう終わりかぁ!」
観客Z「とんだ興ざめだなぁ!おい!」
観客N「もっと踏ん張れよ!」
観客W「戦えねぇなら消えろ!」
観客G「そ、そうだ!そうだ!消えろ!消えろ!」
"消えろ!""消えろ!""消えろ!"
一種のBGMのように流れてくる観客達の『声』
溢れ出した怒りは、『声』だけに留まらず、
やがて『物』も飛び交い始める。
散らかりはじめた高級品。
割れる音。
物の悲鳴。
投げ入れられるものをうっとおしそうに弾く月歌。
?B「観客も我慢の限界のみたい…」
?A「………『クレア』」
?B「…えぇ。仕方がない。使うしかない…」
?A「…分かった」
今まで攻めあぐねてはいたものの、
構えをとかなかった二人組。
ところが、ここで構えをとく。
月歌「!?」
言うまでもなく驚く月歌。そして観客。
一見"自暴自棄""試合放棄"にしか見えないその理解不能な行動に怒りは冷め、今度はどよめきだす観客席。
異様な空気が二人組を中心にこの場全体を包み込む。
異常。
素人にすら分かる異様さ。
実際にこの場で一番混乱していたのは月歌だった。
『自分は手加減をしてやっている』『こいつらだってそれに気付いているはずだ』
月歌「(ならばなぜ…?)」
だが、月歌の気の迷いはそこまでだった。
仮にも『地下闘技場の王者』。
『パッと出の三下』に怖じけづいてるようじゃ話にもならないのだ。
余程のことがない限り、ネズミに噛み付かれた獅子がそのネズミを許すことはない。
月歌「何のマネはしらんが…!」
"タンッ"
軽い音をたて、地を蹴り、二人組へ突っ込む月歌。
月歌「死んでも後悔すんなよ…!」
その勢いを利用し、腰をおもいっきり捻りながらの右ストレート。
月歌「うおらぁ!!」
間違いなく本気。『素人』が受けようものなら即死は必須である。
"ガキャァァァアアアン!"
巻き上がる砂ぼこり。
『終わった』。この金属がぶつかり合う音に近い音をきいた観客、審判、ナレーター、その誰しもが本能でそう思った。
だがしかしそう思わなかった者もいた。
月歌本人である。
今、砂ぼこりで見えない向こう側にある己が拳。
その拳が主張する。
『この硬さ』、『この角度』、『この音』、『この感触』、
『この違和感』。
どれをとっても分かる。
この砂ぼこりの先でまだ終わっていない。
奴等はまだ生きている、と月歌はそう思った。
本来手に来るべき感覚がまるで違っていたのだ。
砂ぼこりが止む。
月歌「!?」
月歌は、はっきりとその目にとらえた。
半透明の実体を持つ人型の霊体。その霊体の拳が月歌の放った拳を同じく拳で受け止めているのを。
月歌「こいつは…!」
?A「【静止星】!!」
この世界において『強者』と呼ばれる者は三種類存在している。
誰しもが思い付き、簡単に実施することが出来る、筋トレ、鍛練などを行うことで弱者よりも比較的に強い力を得ることが出来る所謂『体術系強者』
比較的多いのが体術系強者であり、ほかの二種類の『強者』は存在すら知られていないことが多い。
故に王族や、貴族たちの護衛につくことが多い
その二つこそ『魔法系強者』と『能力系強者』である。
特種な技能を使うことが特徴だが、
各々が司る『文字』に対応した様々な魔術を使用するのが『魔法系強者』であり、『魔法使い』と呼ばれている。
それに対し、その文字の縛りがないのが『能力系強者』であり、『能力使い』と呼ばれている者達だ。
月歌「(こいつ…『能力使い』か…!)」
?A「ハアッ!」
"ガッ!"
月歌「ぬぅ…」
能力がはなつ一撃を腕をクロスさせることで防ぐ月歌。
"ざわ"
何が起こったか分からず、混乱する観客達。先程の文句が全て消え去る。
『能力』や『魔法』そのものは弱者や『体術系強者』には黙視することが出来ない。
故にこの場において観客の目に映るのは、
先程まで優勢『だった』月歌が『一方的』に、どうやってかは『分からない』が、攻められている。と言うことだけだった。
月歌「クソッ」
月歌「(強い…!だが、『あれ』を使うほどではない。まだ俺は『遊んで』いられる。そう、まだ…!)」
?A「【DO】!」
"ボゴォ"
月歌「ぬっ!」
何が起こっているか分かっていない観客だが、そのうち熱くなり始める。彼等が好きなのは月歌ではなく、
あくまでも、『熱い戦い』なのだ。
その人気には王者ですら勝てないのである。
だが、『王者』の名は伊達ではない。
月歌「調子に…」
能力使いの前に大きく振りかぶりながら飛び出た月歌。
そしてそのまま突き出す。
月歌「のるなぁ!!」
"バキィ!"
【静止星】の手をクロスさせて凌ぐ能力使い。
が、それでも勢いを殺しきれず、壁まで吹き飛ばされる。
?A「ぐっ、くそ…!」
月歌「ふん、」
上がる歓声。下卑た笑い。それが月歌に火をつけた。
要するに、良い意味で調子に乗ったのだ。
?B「『シホ』、変わる…?」
?A「いや、いい…」
【静止星】を展開する。
?A「次で決める…」
月歌のほうへと走り出す能力使い。
だが次の一撃できめるつもりなのは月歌も一緒であった。
月歌「(来い…!久しぶりに『こいつ』を使ってやる!)」
?A「【DO】!」
振りかぶった拳を月歌に向かって放つ能力使い。
が、月歌はその拳をしゃがんで回避すると、そのまま胴を斜め上に向かって凄まじい力で押し上げる。
?A「ぐっ、はぁ?」
あまりの出来事に何が起こったのか理解しかねる能力使い。
一回転する形で見せられた上の景色の中に
確かに立ち上がった月歌の姿をみた。
ナレーター「おおっとぉ!この構えはぁ!!」
心躍るこの技、とても強いこの技、見栄えのするこの技。
月歌の体術における、『最強の技』!
月歌「(食らえ…!)」
能力使いの腹に手の平を叩き付け、地面に打ち落とす。
月歌「【龍牙転獣下】!」
?A「!」
"ボガアァン!"
能力使いは腹から落ち、その反動として頭を強くうつ。
凹む地面。
?A「ぐはっ!ゲッホゲッホ!」
被っているフードが茶色から少し赤く滲み、荒い息を吐く能力使い。
もう戦えないことは誰の目から見ても明らかだった。
月歌はとどめを刺すために能力使いにゆっくりと近付く。
ここではそれが『礼儀』だからだ。
だが、
ナレーター「おおっとぉ!立ち上がったぁ!信じられない!
まだ戦える、いや、戦おうというのぁ!?」
立ち上がる。まだ立つ。
まるで幼稚園児が積み上げた積木のように危なげで繊細。
不安定に揺れてはいるものの、確かに立った。
闘志まだ死なず。
だが、そんなちっぽけな闘志に怯む者はいない。
月歌はゆっくりとそのちっぽけな闘志に留めを刺しに行った。
立っているだけでやっとの能力使い。
ほぼ傷ついておらず、しっかりとした足取りの月歌。
この二人の勝負
誰が見ても勝敗は明らかであった。
しかし…
月歌「これでとどめだ…!」
振りかぶった拳を放つ…!
?A「【静止星】!!」
月歌「遅い!」
確かに月歌のいうとおり、
【静止星】による『防御』は『間に合わない』
しかし、もしそれが『防御』ではなく、『攻撃』ならばどうであろうか。
この距離感なら成功する…!
"プシュッ"
月歌「!?」
胸に走る鋭い痛み。それが一瞬月歌の攻撃を鈍らせる。
月歌「ラアッ!」
"シュッ"
能力使いの顔に掠る大振りの一撃。
だが、瀕死とは言え、致命傷には至らない。
命を奪えない…
"カチャッ"
?A「【カウンター】!!」
"ピッ"
グラリ。
月歌「!?」
月歌には何が起こったのかが分からなかった。
歪む視界。ふらつく足元。
しまいにはこけだす。
月歌「くっ!」
月歌は明らかに混乱していた。
何が起こったのかが分からない。
今までの長い長い人類の歴史はまさに分からないことの探求であった。
人類はそれらの分からなかったことを理解していく事で激しい食物連鎖の中この地位に登り詰めたのだ。
故に人は現状が分からないだけで激しく動揺するものである。
?B「そろそろ終わらせなきゃ…」
もう一人の挑戦者が動き出す。