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どこに・・・

人は本来色々なものに騙されやすい生き物である。

目の錯覚にだまされ、同じ人類、即ち他人に騙され、果てには自分の思い込みにすら騙される。

月歌の踏み下ろした足が立てた音に地面が揺れるような感覚を覚えたシホとクレア。

が、無論ここは地下、月歌の右足の下にはこの星の反対側まで続く地面がある。いかに月歌が強いとはいえ、たかが一人の足踏みで地面は揺れたりしない。

故にこの二人が感じたのは音による錯覚であった。

が、裏を返せばそれだけの派手な音を発する一撃。メギラ国王の鉛で出来た首など耐えられるはずもなく。

むざんな鉄の塊が宙を舞い、地に落ちた。

"スタン"

月歌「これで俺の任務は完了だな」

元メギラ国王の首だったものを持ち上げ月歌が言う。

シホ「うへー、機械とはいえよくそんなもの持てるなぁ月歌」

月歌「ふふん、何人の死体見てきたと思ってんだ。年期が違うんだよ!年期が!」

シホ「いや、そこ威張るところじゃないし…」

クレア「やったー!勝ったー!!」

シホ「だから空気読めっつの」

月歌「まぁ、確かにまだ任務は勤めきってないしな」

そのとき、月歌の作った針山が音を立て崩れた。

"ガラガラガラガラガラガラガガガガガガガダァガァン"

"ドスーン!!"

クローバー「うっ」

シホ「こいつ上から落ちてきたぞ」

月歌「あぁ」

クローバーは僅かにうめき声をあげている。

クレア「まだ生きてるわ…」

シホ「しぶとい奴だ」

月歌「…どけ、俺がとどめをさしてやる」

月歌「【メイド:斧】」

月歌はクローバーの上に斧をかまえる。

月歌「チェック」

"グラッ"

月歌「!」

城が揺れ、月歌は体制を崩す。

「【まだ決着には早いんじゃないか?『月歌』よ】」

クレア・シホ「!」

月歌「この声は…!」

シホ「メギラ国王っ…!」

月歌「何処だ…?何処から声がする?」

メギラ国王?「【フフフ、月歌よ、ワシが何処におるのか迷っておるな?】」

"カチャッ"

月歌「そこっ!!」

月歌「【メイド:『ナイフ』】」

果物ナイフのような大きさのナイフを創り、気配のしたほうに鋭い勢いで投げ付ける月歌。しかし

月歌「何っ…!!ホースだと…っ」

月歌が刺したのは蛇くらいの太さで灰色のホースだった。

月歌「(馬鹿な、今さっき感じたのは確実に『奴』の気配だったはずだ。何故…)」

クレア「月歌、危ない!」

月歌「うおっ」

"シュカッ"

"ガッ"

月歌「は、歯車…?」

月歌「(何処だ。全く気配を感じなかったぞ…っ!)」

メギラ国王?「【不思議だなぁ、『月歌』『地下闘技場』の『チャンピオン』であったはずのお前がぁ、運動不足であるはずの王たる私に圧倒されてるとはなぁ…】」

月歌「煽るねぇ…」

シホ「何処だ…奴は何処から攻撃している?」

クレア「声は…」

クレア「【ボイス・ドラグネット(声の捜査網)】」

声は空気中を伝わる。言い換えると空気を媒質とした波の伝わりの現象のことである。

普段私達人類は海水を媒体としている水の波しか見ておらず、かつ一方向に向かうものしか見ていないため分かりづらくはあることだが、波と波がぶつかった時、または波と別の物が衝突した時に波の形は大きく変化し、かつその二つの変化は大きく異なるものとなる。

この現象を『声』や『音』を扱うものとしてクレアは当然知っている。『ボイス・ドラグネット』はその現象を逆利用した技で、自分の発した音の変化により他者が発する音の出所やあらゆる物体の場所・形・そこまでの距離・角度・体勢までを正確に読み取ることができる。

ただし、この技には二つ弱点がある。

一つ目の弱点は他の技と比較すると体力を著しく消耗することである。

おおよそ普通の人では声を一分間ですら声をずっと出しつづけることは不可能である、それを一つの『技』として昇華する。故にいつまでもは体力が持たないのである。

二つ目の弱点はこの技は基本的に壁などに反射させて使う技なので密室でなければ使えないことである。

が、今回はどちらも支障がない。クレアは迷いなく使った。

クレア「あそこだ!」

クレアが指刺したのは部屋の四隅に取り付けられた古ぼけたスピーカーであった。

月歌「馬鹿な…あのスピーカーは部屋の外へ伸びている、こいつが放送できる訳がねぇ…」

月歌がメギラ国王の首を持ち上げながら言う。

その間も続く攻撃。

三人はかろうじて避けているが、戦闘とはつまるところ相手の潰しあいである。相手の姿が確認できなくては月歌達三人に勝ち目はない。

三人はメギラ国王の姿を探す。

月歌「(メギラ国王の顔と胴体はここにある。『何か』あるな)」

メギラ国王?「【ほらほら!どうした?月歌ァ!!】」

月歌「くそっ!」

"ピッ"

物が物にぶつかるとき僅かながらでも音はする。

月歌は自分の頬から微かに切断された音を聞いた。

月歌「(ご丁寧にさっきの傷と同じ所に傷をつけやがって…)」

人に限らずこの世に生きている生き物は全てその場その場の自然環境に合わせて進化して来た物達である。

魚は両生類へ、両生類は爬虫類へ、爬虫類は鳥類、あるいは哺乳類へと進化して来た。

今を生きている我々もその血を継いでいる。

さすがに生き物の分類までは変わることがないが、その変化体系というか変化能力というかそういうものを受け継いでいる。

人は生まれ育ち、過ごしてきた環境によって身体変化に大きく影響がおよぶ。

こんな話を聞いたことがないだろうか?

世界を取るような水泳選手の指と指の間には小さな水掻きのようなものがついている、と。

今まで勤めてきた職種によってその顔立ちがかわってくる、と。

これらは小さくはあるが進化に違いないのである。

この進化の理論は月歌についても適用される。

月歌は長き年月に渡り、人を傷付け、付けられ、殺し、殺されかけてきた。

その生活のなかでこしらえた傷は数知れずである。

そんな環境に育った月歌の体が判断した最適な進化は『治癒』

であった。

月歌は傷の治りが常人の何十倍も早い。

少しの切り傷程度なら十数分で治る。

故に、先程の護衛の銃撃による頬の傷はすっかり完治していた。

しかしメギラ国王は寸分狂わず同じ所に傷を付けてきた。

月歌「(偶然とは思えない…)」

人の体は表面積が決して狭くはない。

急所など軽く見ただけでも、両手、両足の指では数え切れないほど存在する。

ましてや急所に当たらなければ、攻撃の当たる場所などそれこそ数え切れない。

月歌「それにも関わらず、同じ深さ、同じ強さ、同じ角度。…狙ったとしか思えないな…」

シホ「【DO!】」

"バキィ!"

月歌「!シホ…」

シホ「月歌!メギラ国王は見つかったか!?」

月歌「いや、多分…ここにはもういないぜ」

シホ「何?何故そう言い切れる?」

月歌「お前は俺やクレアに比べ、少しばかり『音』に疎い節がある。だから気付いていないのかもしれないが、クレアはさっきから敵と戦いながら『声』で隠し扉や隠し部屋がないかを探っている。」

シホ「馬鹿な!あの状態でか!?」

月歌「…あんなに体力の使う技、普通なら隠してるものを見つけたんならすぐにでもやめるだろう。しかし…」

シホ「まだ続いてるのか…ならまだ見つかっていないというのか…!」

月歌「クレアの体力を考えるとそろそろまずいな…早急にやめさせなければ…」

月歌がそう言った刹那

"ふらり"

クレアの体が足取りおぼつかずふらつく。

"ヒュン"

その隙を狙い風をきるように鉄の残骸が近づく。

クレア「!」

シホ「やばい!」

シホ「【スティール・スター】!!」

スティール・スターの腕では届く距離ではない。クレアは息を飲んだ。


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