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護衛

少々ネタばれになりますが、

この小説のジャンルが『ファンタジー』で、勇者が登場している以上、

いつか『魔界』と『魔王』もだそう、と考えています。

いつになるかはわかりませんが(汗)

"ガチャッ"

王宮に数ヶ所ある高級感溢れる洗面所。

下品な表現をするのであれば、やたら無駄に飾り付けされたトイレがある訳なのだが、そこでは唯一王族と召し使いや旅人達が同じ目線で過ごすことが出来るある意味癒しの場である。

が、今はそんなことは関係ない。

クレアはメギラ国王の寝室に一番近いトイレの奥にある窓を開けると個室のトイレの水を流し、何事も無かったかのように用意された部屋に戻ろうと窓からの月明かりしか光源がない薄暗い廊下を歩いていた。

クレア「(つけられている…)」

クレアは背後に気配を感じた。とても感じて快感というような物ではなく、ベタつく、生暖かい気配。とてもじゃないが不快にならざるを得ない。

クレア「どちら様かな?」

クレアは後ろを振り返らない。薄暗いろうかの柱の陰、そこから発される鈍く醜い殺気。不快。

護衛「おや、気づかれていましたか、さすがは陽国の…」

クレア「心のこもってないお世辞は欝陶しいだけですよ?」

護衛「おやおや、これは手厳しい。」

クレアは振り返り、始めて護衛の顔を見た。

顔に三つの黒子、唇の右下に大きなニキビがありニヤニヤと笑っている醜悪な顔立ちをした男であった。

クレア「それで?何の御用でしょうか?」

護衛「なに、今夜は満月なのでともに月見酒でもいかがかな?と思いまして。」

クレア「ほう…月見酒ですか…」

護衛「えぇ、どうせもうすぐこの国をでられるのでしょう?その前に一杯、どうです?」

クレア「生憎、私は酒が飲めないので…」

護衛「ま、ま、ま、そう言わず。側にいてくれるだけでいいので…」

しつこく食い下がる護衛。汚さとしつこさは形容するならさながら油汚れのようである。

クレア「…能力的に飲めないのではなく『国王様の御命令』で『酒の席に同席すること』を禁止されているのです。どうぞご勘弁下さい」

護衛ははっとした顔をすると、悔しそうな顔をしながらボソッとつぶやくように返事を返した。

護衛「…そうですか…分かりました」

クレア「分かっていただけましたか、では。しつれいします」

クレアはその場できびすをかえすと、歩きかけた。

が、首筋に感じた冷たさに驚き、振り返りながらとびのいた。

クレア「………何をするんですか!」

振り返るとそこには90㎝程の刃渡りの刀をかまえた護衛が息を荒くして立っていた。

クレア「…分かってくれたのではなかったのですか?」

護衛「えぇ、よく分かりましたとも」

首筋に感じた冷たさは刀の刃だったらしい。

不自然な冷たさをかんじた首筋が温かみを覚え、赤く滲みはじめる。

"ポタ…""ポタ…"

服に滴り、水音を静かにたてる血。

窓から入った月明かりに鈍く光る。

護衛「『あなたに酒を飲ませ油断した所を殺す』という作戦が『失敗した』ということがよーく分かりました」

"パチン"

"チャカッ""チャカッ""チャカッ"

クレア「(銃を構える音が三つ。この暗さで細かくは見えないけど、どうも囲まれたらしいわね)」

"チャキッ"

護衛は刀を鞘に納め、銃を懐から出し、その銃口をクレアに向けると、安全装置を外した。

クレア「…随分と雑な作戦ね」

護衛「えぇ。国王様が考えなさったんです。本当に頭の悪い…

もう少し賢い王だったならと普段から考えてるのですがね…」

クレア「あらあら、自国の王にそんな酷いこと言ってもいいのかしら?」

護衛「もうあの無能は寝たんでね。後は貴方をかたずけるだけで私の今日の仕事は終わり。ゆっくり眠れるんですよ」

クレア「…一つ聞いてもいいかしら?」

護衛「…冥土の土産というやつですか。いいでしょう。何が聞きたいのでしょうか?」

クレア「肝心の動機は?なぜ私を殺すのでしょう?…まぁ大体の予想はつきますが」

護衛「王の御命令です。貴方達はもう真実について知っているようなのでね」

クレア「はて?何のことでしょう?」

護衛「惚けるのはよくありませんなぁ…!私は貴方達が月歌を買ったのを知っています。ごまかすのはよしてください」

クレア「…どうしてばれたんでしょうねぇ…?」

護衛「あんなに沢山いた地下闘技場の中に、一人ぐらいある国の王の護衛がいてもおかしくないのではないでしょうか?」

クレア「…あぁ、成るほど、気付きませんでしたよ」

護衛「顔を隠していたんでね」

クレア「どおりで…」

護衛「あの時は驚きました。まさか月歌を買う者がいるとはね…しかも決勝戦で、」

クレア「…」

護衛「あれは正直、我々としては痛手でした。月歌はあの地下闘技場の目玉でしたからな」

クレア「そうですか…」

護衛「ですがもういいです…おそらくもう月歌は帰っては来ないでしょう。せっかくの殺しやの誘いも蹴ったんだ。…利益を生まない兵器は消すに限ります」

クレア「敵国にやるには大きすぎる存在だと…?」

護衛「えぇ。その通りです。そして先程も言いましたが貴方にも当然だが消えてもらう」

クレア「成程。」

護衛「これで疑問は解決しましたかな?」

クレア「あぁ、もう結構だ。」

護衛「…ククク、観念したようですね。…ではお前達!狙え!」

"シュカッ"

護衛「撃てーーーーーーーーッ!!!」

クレアはぎゅっと目をつぶった。

護衛「???」

自分は確実に『撃て』との命令を出したはずだ。

護衛「(なのに何故…)」

クレア「…」

護衛「何故だ!?」

護衛は困惑していた。本当ならもうとっくに地に伏しているはずのクレア。

そのクレアは地に両足をつけ、しっかり立っていた。

護衛は早めに休むことを考えていた。

今までこうやって口封じをしてきた者は多くいた。今回も変わらない。明日も早い。早く寝てしっかりと休もう。と。

しかし今回はなにかが違っていた。

生きている。立っている。

発射されない弾。

護衛「(早く休めないじゃないか)」

今まで王に命令されること以外はストレスを感じることもなしに、自由気ままに好き勝手に護衛は生きてきた。

王は生まれながらにして自分の上司。

それならしかたない。我慢しよう。

王の命令はこの男にとっての我慢スイッチの入り所であった。

王の命令によるストレスは我慢する。

だが、何故、このわたしが、こんな名もなき者共に

護衛「邪魔されなくてはならんのだぁーーーーーっ!!!」

焦燥。理由のわからぬ焦燥。

沸点の低い、偏屈な、醜い、『この男』にとって、『もうクレアが死んでいること』は『決定事項』であった。

この男は自分が間違っていることが嫌いであった。

自分が三と言ったのであればたとえ世間一般で間違いであろうと答えは三なのだ。

故にこの、目の前にいるクレアが生きているというのは

護衛「間違っているのだぁーーーーーーっ!!」

"チャキッ"

"ピトッ"

護衛「な…!?」

月歌「おいおい、静かにしろよ、王様が起きちまうぜ?」

護衛が銃をクレアに向けるよりも先に、喉仏に短刀を突き付けられる。

護衛「貴様は…月歌っ!」

月歌「ククククク、久しぶりだなぁ、護衛、俺はずーーーーーーっとお前に会いたかったんだぜぇ?始めてあったときにはよくもこの俺を力いっぱいけりつけてくれたなぁ」

護衛「く、この…」

よくよく見ると足元にいくつかの人影が転がっていた。

恐らく月歌に気絶させられたか、或いは…

護衛「殺されたか…」

月歌「ククククク、俺に歯向かったのが運の尽きだな」

護衛「貴様…っ!うっ!」

ぐい、と月歌が首を締め上げる。

護衛「がっ…あっ」

月歌「言葉に気をつけろよ、殺すぞ?」

クレア「月歌、殺すのはちょっと待って。」

月歌「あ?」

クレア「この人には王のいる場所を喋ってもらわないと」

月歌「それについては心配ない。さっきここにくるまでに王室への入口は見つけといた。何にも気付いていない肥えた豚が呑気に鼾をたてているはずだぜ。」

そしてクククククと笑う月歌。

すぐに真顔に戻り話を続ける。

月歌「だが、そんなことよりもいまここでこいつにがたがた騒がれて仲間を呼ばれるほうが面倒だ。」

月歌は護衛の耳に口を近づけ呟くように話す。

月歌「ま、そのほうが俺にとっては楽しいがな…なぁ、おい」

護衛「ぬ、ヌヌヌ、貴様…俺にこんなことをしてただですむと思っているのか…!」

月歌「済むさ。なんせあと数10分で俺らはこの国を滅ぼすのだからな」

護衛「何!?そんな馬鹿なことがあるか!」

月歌「さぁてね、馬鹿なことと思うんならそう思っておけばいい。…ただし、それに後悔するまえにお前は俺の手で殺されるだろうがなぁ」

何かが闇の中を素早く動いた。

護衛の首筋に紅い線が走る。

護衛「ひっ!」

再びナイフを首筋にあてる月歌。

耳元で囁く声。

月歌「俺は言ったことは実行する」

痛い。痛い。痛い。

何が痛い?

護衛「(恐怖に締め付けられる俺の身が痛い…!)」

護衛は涙を流しはじめた。

今まで殆どのことを自分勝手にしてきた男。

恐怖など初めて感じる感情だった。

人間は限界に近づくほど苛立ちはじめるものであるが、

得にこの男に関しては著しく現れた。

護衛「何故私がこんなめに合わねばならんのだ!!あの暴君の無茶苦茶な命令に振り回され!!家族も!!友人も!!なにもかも失った!!そのわたしが…何で…こんな所で…!!」

月歌「…『何故私がこんな所で』…?」

身を屈めてクツクツと笑う月歌。

首に回していた手を少しずらし、腹に当てると、握り拳に構える。そして、『回す』

月歌「【龍牙転獣下】(りゅうがてんじゅうのおとし)】」

"ズダァァァアアアン!"

護衛「がっ、あっ!」

月歌「さすがは王宮。軽気とは言え傷も付かぬとは…」

護衛をにこやかに見下ろす月歌。

月歌「『何故私がこんな所で…?』…甘ったれんなよ。そんなことどんな境遇の奴だって感じてる。…俺だって思ってるさ。

『何もかも失った』…?自ら望んで、進んで、喜んでやったことだろう…?一番不幸なのはあんたの家族や友人のほうだよ。

あんたは全然可哀相じゃない」

護衛は目を固くつぶり、俯き、惜涙を流す。ただただ思うことは、感じることは悔しさ。体の痛み。死への恐怖と妙な落ち着き。

護衛「(違う!私の不幸はそのような言葉で表せるほど軽いものではない!)」

護衛は叫びたかった。が、できない。

恐ろしかったからではない。そんな感情はもうすでにメーターを振り切った。

では何故か。

この男はこの男の人生の中で初めて認めてしまったのだ。

自らが間違っている。と。

月歌「俺の前で悲劇の主人公を名乗るなよ」

"ガッ"

護衛の頭の上に足をのせる。ちょうどあの魔法使いを殺したときのように。

月歌「…返吐がでる」

"グググ"

護衛「げ…あ…が…」

クレア「やめなさい!月歌!!」

月歌「!」

楽しそうな顔と一転し、どうしたのか、という表情でクレアを見る月歌。

月歌「何故だ?」

幼い子供をほうふつとさせるような表情で心底解らないというふうに首を傾げる月歌。

クレア「私は殺されていない!貴方も!」

月歌「それで?」

何かを察したように徐々に引き攣る月歌の顔。

ゴキブリや百足を見つけた時のようないいえない不快感が月歌を襲っている。

クレア「殺すことまではないだろう!私はこうやって生きているのだから!」

月歌「…それは冗談ではなく本気で言っているのか?」

月歌は足を下ろした。

クレア「…本気よ!」

"ブオン!!"

"ガッ"

クレア「くっ!」

月歌はクレアをおもいっきり殴った。

そしてクレアが地面に着かないうちに胸倉を掴み締め上げた。

月歌「寝ぼけてんのか!てめぇは!!」

叱咤。月歌はクレアの考え方に怒りを覚えた。

クレア「…寝ぼけてもふざけてもいないよ、私は本気で殺さないで。といっているの。」

月歌「…」

クレア「私は人が殺されることのないような平和を作りたいし、作るためにこの任務についている。それなのにここで無益な殺生をしたら元も子もないだろう」

月歌「自分の理想に矛盾する、と…?そういうことか…?」

クレア「そうよ、その通り」

月歌「…だが王は殺すんだろう…?」

クレア「…」

月歌「俺らの計画には必要だもんなぁ…!それって矛盾してねぇのかい?あんたの中ではよぉ?」

クレア「…ここの兵はきっと望んでこんなことをしている訳じゃない。あの屑の王に強要されているんだ」

月歌「だからといって…」

"カチャッ"

月歌「!」

クレア「!」

護衛「動くな!!」

いつの間にか月歌の足から逃れた護衛がこちらに銃を向けていた。

〔人物紹介〕

名前:麿寛司マロカンジ〔37〕

性別:男

身長:162㎝

体重:55キログラム

頭髪:薄い黒・短い

趣味:自画自賛

嫌いな物:馬鹿にされること

使用技能【基本の五指様】

モード『魔法』

能力の詳細:ほぼ全ての魔法使いが一番最初に覚える基礎の技

     ここからいろいろな魔法に発展させて行く。

備考:『ドラドジア』出身。『メギラ国』の『殺し屋』。

『メギラ国・橙装』にて月歌に殺害された。

これぞ魔法使い、というような姿をしているが、

魔法のセンスはほぼ皆無である。

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