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ゲーム廃人の夏休み

作者: morris

 今日から夏休みだ! 

 糞暑い太陽が俺をにらみつけるが、それに睨み返し、俺はルンルン気分で家路を急ぐ。学校の

馬鹿みたいな教師からは馬鹿みたいな量の宿題を出されたが、そんなもんテキトーに答えを

書き写してさっさと済ませてしまおう。

 今日から毎日遊び放題だ。好きな時間に起きて好きな時間に寝る。好きなゲームを飽き腐るほど

やりこみ、しょーもない動画漁りで一日を過ごす。最高だ。これこそ人間の正しい、

健康的な生き方という奴だ。

 まず記念すべき夏休み一日目は何をしようか。今嵌っているゲームでネット通信対戦でもしようか。

 そんなことを考えているうちに家に着いた。いつもなら歩いて十五分かかるのに、

十分ばかしで着いたことになる。自ずといつもより歩調が早まっていたんだろう。

「これも夏休みの力って奴か……」

 ぼそりと俺はつぶやく。それからマイルームに荷物を置いて、すぐさま制服とおさらばし、

ゲームの起動体制にかかる。この俊敏力は誰にも負けない自信がある。

ゲームが立ち上がる僅かな時間を利用してエアコンを付け、飲物を用意する。

完璧だ。俺の動きには一切の無駄がない。

 ゲームの起動音が鳴った後、俺はコンテニューボタンをひたすら連打する。遅い。最近のゲームは

最初立ち上がるのが遅いんだ。内容は面白いから許せるが。

 前回の続きの画面がようやくテレビに映し出される。やっとか。待ちくたびれた。

俺は見覚えのあるパーティを組み換え、レベルアップの旅に出た。

 


 このゲームは剣や魔法を駆使して戦ういわゆる王道RPGものだ。ただ少し違うのはキャラの育成の

自由度が格段に高く、プレイヤーそれぞれが育てたキャラは他のプレイヤーが育てたキャラと

かぶることはほぼないといっても過言ではない。しかもキャラの強さは対戦数に応じて強くなる

システム。つまり、ゲーム廃人ご用達のシステムなわけだ。しかも課金なんて甘えたシステムは

存在しない硬派なゲーム。俺は少しでも早くキャラを強くするため、寝る間を惜しんで

キャラ育成に取り組んでいた。それが夏休み初日ともなれば、勿論寝落ちするまで。

 俺は意地でも寝るまでコントローラーを離すつもりはないと固く心に決めた。

 そして俺は寝落ちした。



 目が覚めるとそこは森の中だった。俺は何か夢を見ているのだろう。ここはもう昼だろうか。

太陽が空のど真ん中に我が物顔で鎮座してやがる。爽やかな鳥の鳴き声が至る所から聞こえてくる。

それにしても喉が渇いた。何かないかと周りを見渡すと綺麗な湖を見つけた。一瞬湖の水を飲むことに

躊躇を覚えたが、喉の渇きには耐えきれず、湖に駆け寄り水をひたすら、ただ飲んだ。

 ああ。生き返った。俺の喉は潤された。ふと落ち着くと湖の水面に見かけない金色の髪が

反射しているのに気付いた。なんだろうかと湖に顔を差し出すとそこにはかつての俺とは全く違った姿が映し出された。その姿は金髪で、あろうことか超絶イケメンときた。女の子をナンパしたら

十人中十人が振り返るであろうイケメンぶりだ。夢の中と言えども、最高だ。

 しかしこの姿どこかで見覚えがある。俺は湖に映し出される自分の姿をよく観察した。

そうだ、思い出した。この姿は俺が今嵌っているゲームの主人公の姿じゃないか。俺は思わず苦笑した。ゲームのやりすぎで寝ててもゲームの夢を見るのか。しかし折角の夢だ。楽しむこととしよう。



 それからは毎日が楽しかった。俺がこの夢が夢じゃなくて現実だと知ったのはすぐだった。

モンスターと戦ったとき、ダメージを受けたら実際に痛いからだ。しかもダメージを受けるほど目が覚めるような痛い思いをする。俺がそれに気づいてからは、極力ダメージを受けないような

立ち回りをするように心がけた。ゲーム廃人だった俺にとってそんなことは造作もないことだった。

 俺にとって幸運だったことは、すぐにこの世界が現実だと気づけたこと。そして俺の身体能力が

主人公の身体能力そのままだったことだ。おかげで万年体育の成績が一の俺でもモンスターと戦うことは容易だった。しかも主人公補正というべきか、身の回りに起きることすべてが

俺にとって都合の良いことばかりで最高の時間を過ごすことができた。

 それこそもう二度度と現実世界へ帰りたくないくらいに。



 こっちの世界に来てから一か月が経とうとした頃だろうか。

俺はこのゲームの世界で無双しまくっていて、手に入らないものは無い状態だった。

もうそろそろこの世界でやることもなくなってきたので、

ニート生活でもしようかと思い始めるくらいに。そして戦うこともなくなり、一日を寝て過ごした。

 これがニートって奴か。時間が経つのは長いが、案外悪くない。

 その次の日、俺は馴染みのあるベッドで目が覚めた。手にはコントローラー。

俺は瞬時に糞みたいな現実世界へ戻ってきたことを察した。しぶしぶ体を起こして携帯を確認する。

すると何百件もの未読ラインの数が。何が起きたんだと俺は怪訝に思い、携帯の日付に目を滑らせる。

そこの日付は夏休み最終日を示していた。俺はそれが信じられなくて、慌ててネットを見る。

そこに示された日付も変わらず夏休みの最終日だった。

 俺は、俺がゲームの世界に居た時間、現実世界でも同じ時間が流れていたことを悟った。

そして俺がニートになった日、それはつまりゲームに飽きた時だったんだ。


そしてゲームに飽きた俺は現実を見る。


それが今日だった。



 俺はこれから答えを写さなければいけない宿題の量を考えるとぞっとした。


ゲームしすぎには注意です。

有意義な夏休みを過ごしましょう。

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