表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: zaku
9/26

木彫りの人形

 村上の家は3DKのマンションだ。

 「散らかってるけどあがれよ」

 村上に促されてカズは居間に座った。

 缶ビールを開けて二度目の乾杯をした。

 一口飲んでカズは村上に言った。

 「そういえば、美和ってさぁ…」

 「その話はもういいやろ」

 村上が珍しく話を遮って席を立った。

 少し苛立ったような村上の顔を見て、カズはそれ以上何も聞けなかった。

 どうしたんだろう。

 別に気に障るようなことは言ってないはずだ。それとも村上たちと美和との間に、何かあったのだろうか。

 しかも、あの村上が人の話を遮って席を立つほど話題にしたくない何かが―

 もしそうだとすれば、自分が気にしていることで、これ以上村上に不快な思いをさせる必要はない。

 今度美和と会ったときに、直接聞けばいいだけのことだ。

 さっきの村上の表情が気にはなったが、カズは自分を無理やり納得させた。

 「あのアーケードにあった楽器屋ってまだあるんかな…」

 村上が戻ってきたのを見計らって、カズは何事もなかったかのように話を変えた。

 「さぁ、どうやろ。客少なかったからつぶれたかもな」

 よかった。村上も笑顔だ。

 よし。美和のことは忘れて飲み直そう。

 カズは村上のグラスにビールを注いだ。

 そして、再び十五年前にタイムスリップして、時間を忘れて飲んで語り合った。


 カズはふと目を覚ました。目の前には村上の背中がある。

 そうか。村上の家だ。

 どうやら飲みすぎて、お互いそのまま居間で眠ってしまったらしい。

 カズは現実を把握した。

 村上は美和の話をしたとき、なぜあんなに嫌がったんだろう。

 カズは村上の背中をぼんやり眺めながら、そんなことを考えていた。

 そして再び目を閉じた。


 「キーン」

 体が動かない。

 カズは思わず目を開けて周りを見渡した。

 またか。

 しかし今日は村上がいる。いつもとは違う妙な安堵感があった。

 目の前には村上の背中。それを見ながら時が経つのをじっと待った。

 すると、村上の背中に木彫りの人形が浮かび上がった。その人形は不安定なコマのように弱々しく回転し、こちらの方向を向いて止まった。

 その人形の顔が、みるみるうちに淋しそうな女の顔に変った。

 長い黒髪に透き通るような白い肌。

 カズは目の前で起きている信じられないような出来事から、視線を外すことができなかった。

 そして、その女と目が合った。

 女はうっすらと笑みを浮かべた。

 次の瞬間、カズはものすごい力で両足を引っ張られた。

 カズは硬直していたはずの腕を、無意識のうちに居間のテーブルに絡ませた。

 気が付くと女の姿は消えていた。

 そしてカズの体は、首から下がすべてテーブルの下に隠れるほど移動していた。

 村上はこっちに背を向けて眠っている。


 午前二時十四分。

 またいつもの時間だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ